純文学の書評

【又吉直樹】『火花』のあらすじ・内容解説・感想

2015年の上半期に芥川賞を受賞した『火花』。2017年には実写映画化もされて話題になりました。

今回は、又吉直樹『火花』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『火花』の作品概要

created by Rinker
¥509
(2020/12/01 20:24:55時点 Amazon調べ-詳細)

著者又吉直樹(またよし なおき)
発表年2015年
発表形態雑誌掲載
ジャンル中編小説
テーマ芸人の生きざま

『火花』は、2015年に文芸雑誌『文學界』(2月号)で発表された又吉直樹の中編小説です。主人公が、「師匠」とともにお笑い芸人として生きる様子が描かれています。

主人公が師匠として慕った神谷のモデルは、「烏龍パーク」というコンビの橋本武志(はしもと たけし)さんです。

2016年には林遣都さん主演でドラマ化されました。発行部数が約240万部、単行本の価格が1,200円であるため、売り上げは単純計算で約29億円と予想できます。『火花』は、文藝春秋から出版されています。ハードカバーと同じ装丁なのが嬉しい文庫版です。

created by Rinker
東宝
¥2,786
(2020/12/01 17:25:20時点 Amazon調べ-詳細)

2017年には、菅田将暉さんと桐谷健太さんのダブル主演で映画化されています。本業の漫才師をしのぐほどの、クオリティの高い漫才シーンは大きな反響を呼びました。

ポップコーン 映画『火花』

著者:又吉直樹について

  • お笑いタレント、小説家
  • 第153回芥川賞を受賞した作家
  • 太宰治に影響を受けた
  • 小説家・西加奈子と交流がある

又吉直樹は、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いタレント兼小説家です。2015年に『火花』で芥川賞を受賞しました。

中学生のころに太宰治『人間失格』を読んで、衝撃を受けたそうです。著名な作家との交流があり、特に小説家の西加奈子とは何度も対談を行っています。

『火花』のあらすじ

売れない芸人の徳永は、熱海の花火大会で先輩芸人の神谷と出会います。徳永は、神谷の独特なセンスに惹かれ、弟子入りを申し出ました。やがて、2人は一緒に出掛けたりお笑いについて語ったりして、仲を深めます。

数年が経ち、徳永のコンビは少しずつ結果を残し始めていましたが、神谷のコンビはぱっとしません。それでも、神谷は自身のスタイルを貫きました。徳永は、そんな神谷に惹かれていきます。

登場人物紹介

徳永(とくなが)

20歳の主人公。「スパークス」というコンビを組んでいる。熱海の花火大会で神谷と出会い、神谷に弟子入りする。

神谷(かみや)

24歳。「あほんだら」というコンビを組んでいる。常識外れの奇抜な発想の持ち主。

真樹(まき)

神谷を住まわせている女性。神谷と交際はしていない。

山下(やました)

徳永の相方。徳永とは中学時代からの友人。

大林(おおばやし)

神谷の相方。かつては地元で不良と恐れられていたが、情に厚い。

『火花』の内容

この先、又吉直樹『火花』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

芸人として生きることの大変さ

熱海の花火大会

「スパークス」というコンビ名で活動する徳永は、相方と一緒に花火大会で漫才を披露しています。しかし、花火に夢中な観客たちは立ち止まって漫才を見ることはありません。

誰にも見てもらえないまま自暴自棄(じぼうじき)になって持ち時間を終わらせた徳永たちとすれ違って、最後のコンビ「あほんだら」がステージに上がります。

あほんだらは、片方が「地獄、地獄、地獄、地獄、地獄」と繰り返し言う意味不明な漫才を披露しました。

 

徳永は、その常識にとらわれない自由な漫才に魅了されました。花火大会が終わった後、徳永は「地獄」を連呼した神谷という人物と居酒屋で話し込みます。

そして徳永はふと、神谷に「弟子にしてください」と頼みました。これが、徳永と神谷の出会いでした。

破局

花火大会から1年後、東京で活動するスパークスは徐々に知名度を上げ、ライブに呼ばれたり雑誌に取り上げられるようになりました。

同時に大阪で活動していたあほんだらも東京にやってきて、2人は頻繁に会うようになります。そして、徳永は神谷と同棲する真樹という女性の家に出入りするようになります。

 

3人は行動を共にしたり、ご飯を一緒に食べるようになりますが、あるとき徳永は神谷から「真樹の家に荷物取りに行くから手伝って」と声をかけられます。

「喧嘩ですか?」と徳永が聞くと、神谷は「真樹な、男出来てん」と言いました。神谷と真樹は、同棲はしているものの付き合ってはいなかったのです。

徳永は、真樹は神谷との曖昧な関係を終わらせたかったのだと悟ります。神谷は、真樹と別れてからも徳永と会い続けました。

そして、スパークスは徐々にメディアに注目されるようになります。一方で、あまりにも個性的な芸風の神谷は、未だに評価されないままでした。

解散

あるとき徳永は、神谷の相方・大林から「神谷は借金を背負っている」と知らされます。神谷は徳永とご飯に行くと必ずおごってくれましたが、それは借金をして無理に用意していたお金でした。

