純文学の書評

【太宰治】『ダス・ゲマイネ』のあらすじ・内容解説・感想

「ダス・ゲマイネ」は、ドイツ語で一般的な、通俗的なという意味です。また、津軽弁(太宰は青森県出身)のダスケ=だから、マイネ=だめだ、というのと掛け合わせた言葉です。

今回は、太宰治『ダス・ゲマイネ』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『ダス・ゲマイネ』の作品概要

著者太宰治(だざい おさむ)
発表年1935年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ自己分裂

雑誌の制作を通して、学生・画家・作家の交流が描かれます。作中に、太宰自身が新人作家として登場する珍しい作品です。

タイトルについては、ドイツ語から取ったという説や、津軽弁から取った説、両方を掛け合わせた説があります。苦悩・焦燥・困惑が、そのまま文章になったような小説です。

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『ダス・ゲマイネ』『走れメロス』を含む計11作品が収録されています。

著者:太宰治について

  • 無頼(ぶらい)派の作家
  • 青森の大地主の家に生まれた
  • マルキシズムの運動に参加するも挫折
  • 自殺を3度失敗

太宰治は、坂口安吾(さかぐち あんご)、伊藤整(いとう せい)と同じ「無頼派」に属する作家です。前期・中期・後期で作風が異なり、特に中期の自由で明るい雰囲気は、前期・後期とは一線を画しています。

青森の地主の家に生まれましたが、農民から搾取した金で生活をすることに罪悪感を覚えます。そして、大学生の時にマルキシズムの運動に参加するも挫折し、最初の自殺を図りました。この自殺を入れて、太宰は人生で3回自殺を失敗しています。

そして、『グッド・バイ』を書きかけたまま、1948年に愛人と入水自殺をして亡くなりました。

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『ダス・ゲマイネ』のあらすじ

佐野次郎は、甘酒屋で初恋の相手とよく似た菊という女性のもとに通っていました。そして、そこで音楽学校に通う馬場数馬と知り合います。佐野次郎は、馬場から雑誌を作ろうと誘われ、構想を練り始めます。

馬場は、親戚で画家の佐竹に挿絵を依頼し、雑誌の制作は着々と進んでいきます。そして新人作家の太宰治を迎え、4人は1回目の打ち合わせをするべく佐野次郎の家に集まりました。しかし、ここで事件が起きてしまいます。

登場人物紹介

佐野次郎(さのじろ)

帝国大学(現在の東大)に通う学生。馬場の才能を信じて雑誌作りに励む。

馬場数馬(ばば かずま)

金持ちの息子。上野の音楽学校に8年通っている。自意識過剰な人物。

佐竹六郎(さたけ ろくろう)

馬場の親戚。自分で描いた絵を売って生計を立てている。虚言癖のある馬場を軽蔑している。

太宰治(だざい おさむ)

佐竹の知り合いで、新進気鋭の小説家。

菊ちゃん

上野にある甘酒屋の娘。佐野次郎がひそかに好意を寄せている相手。

『ダス・ゲマイネ』の内容

この先、太宰治『ダス・ゲマイネ』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

太宰の内面の擬人化

馬場との出会い

25歳の大学生・佐野は、上野公園の甘酒屋に通っています。そこには、という17歳の少女がいました。菊は、佐野が通っていた芸者に似ていたため、佐野はお金のない時に菊を眺めに行くのでした。

その甘酒屋で、佐野は馬場という男と出会います。馬場は、「まだ本気を出していないだけ」と芸術家を気取る自称音楽家でした。しかし、佐野は馬場の話を素直に信じ、馬場と親しくなりました。

馬場のウソ

そんな時、佐野は馬場に「同人誌(自費で作る雑誌)を一緒に作らないか?」と誘われます。佐野は賛成し、馬場は親戚で画家の佐竹という人物に挿絵を依頼することを提案しました。

その後、佐野は上野動物園でスケッチをしている佐竹と偶然会います。佐竹は、馬場が佐野に話して聞かせた数々の武勇伝が、全てうそだと暴露しました。

音楽学校に8年いることを、馬場は「試験で能力を測られるのが嫌だから」と言いましたが、実際は音楽学校に通っているかすらも怪しいのだと言います。また、いつも持っているバイオリンのケースには、何も入っていないことを佐竹は知っていました。

