純文学の書評

【芥川龍之介】『杜子春』のあらすじ・内容解説・感想|感想文ヒント付き

『杜子春』は、中国の唐~宋時代に書かれた小説がベースとなっています。ストーリーはほぼ同じですが、結末が童話風にアレンジされています。

今回は、芥川龍之介『杜子春』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『杜子春』の作品概要

著者芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
発表年1920年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ児童文学

中国の古典を童話風にアレンジした作品です。原典との違いは解説で触れます。1979年には「赤い鳥のこころ」で、1978年には「まんがこども文庫」でそれぞれアニメ化されています。

著者:芥川龍之介について

  • 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
  • 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
  • 35歳で自殺
  • 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立

芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。芥川は作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。堀は、芥川を実父のように慕いました。

しかし晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺してしまいます。

芥川とは学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。

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『杜子春』のあらすじ

唐の洛陽。夕暮れ時に西門の下にたたずんでいた杜子春のところに、不思議な老人が現れます。老人は杜子春に「ここを掘るように」と指示して去って行きました。杜子春が言われたとおりにすると、そこからは大量の金が出てきました。

それを繰り返すうちに、杜子春は人間の薄情さに気づいていきます。あるとき、杜子春はその老人に弟子入りすることにしました。老人が出した条件は、「一言も口をきいてはいけない」ということでした。

登場人物紹介

杜子春(とししゅん)

主人公。大金持ちの息子で、遊んで過ごして財産を無くすことを繰り返す。

仙人

豪遊する杜子春を弟子入りさせ、杜子春をまともな人間にする。

『杜子春』の内容

この先、芥川龍之介『杜子春』のストーリーを結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

質素な幸せを噛みしめよ

不思議な老人

唐の都・洛陽。ある春の日暮れ、杜子春という若者が西門の下でぼんやりと空を見上げています。杜子春は金持ちの息子ですが、親の遺産を遊んで使い果たし、今は乞食(こじき)のようになっていました。

そんな杜子春を哀れんだ不思議な老人は、「この夕日の中に立つて、影の頭のところを夜中に掘るといい。車いっぱいの金が埋まっているから」と言いました。実行した杜子春は大量の金を手に入れ、たちまち大富豪になりました。

繰り返し

杜子春は、手に入れたお金で立派な家を買い、酒や肉を存分に口にし、クジャクを放し飼いにし、宝石を集めたりと豪華な生活を始めました。すると、それまでは道で会っても挨拶してくれなかった友人たちがやってくるようになりました。

半年が経つ頃には、洛陽の名の知られた美人で、杜子春の家に来ない人は誰もいないほどになりました。杜子春は、この客たちに毎晩食事をふるまい、もてなしました。

しかし、1~2年と経つとそんな暮らしもしていられなくなり、だんだん貧乏になり始めます。そうすると、杜子春の家に来る人は徐々に減っていきました。そして3年目の春、杜子春一文無しになってしまいました。

 

そこで杜子春は、3年前と同じように西門の下で空を見上げます。そこへ、例の老人がやってきて「この夕日の中に立つて、影の胸のところを夜中に掘るといい。車いっぱいの金が埋まっているから」と言いました。

そして杜子春は再び大金持ちになり、豪華な暮らしをスタートさせます。しばらくして、車いっぱいの金は底をついてしまいました。

弟子入り

するとまた老人がやってきて、同じことを繰り返そうとします。杜子春はそれを制して「お金はもういりません」と言いました。そして「人間というものに愛想が尽きたのです」と告げます。

杜子春は、自分がお金を持っているときにだけやって来て、お金が尽きると離れていく人間の薄情さにうんざりしていたのでした。しかし貧乏な暮らしはしたくないので、「あなたは仙人でしょう。弟子入りさせてください」と頼みました。

 

仙人は快く承諾し、2人は峨眉山(がびさん)に向かいます。そして、「おれが戻ってくるまで、一言も口をきいてはいけない」と言って去って行ってしまいました。

そんな杜子春を、数々の魔物が襲います。しかし、どんなに攻撃されても杜子春は声を出しませんでした。抵抗しない杜子春は殺されて、地獄に落ちてしまいます。

地獄にて

地獄に落ちた杜子春は、閻魔(えんま)大王に峨眉山にいた理由を聞かれますが、一向に答えません。怒った大王は、死んで馬に姿を変えた杜子春の父と母を連れて来させます。

 