同時に、徳永の相方の山下は、結婚を機にスパークスを解散したいと申し出ます。家庭を持つために芸人を辞める山下を、徳永は祝福します。相方を失くした徳永は、芸人を辞めて不動産の会社に就職します。

就職してしばらく経ったころ、徳永は大林から「神谷の居場所を知らないか」と連絡をもらいます。そこで徳永は、神谷の住んでいたアパートに向かいます。しかし、神谷はすでにそこから引っ越していました。

豊胸

ある日、仕事を終えた徳永のもとに、知らない番号から着信がありました。1年ぶりに、神谷から連絡があったのです。徳永は、神谷がいる居酒屋へ向かいます。

連絡が取れないあいだ何をしていたのか徳永が尋ねると、神谷は「借金返済のためのお金を作っていた」と答えました。さらに、事務所をクビにされていたのだと言います。

 

徳永は、神谷の胸に何か違和感を覚えました。神谷は「おじさんの胸が大きかったら面白い」と考えて、豊胸していたのです。

それを見た徳永は、「神谷さんがそうすることによって、馬鹿にされているように感じる人がいるはず。そんなつもりがなくても、世間に受け入れられるはずがない」と、冷静に意見しました。

神谷は、「徳永だけには、笑って欲しかった」と言いながら、涙を流します。徳永は、そんな神谷を熱海旅行に誘いました。

そこで、徳永はお笑い大会の参加者募集のポスターを見つけます。2人はそれに向けてネタ作りを始め、神谷は「とんでもない漫才を思いついた」とはしゃぐのでした。

『火花』の解説

神谷が豊胸をした理由

神谷が豊胸をした理由は、結論から言うとキャラ作りのためです。神谷は、本当に面白い笑いを追求する人です。そのため、安易にキャラで売れることを良しとしていませんでした。

そんな中、神谷の前に現れたある1年目のピン芸人は、特徴的な顔立ちと強烈なキャラで大ブレイクしました。神谷は笑いのセンスがあるにもかかわらず、周囲の人に認めてもらえなかったせいで、キャラ立ちを重視する芸人に抜かれてしまったのです。

 

そして収入は乏しいままで、借金は膨らみ、年は重なり、恋人にも捨てられて、神谷は追い込まれていきます。

どうすれば売れるのかわからなくなった結果、「Fカップのおじさん」というキャラで徳永以外の人の心を掴もうとしたのです。しかし、その的外れな非常識さは、結局受け入れられるものではありませんでした。

『火花』の感想

夢追い人へ

徳永のようなお笑い芸人を始めとして、バンドマンや劇団員など、全ての夢追い人に刺さる作品だと思いました。

神谷は抜きんでた才能の持ち主ですが、突出し過ぎて周囲に受け入れられないという残念な人です。

どんなに技術を磨いても、才能があっても、こういう表現の世界にいる人は、運やタイミングを味方に付けなければならないのだと感じました。

火花と花火

『火花』の冒頭と結末は、両方とも花火大会です。ここで火花は、花火を構成する一部分と表現されています。火花は花火と違って一瞬で消えてしまいますし、花火のような華やかさはありません。

しかし、火花がなければ花火は存在できません。作者は、これを売れない芸人と売れる芸人に見立てたのではないかと思います。

 

又吉さん自身、インタビュー等で「売れない芸人がいるおかげで売れる芸人が引き立つし、売れる芸人は売れない芸人から学ぶ。だから売れない芸人はお笑い業界で大きな役割を果たしている」とよく話しています。

芸人を辞めて大輪を咲かせることのできなかった神谷と徳永は、花火ではなく火花です。

ですが、失敗したからアウトなのではなく、神谷と徳永の芸人人生は後輩たちの肥やしになると作者は伝えたかったのではないかと思います。

実際、サクセスストーリーではないのに終わり方が妙に明るいなという印象を受けました。失敗に価値を見出すという点で、とても前向きになれる小説です。

『火花』の書評

最後に

今回は、又吉直樹『火花』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

芸人さんが書いたということで、関西弁の会話がテンポよく繰り広げられる小説です。ところどころにギャグが盛り込まれていて、とても面白いです。

一方で、徳永が「芸人とは何か」についてひたすら考える哲学的な小説でもあります。ぜひ読んでみて下さい!

ABOUT ME
yuka
yuka
本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
あわせて読みたい

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です