持ち前の飽き性と人間嫌いで20以上の職を転々とし、大正末に日本の探偵小説の創始者として登場した江戸川乱歩(えどがわ らんぽ)。
今回は、江戸川乱歩のプロフィールと代表作を紹介します!
Contents
江戸川乱歩の基本データ
※画像は「別冊一億人の昭和史 昭和文学作家史」(1977年8月発行 毎日新聞社)より抜粋
本名 | 平井太郎(ひらい たろう) |
出身地 | 三重県名張町 |
生きた時代 | 明治27(1894)年~昭和(1965)年 |
主な著書 | 『D坂の殺人事件』 『陰獣(いんじゅう)』 『孤島の鬼』 『怪人二十面相(かいじんにじゅうめんそう)』 |
尊敬した人 | 谷崎潤一郎 |
親交のあった主な作家 | 横溝正史(よこみぞせいし) 宇野浩二(うの こうじ) |
性格 | 自由気まま |
キーワード | 探偵小説・エログロ・耽美・転職・放浪癖 |
江戸川乱歩は本名を平井太郎と言い、1894年に生まれて1965年に亡くなった三重県出身の小説家です。乱歩の寄付を基金とした江戸川乱歩賞は、探偵小説の奨励のために制定されました。
また、乱歩は作家として本格的にデビューする前、江戸川藍峯(えどがわ らんぽう)という筆名で作品を書いていました。
ミステリアスな作風で知られる、アメリカ人詩人のエドガー・アラン・ポーにちなんだものです。その後、「江戸川乱歩」と筆名を変えて活動するようになります。
乱歩の記念館は、三重県にある「江戸川乱歩館」というところです。乱歩の業績をまとめた資料や、ベレー帽などの愛用品、作品のシーンを再現した展示物など、ファンにはたまらない内容となっています。
江戸川乱歩のプロフィール
学生時代
明治27(1894)年、平井太郎(江戸川乱歩)は三重県名張町に生まれ、4人兄弟の長男として育ちました。身体が弱く、学校を休みがちだった太郎は、夏目漱石や幸田露伴(こうだ ろはん)や泉鏡花(いずみ きょうか)に親しみます。
早稲田大学の政治経済学科に入学した太郎は、エドガー・アラン・ポーやコナン・ドイルの小説と出会い、暗号史を調べるなどミステリーへの関心を高めます。卒業論文には「競争論」を書きました(成績は2番)。
繰り返す転職
早稲田大学卒業後、太郎は貿易会社に就職します。実務家ぶりを発揮して多額のボーナスを手にしたものの、嫌気がさして旅に出てしまいます。以後、40歳頃まで働いては放浪するというパターンが続きます。
貿易会社を辞めてからは、タイプライターの行商、雑誌の編集、古本屋の開業、私立探偵の元での仕事など、多岐にわたる職に就きます。チャルメラを吹いて支那そばを売っていたこともありました。
作家としての成功
探偵小説に力を入れていた雑誌「新青年」に『二銭銅貨』『一枚の切符』を送った乱歩は、探偵小説家としてデビューすることになります。
20代前半でのデビューが当たり前だった戦前までの文壇で、28歳での乱歩のデビューは異例のものでした。さまざまな作品を世に送り出した後、『怪人二十面相』の連載を開始します。
戦中戦後
戦時中は作品を通して戦争協力をすることはなく、科学スパイものなどを書いてしのぎました。戦後は本格ミステリーの啓発に力を注ぎます。
そのうち、「探偵小説」という呼び名の代わりに「推理小説」という呼び名の方が一般化してきました。日本の探偵小説を開拓した乱歩は、推理小説の基礎固めをした作家と言えます。
晩年は高血圧とパーキンソン病に苦しみ、昭和40年にくも膜下出血によって70歳で亡くなりました。
江戸川乱歩の代表作
ここでは、乱歩の代表作をご紹介します。
『D坂の殺人事件』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
---|---|
発表年 | 1925年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 心理学×犯罪 |
『D坂の殺人事件』は、1925年に雑誌『新青年』で連載された江戸川乱歩の短編小説です。心理学と犯罪の関係が描かれています。明智小五郎シリーズの代表作です。
