純文学の書評

【小川洋子】『夕暮れの給食室と雨とプール』のあらすじ・内容解説・感想

『夕暮れの給食室と雨とプール』は、2004年にアメリカの雑誌『ザ・ニューヨーカー』に英訳が掲載された作品です。『ザ・ニューヨーカー』は、村上春樹作品の英訳がたびたび掲載される雑誌です。

今回は、『夕暮れの給食室と雨とプール』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『夕暮れの給食室と雨とプール』の作品概要

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著者小川洋子(おがわ ようこ)
発表年1991年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ思い出

『夕暮れの給食室と雨とプール』は、1991年に文芸雑誌『文學界』(3月号)で発表された小川洋子の短編小説です。

海沿いの町に引っ越してきた主人公と、自宅にやってきた宗教勧誘員の交流が描かれています。『妊娠カレンダー』という文庫本に収録されています。

著者:小川洋子について

  • 1962年岡山県生まれ
  • 早稲田大学文学部文芸科卒業
  • 『揚羽蝶が壊れる時』でデビュー
  • 『妊娠カレンダー』で芥川賞受賞

小川洋子は、1962年に生まれた岡山県出身の小説家です。早稲田大学文学部文芸科卒業後、1988年に『揚羽蝶(あげはちょう)が壊れる時』で海燕(かいえん)新人文学賞を受賞しました。

1991年には『妊娠カレンダー』で第104回芥川賞を受賞し、一躍有名作家となりました。同時代作家の吉本ばななと並んで評価されることが多い作家です。

『夕暮れの給食室と雨とプール』のあらすじ

結婚間近の「わたし」は、1人で新居の片づけをしていました。そこへ、宗教勧誘をする父と子がやってきます。わたしは、2人の不思議な雰囲気に惹かれつつも、彼らに帰ってもらいました。

後日、ジュジュの散歩をしていたわたしは、小学校で親子と再会します。2人は、学校の給食室をのぞいているのだと言います。そして、男は給食室をのぞいている理由を話し始めました。

登場人物紹介

わたし

婚約者と住むため、海沿いの町に引っ越してきた主人公。

ジュジュ

わたしの飼い犬。わたしと一緒に引っ越してきた。

わたしの家にやって来た宗教勧誘員。小学校の給食室を眺めている。

子供

男の3歳2か月子供。ジュジュになつく。

『夕暮れの給食室と雨とプール』の内容

この先、小川洋子『夕暮れの給食室と雨とプール』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

幼少期の思い出

宗教勧誘員

わたし」は、飼い犬のジュジュと一緒に、海のそばにある町の古い家に引っ越してきました。わたしは、3週間後に婚約者が引っ越してくる前に、掃除や片付けを終わらせようと思います。

そんなとき、30代くらいのと3歳くらいの子供が訪ねて来ました。会話をするうちに、わたしは彼らが宗教勧誘員であることに気づきます。

しかし、2人は勧誘員特有の自信に満ち溢れた笑みを浮かべておらず、悲しげな目つきをしていました。それが、わたしを何となく惹きつけました。

夕暮れの給食室と雨とプール

ジュジュと散歩をしていたわたしは、小学校の裏門のところに宗教勧誘員の親子が立っているのを見つけました。男は、ここから給食室を眺めていたのだと言います。給食室の中では、食器がベルトコンベヤーに乗って次々と洗浄されていました。

それ以来、わたしはジュジュと散歩するときは小学校の裏門が見える土手を通るようになります。

その後、電話を買う余裕がなくて電報で婚約者とやりとりしていたわたしは、ちょうど寝ようとした時に「オヤスミ」という電報を受け取ります。感動したわたしは、「オヤスミ」を何度も何度も読み返しました。

 

裏門で例の親子と会ってから10日くらい経った日の夕方、わたしはまた2人を見かけます。わたしが男としばらく話していると、男は「夕暮れの給食室を見ると、僕はいつも雨のプールを思い浮かべるんです」と言いました。

男は、小学生の頃のプールの経験で、恐怖や恥辱、ひたむきさを学びました。そして、夕暮れの静かな給食室を見ると、集団に上手くなじめなかったころの胸の痛みを思い出すのだと言います。

さらに、昼休み前の給食室を覗いたことがきっかけで、男はものを食べられなくなってしまいました。そこでは、給食室のおばさんたちが、シャベルで鍋をかき回していたり、ゴムの長靴を履いたまま鍋の中に入って、じゃがいもを踏みつぶしていたりしました。

そして、プールと給食は同じ意味を持つようになり、プールの時と同様、男は給食を見るとたまらない気持ちになるのでした。そんなときに男と仲良くしてくれていた祖父が亡くなり、男は泳げるようになったのだと言います。

別れ

話をし終えた男は、勧誘の担当地区が変わったとわたしに告げました。去って行く親子を見送ったわたしは、「オヤスミ」という電報をまた読みたくなりました。

『夕暮れの給食室と雨とプール』の解説

グロテスクな食べ物

妊娠カレンダー』を読んだ時も感じましたが、小川洋子は食べ物をおぞましく描写する作家です。

「そのうちの一人が、シャベルでシチューをかき回していました。錆ついたシャベルや、筋だらけの肉や、たまねぎやにんじんが見え隠れしていたのです。
隣の鍋はサラダです。別のおばさんが鍋の中に入って、じゃがいもを踏みつぶしていました。黒いゴム長靴の底で。彼女が足を踏みしめるたびに、マッシュされたじゃがいもに長靴の底の模様が残りました。それは幾つも幾つも重なり合い、どんどん複雑な模様になっていきました」

これは、男が小学生の頃に見た給食室の光景を、「わたし」に語っている場面です。男は、普段自分が食べている給食と、給食室の食べ物が結びつかなくて、混乱しました。

屠殺(とさつ)を待つ汚れた豚と、しょうが焼きが結びつかないのと似ていると思いました。

他にも、小学校の全校生徒が食べる「千個のたまねぎ、十キロのバター、五十リットルのサラダオイル……」が加工されることが語られます。

人間1人1人が食べる綺麗に整った「食事」ではなく、量としての「食糧」が生々しくグロテスクに描かれている作品です。

『夕暮れの給食室と雨とプール』の感想

しっとりした作品

『夕暮れの給食室と雨とプール』は、霧や雨などの湿り気を帯びたイメージに包まれています。「わたし」が海沿いの町に引っ越してきたのは、「霧に包まれた冬の朝」です。

ここから、梅雨の時期のじめじめしてまとわりつくような霧ではなく、皮膚をなでていくようなさらさらした霧であることが分かります。このように、湿り気はありつつも、すがすがしい気候であることが冒頭部で示されています。

 

一方で、マイナスのイメージを付与されているのは、雨です。

男は「雨が降ると、プールの風景は救いようがなくなってしまいます」と言い、プールサイドに残った雨粒の染みが残っていることや、プールの水面が雨で波打ち、魚がエサを求めてうごめいているようだと話します。

そして、男の中でそのプールの不気味さと給食室は結びついていきます。霧と雨が、作中で付与されるイメージには差がありますが、両者に共通しているのは「湿り気」です。

前半に霧が、後半に雨が登場することで、作品全体がしっとりとした雰囲気になり、タイトルの「雨」のイメージをより濃いものにしているのではないかと思いました。

最後に

今回は、『夕暮れの給食室と雨とプール』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

主人公として据えられている人物の過去ではなく、主人公が出会った男の過去が語られ、それを主人公が聞くという興味深い小説です。ぜひ読んでみて下さい!

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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