佐野は、それでも「馬場さんを信じています」と佐竹に告げました。

告白

次の日、佐野の家には雑誌の打ち合わせという名目で、馬場・佐竹・佐竹の知人の太宰治という作家がやって来ました。ところが、感じの悪い太宰と馬場の雰囲気は悪く、口論に発展してしまいます。馬場は太宰を殴ってしまい、雑誌の話は流れてしまいました。

夜になり、佐野と馬場は本郷のおでん屋で飲み始めます。馬場は、「雑誌なんて、初めからやる気はなかったのさ。君を好きだから、君を放したくなかったから言い出したんだ」と思いを告げます。そして、「誰を1番好きなんだ?」と尋ねました。

佐野が、「僕は、誰もみんな嫌いです。菊ちゃんだけを好きなんだ」と言うと、馬場は「まあ、いい」とつぶやいて涙を流しました。佐野は、おでん屋を出て走り出します。

翌日、馬場は佐竹に「佐野がゆうべ電車にはねられて死んだのを知っているか?」と尋ねました。馬場は、自殺でもなく他殺でもなく、上手く災難に遭って死んだことを羨ましがります。

そして、馬場が「こうしていきているのは、なつかしいことでもあるな」というと、佐竹は「人は誰でもみんな死ぬさ」と言いました。

『ダス・ゲマイネ』の解説

政治批判?

『ダス・ゲマイネ』には、ファシズム批判がされていると読むことができます。ファシズムとは、極右な政治思想です。

資本主義の発達によって、経営者と労働者の貧富の差が開き、両者は対立するようになります。同時に、共産主義(「金持ちはいらない」という思想)が広まったり、帝国主義の影響で国家としてまとまろうという意識がめばえました。

こうして、イタリアで生まれたファシズムという思想は、ナショナリズム(自分の国が一番大事だという思想)と共産主義の思想が組み合わさって、世界中に広がりました。

 

日本でも、軍部の発言力が強くなったり、近衛文麿(このえふみまろ)首相がファシズムに似た政策を進めるなど、着実に浸透しました。当時の政治の風潮はこのファシズム一色で、政治に関与する=ファシズム賛成という雰囲気がありました。

同時に、ファシズムに対抗してデカダンス的に生活する人たちも現れました。デカダンスとは、規範や道徳と言った社会的なものを無視して、退廃的に生きることです。

ファシズムに反発するすべがなかったため、反ファシズム派は非社会的なデカダンスに陥ることで、ファシズムを批判しました。

『ダス・ゲマイネ』に登場する佐野は、デカダンスに陥っていました。そんな佐野を主人公にしたことから、本作からは反ファシズムのメッセージが読み取れるのです。

石原 みずき「太宰治「ダス・ゲマイネ」論 : 再生する文字」(百舌鳥国文 2001年 3月31日)

『ダス・ゲマイネ』の感想

自意識過剰

「自意識過剰」とは、自分が他社からどう見られているかを過剰に気にすることだと言います。一般に、『ダス・ゲマイネ』はこの自意識がテーマだとされています。

馬場は、手紙が他人に見られることを想定して、気取って手紙を書いています。さらに、太宰は窓の外を眺めたふりをして、「ちまたに雨が降る」と女のようなか細い声で言いました。どちらも、誰かに見られていることを意識しての行動です。

著名人は、おそらくこのように生活しているのだと思いました。いつ、どこで何をしていても絵になるように、一挙手一投足に気を配るのは、きっと想像するよりも疲れるのではないかと思います。

 

佐竹は、自意識過剰の振りをする馬場を、「本当に自意識過剰なら、自分を表現することなんてできない」と批判しています。これは、当時流行っていた「自意識過剰」を簡単に取り入れる、浅はかな若者への批判です。

これには、ファッションメンヘラを批判することと似たようなものを感じました。

最後に

今回は、太宰治『ダス・ゲマイネ』のあらすじと感想をご紹介しました。

太宰の初期の作品の中では有名な作品なので、ぜひ読んでみて下さい!

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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