D坂とは、東京の文京区にある団子坂のことです。執筆当時、乱歩が団子坂付近に住んでいたためモデルになりました。
本作は乱歩の初期の作品で、本格派(謎解き・トリック・探偵の活躍などが中心にとなる推理小説)に分類されています。乱歩作品でおなじみのキャラクター・明智小五郎(あけち こごろう)が、最初に登場した記念すべき小説でもあります。
『黒蜥蜴(くろとかげ)』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
---|---|
発表年 | 1934年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 探偵小説 |
『黒蜥蜴』は、1934年に雑誌『日の出』(1月号~12月号)で連載された江戸川乱歩の中編小説です。
美人盗賊・黒蜥蜴と明智小五郎の対決が描かれています。作家・三島由紀夫の戯曲(脚本)を元に、2回映画化されています。
江戸川乱歩の魅力
乱歩作品の最大の魅力は、その引き出しの多さだと思います。
本格的なトリックを用いた探偵小説から、展開を二転三転させて読者を翻弄(ほんろう)するような「面白さ」を追求した作品、エログロに振り切った作品や、少年探偵団シリーズに代表される子供向けの作品まで。
乱歩が生み出した作品は、そうしたふり幅の広さが特徴です。
また、内容が非常に分かりやすいというのもポイントです。文章が簡潔で平易というのはもちろん、難解なトリックや複数の人物が登場するにも関わらず、中身がなんだかごちゃごちゃして途中からついていけなくなる……ということがないのです。
語りの中に「諸君、」という呼びかけが入って、内容をいったん整理するようなパートが設けられていたり、人物同士の利害関係などが複雑すぎないというのが要因なのではないかと思います。
乱歩作品には、このような読者を置いて行かない配慮がなされているように感じます。
引き出しが多い乱歩
ここでは、乱歩作品をいくつかピックアップしてその多彩さをご紹介します。
まずは探偵小説から。年に発表された『屋根裏の散歩者』は、犯人がじわじわ追い詰められる息のつまりそうな臨場感や、のぞき見のスリルが楽しめます。最後に大どんでん返しが待っている『二銭銅貨』も見逃せません。
そして、名探偵・明智小五郎(あけち こごろう)と女賊の黒蜥蜴の戦いを描いた『黒蜥蜴』は、そのスペクタクルな展開にページをめくる手が止まらなくなります。黒蜥蜴という、魅力的な悪役にも注目です。
続いては、少し趣きの異なる作品。2人の廃人の会話によって成り立つ『二廃人(にはいじん)』は、読後もやもやが残る作品です。全てを見透かされたうえで、手のひらで弄ばれる感覚が否めません。
戦前のエログロナンセンスの風潮の代表とされてきた乱歩は、非道徳的で耽美(たんび)な作品を生み出しています。
悪趣味な猟奇(りょうき)クラブで行われる、1人の男の告白が描かれた『赤い部屋』には、なんとも奇怪でおかしな空間が広がっています。
そして、ただただ気持ち悪くて後味が最悪な『人間椅子』。狂気をそのまま体現したような『鏡地獄』や『踊る一寸法師』にも注目です。
一方で、乱歩は恋愛要素のある作品も世に送り出しています。『押絵と旅する男』では、2次元への恋が描かれています。また先述の『黒蜥蜴』には、男女の感情の機微が描きこまれており、しめっぽさを演出しています。
以上のことより、乱歩がいかに引き出しの多い作家であるかがお分かりいただけたと思います。
最後に
今回は、江戸川乱歩のプロフィールと代表作をご紹介しました。
乱歩は、私にとって特別な存在です。というのも、推理小説嫌いを乱歩の作品と出会って克服できたからです。この記事をきっかけに、乱歩の沼にハマる人が増えればうれしいです!
本記事を書くにあたって参考にした文献は、以下に示した通りです。
『新潮日本文学アルバム 42 江戸川乱歩』(2008年4月四刷 新潮社)
『文豪どうかしてる逸話集』(2019年10月初版 KADOKAWA)