純文学の書評

【江戸川乱歩】『D坂の殺人事件』あらすじ・内容解説・感想

乱歩の初期の作品で、本格派(謎解き・トリック・探偵の活躍などが中心にとなる推理小説)に分類される『D坂の殺人事件』。乱歩作品でおなじみの明智小五郎(あけち こごろう)が、最初に登場した記念すべき小説でもあります。

今回は、江戸川乱歩『D坂の殺人事件』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『D坂の殺人事件』の作品概要

著者江戸川乱歩(えどがわ らんぽ)
発表年1925年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ探偵小説

『D坂の殺人事件』は、1925年に雑誌『新青年』で連載された江戸川乱歩の短編小説です。心理学と犯罪の関係が描かれています。明智小五郎シリーズの代表作です。

D坂とは、東京の文京区にある団子坂のことです。執筆当時、乱歩が団子坂付近に住んでいたため、モデルになりました。

著者:江戸川乱歩について

  • 推理小説を得意とした作家
  • 実際に、探偵をしていたことがある
  • 単怪奇性や幻想性を盛り込んだ、独自の探偵小説を確立した

江戸川乱歩は、1923年に「新青年」という探偵小説を掲載する雑誌に『二銭銅貨』を発表し、デビューしました。

その後、乱歩は西洋の推理小説とは違うスタイルを確立します。「新青年」からは、夢野久作や久生十蘭(ひさお じゅうらん)がデビューしました。

『D坂の殺人事件』のあらすじ

私は、カフェでコーヒーをすすりながら、向かいの古本屋を眺めていました。しばらくすると、カフェの前を探偵の明智小五郎が通ります。2人は並んで談笑しますが、古本屋の異変に気づきます。店の奥のふすまが閉まり、誰も店番をしなくなったのです。

私と明智が古本屋に駆け付けると、そこには明智の幼馴染である、古本屋の奥さんの遺体がありました。私は、目撃者の証言と明智の服装が似ていることに違和感を覚えます。

登場人物紹介

主人公。学校を出たばかりの無職で、カフェ巡りをして日々を過ごす。

明智小五郎(あけち こごろう)

私立探偵。主人公と仲良くなり、殺人事件の解決に乗り出す。

古本屋の奥さん

明智の幼なじみ。事件の被害者。

『D坂の殺人事件』の内容

この先、江戸川乱歩『D坂の殺人事件』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

「論より証拠」ならぬ「証拠より論」

古本屋の異変

は、D坂にある白梅軒(はくばいけん)という行きつけのカフェで安いコーヒーをすすり、向かいの古本屋を眺めていました。最近仲良くなった、明智小五郎という話のうまい人物の幼なじみが、その古本屋で働いているからです。

その幼なじみは古本屋の主人の奥さんで、美しい女性でした。じっと見ていると、店内の奥にある障子が閉まったのが見えました。監視カメラが無い時代なので、店の中は必ず見張っていなければなりません。

店の中には誰にもいないので、おそらく障子の隙間から見張っていたと思われましたが、その障子が閉まったのです。私が変に思ったとき、古本屋の奥さんの妙なウワサを思い出しました。

そのカフェのウエイトレスたちは、「古本屋の奥さんを銭湯で見た時、体が傷だらけだった」と言っていました。さらに、「古本屋の並びのそば屋の奥さんにも、傷やあざがあった」と話していたのです。

 

そんなとき、明智がカフェの前を通りかかって、私に気づいて中に入って来ました。一緒にコーヒーを飲みながら、2人は雑談をし始めます。2人の目は古本屋に釘付けです。

「気づいているようですね」と私が言うと、明智は「これで(万引きが)4人目ですね」と言いました。私と明智は、古本屋に行ってみることにしました。

奥さんの死

障子の向こうは、電気がついていませんでした。明智が障子を開けて電気をつけると、そこには奥さんの死体が横たわっていたのです。首が絞められているようでした。明智は警察に連絡します。

そのあいだ私は死体を眺めていましたが、妙なことに気づきます。それは、抵抗した跡が無いことです。やがて、警察が現場に駆け付けます。古本屋の隣にある時計屋の主人は、古本屋の主人について話し始めました。

それによると、主人は毎日、夜市で本を売っているため深夜0時まで帰らないのだと言います。近隣の店の人に聞いても、人の出入りはなく、物音もしなかったと証言されました。

 