大王は、鬼に2匹の馬をむちで打つように命じます。杜子春は、なおも声を出しません。そんな時、杜子春の耳にかすかな声が伝わってきました。

「私たちはどうなっても、お前さえ幸せになればいい。大王が何と言っても、言いたくないことは黙っていなさい」。それは、まぎれもなく母の声でした。

目の前には、肉が裂け、骨が砕けた瀕死(ひんし)の馬が横たわっています。杜子春は馬の頭を抱き、「お母さん」と叫びました。

改心

目を覚ました杜子春は、夕日を浴びて西門の下に立っていました。今までの出来事は、仙人が見せていた幻だったのです。老人は、「もしお前が黙っていたら、おれはすぐお前を殺してしまおうと思っていた」と言いました。

そして、「お前はもう仙人になりたいと思っていないだろう。大金持ちにもなりたくないのなら、これからどうするつもりだ?」と仙人が問いかけると、杜子春は「人間らしい、正直な暮しをするつもりです」と答えます。

すると、仙人は畑付きの家を杜子春に与えて去って行きました。

『杜子春』の解説

原典との違い

『杜子春』は、『杜子春伝』という中国古典を題材にしたものです。大きな違いは3つあります。

 

1つ目は、杜子春が声を出すきっかけです。原典では、杜子春は女性に生まれ変わって子供を産みます。その子供が叩き殺されているのを見て、思わず声を上げてしまうのです。一方「杜子春」では、杜子春は地獄で鞭打たれる父母を目にして声を出しました。

2つ目は、仙人になれなかった時の杜子春の態度です。原典では、杜子春は仙人になれなかったことを残念がりますが、『杜子春』では「仙人にならなくてよかった」と杜子春は言っています。

3つ目は、結末の仙人の態度です。原典では、仙人は自身の仙薬を完成させられなかったことを悔しがり、杜子春に冷たく当たります。『杜子春』では、仙人は声を上げた杜子春を評価し、家を与えるなどして温かく接しています。

このことから、『杜子春』では仙人も杜子春も、仙人になるよりも平凡で温かい生活をした方が良いと認識していることが分かります。この違いは、『杜子春』が児童向けの作品であることが関係しているのかもしれません。

劉金挙・王宗傑「「杜子春」におけるキャラクター像及びその「家庭教育」的効果について」(札幌大学総合研究 2018年3月)

『杜子春』の感想

やはり、母の愛は偉大だなと思いましたし、杜子春が暴走しすぎずに改心できたのは良かったです。

引っかかったのは、最後に仙人が畑付きの家を与えたことです。金持ちの家に生まれて豪華な生活ばかりしていた杜子春が、普通の農民のような貧乏暮らしじゃやっていけないだろうという配慮があったのかもしれませんが、至れり尽くせりな待遇には違和感を覚えました。

童話なので仕方ないのかもしれませんが、正直ちょっと甘いなと思ってしまいました。

『杜子春』の感想文のヒント

    • 幸せとは何か
  • なぜ母親の声だけが聞こえたのか
  • 杜子春は、なぜ老人が仙人だと見抜けたのか
  • 両親は、なぜ地獄に落ちたのか

作品を読んだうえで、5W1Hを基本に自分のなりに問いを立て、それに対して自身の考えを述べるというのが、1番字数を稼げるやり方ではないかと思います。感想文のヒントは、上に挙げた通りです。

ネットから拾った感想文は、多少変えたとしてもバレるので、拙くても自力で書いたものを提出するのが良いと思います。

『杜子春』の朗読

『杜子春』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。

最後に

今回は、芥川龍之介『杜子春』のあらすじと内容解説、感想をご紹介しました。

芥川は古典を題材にした小説を多く書いているので、彼の作品を読むと漢文や古文の勉強に役立つと思います。全文は青空文庫にあるので、ぜひ読んでみて下さい!

青空文庫 芥川龍之介『杜子春』

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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