純文学の流派

耽美派とは?代表作家を含めてわかりやすく解説

皆さんは、「耽美(たんび)」と聞くとどのようなイメージを思い浮かべますか?「反社会的」「悪魔崇拝」「デカダンス」など、マイナスのイメージを持つ人も多いかと思います。

今回は、耽美派という文学ジャンルを代表作家を含めて分かりやすく解説します。

耽美派とは?

一言で言うと、耽美派は「好みが分かれるジャンル」です。

耽美派は、19世紀後半に西洋で発達した文芸思想の一つで、日本には明治末から大正期に輸入されました。「美に耽(ふけ)る」と書くように、美しさに最高の価値を置くのが特徴です。

道徳や常識を超えてとことん美を追求するので、常人が思わず顔をしかめてしまうような、グロテスクだったり、非道徳だったりする描写が散見されます。だからこそ好き嫌いが分かれますが、己の世界観を前面に押し出す姿勢は、刺さる人には本当に刺さります。

世間からあまり受け入れられていないからこそ、逆に好奇心で覗いてみたくなるジャンルです。以下に代表作家をご紹介します。

耽美派の代表作家

谷崎潤一郎(たにざきじゅんいちろう)

その過激でスキャンダラスな作風から、「悪魔主義者」とも評されて、文壇の中でも異彩を放っていた谷崎潤一郎。彼は芥川と「小説とは何か」について議論を交わした人物でもあります。

谷崎は、そこで「面白い小説(起承転結があり、作り込まれた小説のこと)」が理想だと主張しました。その言葉通り、谷崎の作品は虚構性が強く、現実離れしたものが多いのが特徴です。

『痴人の愛』

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著者谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)
発表年1924~1925年
発表形態新聞・雑誌掲載
ジャンル長編小説
テーマ白・女性崇拝

『痴人の愛』は、1924年に「大阪毎日新聞」(3月20日~6月14日)に連載され、一時中断してから雑誌『女性』(1924年11月号~1925年7月号)に連載された谷崎潤一郎の長編小説です。

真面目な会社員の譲治は、ある日カフェ(酒を提供し、女性が男性に接待する場所)で出会ったナオミという女の子を、自分の家で養育し、一人前の女性に仕立て上げることを決めます。

ナオミは、初めこそ大人しく英語を習ったり音楽を習ったりして教養を身につけますが、徐々に本性を表します。わがまま放題の生活をしたり、譲治に反抗したりして、ナオミは少しずつ譲治を手なずけていきます。

「愚かでバカ」という意味の「痴」がタイトルに使われている時点で、ただならぬ雰囲気をまとっている作品です。

三島由紀夫(みしまゆきお)

昭和元年に生まれ、「昭和とともに生きた小説家」と説明される三島由紀夫。もともと財務省で働くスーパーエリートでしたが、ある時小説家に転向しました。

その後、右翼思想を掲げて政治活動に力を入れ、1970年に自衛隊を前に憲法改正のクーデタを呼び掛けた後、割腹自殺を遂げました。

近代化した現代で江戸時代の武士のように切腹をしたことは、当時多くの注目を集めた一大事件となりました。

『仮面の告白』

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著者三島由紀夫(みしま ゆきお)
発表年1949年
発表形態書き下ろし
ジャンル長編小説
テーマ同性愛

『仮面の告白』は、1949年に発表された三島由紀夫による書き下ろしの長編小説です。

人と違う性的指向(好きになる対象)に悩み、生い立ちから自分を客観的に分析していく「私」の告白がなされています。三島の出世作で、「三島の自伝的小説」と評されます。

主人公(男性)は、幼い頃から男性の汗の匂いや筋肉質な身体に魅力を感じるような人物でした。彼はそれを異常なことだと思い悩み、園子という女性と付き合い始めます。

しかし、彼女と付き合ってみても何も感じることはなく、結局惹かれるのは男性だということに気づき、主人公は自分が同性愛者であることを悟ります。

 

『仮面の告白』は、今よりLGBTへの理解が無かった時代に発表されました。そのため、三島は勇気を振り絞ってこの小説を書いたのではないかと思われます。

政治家としても、小説家としても活躍し、海外でも「ミシマ文学」の名で通っているスーパーエリートの出世作なので、日本人としてぜひ読んでおきたい1冊です。

【三島由紀夫】『仮面の告白』のあらすじ・内容解説・感想|名言付き時代遅れの切腹自殺をし、昭和の日本を震撼(しんかん)させた小説家・三島由紀夫。日本だけでなく、世界でも「ミシマ文学」として認められていま...