何の手掛かりも見つけられずにいましたが、客として来ていた学生2人が、ある証言をします。1人は、「障子が閉まる瞬間に男が見えた。着物は黒かった」。もう1人は、「私も男を見た。しかし、着物は白かった」と言ったのです。

そうしているうちに、主人が帰ってきました。そして、奥さんの体の傷は自分がつけたと告白します。私は事情聴取が終わって明智と別れる時、明智の着物が白と黒のしま模様だったことが妙に気になりました。

真相

10日後、私は明智が住む宿を訪ねました。そこで、独自の調査に関して話し始めます。まず、障子は少ししか開いていなかったから白と黒のしま模様だったら、ある角度から見れば白で、ある角度から見れば黒ではないか?と言いました。

また、明智と奥さんは幼なじみだったということに言及します。その上で、2人には何かあったのではないか?と問いかけます。

さらに、古本屋の並びにあるそば屋のトイレからは裏口に出ることができ、そこから古本屋に入って奥さんを殺害した後、そば屋から外に出ることが可能だと示しました。そして、そば屋の主人は1人の男がトイレを借りたことを覚えていると証言したのだと言います。

ここまで話して、私は「君の弁明を聞こうじゃありませんか」と明智を疑いました。その瞬間、明智はげらげら笑い出しました。そして、明智による推理が始まります。

 

まず、明智は奥さんとは小学校のときの幼なじみで、今は何の関係も持っていないのだと言いました。

さらに、ミュンスターベルヒの『心理学と犯罪』を取り出し、「人間の記憶や観察力は当てにならない」とし、「君は物質的にしか事件を捉えていない。一番いい探偵法は、心理的に人の心の奥底を見抜くことです」と言いました。

明智による古本屋の主人への聞き取りの結果、奥さんはマゾヒストだったことが分かりました。主人は、奥さんに言われて気が進まないまま傷をつけていたのです。さらに、そば屋の主人はサディストだということも判明しました。

そば屋の奥さんの体の傷は、そば屋の主人がつけたものだったのです。あるとき、サディストのそば屋の主人と、マゾヒストの古本屋の奥さんが出会ってしまいました。そして、密会中にそば屋の主人は奥さんを誤って殺してしまったのです。

 

明智は、「これは合意の殺人だ」と言いました。そのとき、夕刊が明智の家に届きます。そこには、そば屋の主人が自首したという記事が、小さく載っていました。

『D坂の殺人事件』の解説

精神分析と探偵小説

初期の乱歩の作品は、探偵が事件の真相に迫る「本格派」と呼ばれるものが多いです。その後、大衆受けを意識して『パノラマ島奇譚(きたん)』『芋虫』などのグロくておどろおどろしい作品を書くようになりました。

初期の作風に影響を与えているのは、西洋から輸入された精神分析です。それは、それまで謎に包まれていた人間の心理を、科学を使って解明するというものでした。

サディスト・マゾヒストという概念は、今でも異常性癖とみなされていますが、一応「そういう人もいる」と認識されています。ところが、精神分析が発達するまでは、そうした人たちは狂人として扱われていました。

これを題材としたことや、明智が心理を重視して推理をしたことは、乱歩が精神分析の影響を受けたことの証拠になっています。

栗田卓「「推理」することと〈欲望〉すること : 江戸川乱歩「D坂の殺人事件」論」(立教大学大学院日本文学論叢 2014年9月)

『D坂の殺人事件』の感想

推理のコツは、心理を追うこと

そば屋の主人に殺意はなく、古本屋の奥さんも喜んで殺されたという、犯人不在のまさかの結末でした。

2人は姦通(かんつう。今の不倫に当たるもので、当時は法律で罰せられた)をしていたので、どっちみち主人は捕まるものの、純粋な殺人じゃないので読んだあと不思議な気持ちになりました。

また、「物質的な証拠は当てにならない」という明智の発言に驚きました。犯人の証言だけじゃ証拠にならないと言われてるくらいですし、犯罪の世界で物的証拠は絶対的なものだと思っていたからです。

それまで、探偵は「合理的」「超論理思考」「頭脳派」だと捉えていましたが、明智のおかげで、そればかりじゃ解決の糸口は見えてこないのだと分かりました。

最後に

今回は、江戸川乱歩『D坂の殺人事件』のあらすじと感想をご紹介しました。

乱歩の作風は、初期とそれ以降で雰囲気が違います。数少ない本格派の推理小説には『心理試験』というものがあるので、ぜひそちらも併せて読んでみて下さい!

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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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