永井荷風(ながいかふう)

父親は留学経験のあるエリート官僚で、自身も海外への渡航経験がある裕福な家柄です。留学時の体験を生かした作品として『あめりか物語』『ふらんす物語』を執筆しています。

また、後に耽美派の代表作家として有名になる谷崎の才能を、いち早く見抜いて評価した重要な人物でもあります。

『濹東綺譚(ぼくとうきだん)』

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著者永井荷風(ながい かふう)
発表年1937年
発表形態書き下ろし
ジャンル中編小説
テーマ恋愛

荷風の作品の中で最高傑作と言われる『濹東綺譚』は、主人公と娼婦のお雪との出会いと別れが、季節の移り変わりとともに美しく描かれます。

タイトルの意味は、「隅田川東岸のお話」です。主人公とお雪は、玉の井という私娼街(ししょうがい。政府から認可を受けていない遊郭街)で出会いました。弾けるように明るいお雪が魅力的な小説です。

夢野久作(ゆめのきゅうさく)

「夢野久作」というのはペンネームで、福岡県の方言で「夢想家」を表します。彼の作品を読んだ父親の言葉から名づけられました。

出家経験のある特殊な作家で、『少女地獄』や『ドグラ・マグラ』など混沌(こんとん)とした作品を多く発表しました。

『ドグラ・マグラ』

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著者夢野久作(ゆめの きゅうさく)
発表年1935年
発表形態書き下ろし
ジャンル長編小説
テーマカオス

日本の3大奇書の中の一つに数えられる『ドグラ・マグラ』。常人には書けない、奇抜で常識外れな内容は、多くの人を驚かせました。

「これを読む者は、一度は精神に異常をきたす」という広告文で有名ですが、読んでいると本当に頭がおかしくなる小説です。

カオスな世界観は魅力的なのですが、それゆえに読めば読むほど意味が分からなくなります。論理的な思考に自信がある人はぜひ読んでみて下さい。

江戸川乱歩(えどがわ らんぽ)

江戸川乱歩は、1923年に『新青年』という探偵小説を掲載する雑誌に『二銭銅貨』を発表し、デビューしました。

その後、乱歩は西洋の推理小説とは違うスタイルを確立します。『新青年』からは、夢野久作や久生十蘭(ひさお じゅうらん)がデビューしました。

『黒蜥蜴(くろとかげ)』

著者江戸川乱歩(えどがわ らんぽ)
発表年1934年
発表形態雑誌掲載
ジャンル中編小説
テーマ探偵小説

『黒蜥蜴』は、1934年に雑誌『日の出』(1月号~12月号)で連載された江戸川乱歩の中編小説です。

美人盗賊・黒蜥蜴と、乱歩作品おなじみの明智小五郎(あけち こごろう)の対決が描かれています。三島由紀夫の戯曲(脚本)を元に、2回映画化されています。

【江戸川乱歩】『黒蜥蜴』あらすじ・内容解説・感想子供のころに『黒蜥蜴(くろとかげ)』を愛読した三島由紀夫は、それをもとに戯曲を書きました。そして、それは現代に至るまで演じ続けられている...

最後に

今回は、耽美派について解説しました。耽美派を一言で言うと「好みが分かれる」と書きました。

他のジャンルにはない刺激が欲しい人や、思いっきり振り切った芸術に興味がある人には自信を持っておすすめしたいジャンルです!

ABOUT ME
yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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