純文学の書評

【江戸川乱歩】『鏡地獄』のあらすじ・内容解説・感想

好奇心から恐怖への気持ちの変化が、球体の鏡の中で男が発狂することを通して自然に描かれる『鏡地獄』。

今回は、江戸川乱歩『鏡地獄』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『鏡地獄』の作品概要

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発表年1926年
カテゴリー短編小説
ジャンル探偵小説

『鏡地獄』の着想は、「科学画報」という雑誌に掲載された「球体の内面をすべて鏡にしたら、どんな像が映るのでしょうか?」という質問から得られました。

乱歩自身、幼い頃からレンジや鏡が好きで、『押絵と旅する男』『湖畔亭(こはんてい)事件』にもレンズや鏡が登場します。

著者:江戸川乱歩について

  • 推理小説を得意とした作家
  • 実際に、探偵をしていたことがある
  • 単怪奇性や幻想性を盛り込んだ、独自の探偵小説を確立した

江戸川乱歩は、1923年に「新青年」という探偵小説を掲載する雑誌に『二銭銅貨』を発表し、デビューしました。

その後、乱歩は西洋の推理小説とは違うスタイルを確立します。「新青年」からは、夢野久作や久生十蘭(ひさお じゅうらん)がデビューしました。

『鏡地獄』のあらすじ

Kの友人は、幼い頃からレンズやガラス、鏡が好きな少年でした。中学生になって凹レンズと出会ってからというもの、その魅力の虜になってしまった友人は、実験室を作って研究に没頭するようになります。

その後Kは、タブーに触れた友人のとんでもない姿を目にします。

登場人物紹介

Kの友人。5~6人で集まって話をしていたとき、Kが語ったことに心惹かれる。

K

私を含める友人たちに、数奇な話を聞かせる。レンズ狂の「彼」の友人。

Kの友人。レンズや鏡が好きで、実験室を作って研究に没頭するようになる。

『鏡地獄』の内容

この先、江戸川乱歩『鏡地獄』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

鏡に魅せられたマッドサイエンティスト

レンズ好きの「彼」

ある時、主人公のは、5~6人で集まって怖い話や珍しい話をしていました。最後にKが語った話に、私は異様に心を打たれました。

Kには、幼いころからレンズや鏡が好きな友人がいました。は、珍しい鏡を集めては、その魅力に心を奪われていきます。中学生になって物理を学び始めると、彼のレンズ狂には拍車がかかりました。大小様々な鏡を買いあさっては、奇妙な装置を作って楽しみます。

中学校を卒業すると、彼は高校には進学せずに、庭に実験室を作ってそこに籠(こも)るようになりました。

狂人

それからというもの、彼は実験室に入り浸って外出をしなくなり、外の世界との関係を断っていきました。さらに彼の両親は病気で亡くなってしまったため、彼は思う存分研究に没頭するようになります。

望遠鏡を使って人の家の中をのぞいたり、ノミを半殺しにして苦しむ様子を観察したりと、彼は徐々に狂気じみてきます。

そのうち、彼は小間(こま)使いを雇うようになり、特に18才の美しい娘を可愛がりました。そして、実験室内に作った鏡張りの部屋で、彼女と遊ぶのでした。

鏡地獄

ある時、Kのもとに彼の使いがやって来ます。急いで彼の実験室に行ってみると、そこには玉乗りの玉を一回り大きくしたようなものが、左右に転がり回っていました。中からは、笑いのような唸(うな)りが響いてきます。

小間使いに話を聞くと、中には彼がいるのだと言います。Kが球体をたたき割ると、発狂した彼が出てきました。眼は血走り、髪は乱れて顔の筋肉をゆるませてゲラゲラ笑う彼の姿は、非常に恐ろしいものでした。彼は、そのまま亡くなってしまいました。

『鏡地獄』の解説

彼が見たもの

彼が球体の中で何を見たかは、Kの想像でしか語られないのでよく分かりません。乱歩が着想を得た「科学画報」の質問の答えを以下に引用します。

その球面の一部に対する焦点と物体の位置に従つて色々になります。即ち反対側から球の中心迄は前面に倒立して実物より小なる実像、中心から焦点(球面と中心の中央と見てよい)迄は倒立して実物より大なる実像、焦点から鏡面の間に人が来ると倒立し実物より大なる虚像となります。その他の方向でも同様にして距離の関係から色々の場合が生じます。

故に人が例へば前面を見ると起立した大きな像を見るのに背面を見ると倒立した小さな像を見たり、頭上はその中間の変な形になつたりしたものを見るわけです。(「科学画報 八月鎖夏号」)

これによると、鏡張りの球体の中では、大小さまざまな像と、ゆがんだ像が見えるそうです。では、なぜ球体の中に入った男は発狂したのでしょうか?

この疑問を解くカギは「混乱」です。鏡に映る自分は、像なのでニセモノの自分です。鏡が1枚の場合は、鏡の向こうにいる自分の1人なので、そこまで混乱することはありません。

しかし、球体の中では自分の像が量産されます。そういう光景を見てるうちに、本物の自分とニセモノの自分がごっちゃになって混乱してしまったと考えることができないでしょうか?

また、目をつぶったとしても、目は「見る」ことができます(夢、幻覚など)。彼は、目を閉じても見える像から逃げられなくて、発狂したとも考えられます。

 

根拠はないですが、私は「彼は薬物を乱用したような状態に陥ったのではないか?」とも思いました。薬物乱用者には、世界がゆがんで見えたり、幻覚が見えたり、見えないはずものが見えたりします。薬物乱用者だけでなく、精神異常者もそうだと思います。

球体の中は、まさにそのような人が見る世界を再現している場所なので、その中に入った彼は、文字通り狂人になってしまったのではないでしょうか。このような「正常から異常への移行」も、テーマの1つなのかと思いました。

中川成美「視覚性のなかの文学:――江戸川乱歩「鏡地獄」の世界――」(日本文学  2011年)

『鏡地獄』の感想

混とん

終盤に向けてのカオス度の高まりがすさまじく、「どうなるの?どうなるの?」とドキドキしながら読み進めました。

ただのレンズ好きから、異常な執着を見せるようになる過程が描かれていて怖かったです。同時に、そんな男に付き合っていた娘も、ただ者じゃないと思いました。

彼がもし死ななかったら、きっと彼はマッドサイエンティストになっていたんだろうなと思います。踏み入れてはいけない領域に入ってしまったという点で、なんとなくクローンの研究に没頭する科学者と彼を重ねてしまいました。

 

レンズや鏡が見せる不思議な(ゆがんだり、増えたり、拡大したりする)世界の描写が増える後半部を読むと、本当に気が狂ってしまいそうになります。このカオスさを助長してるのは、これが実話かどうか分からないというところだと思いました。

冒頭で、語り手の私は「ほんとうにあったことか、Kの作り話なのか、私にはわからぬ」と言っています。同時に、語り手はKから話を聞いたときの状況について、「不思議な話を聞かされたあと」「ドンヨリと曇った日」「空気がよどんで」いたとしています。

こうした周囲の環境もあって、Kの話は一層現実味を帯びないというか、ふわふわした捉えどころのないものになります。冒頭の記述は、夢想のようなKの話に入りやすくするための細工なのではないかと思いました。

最後に

今回は、江戸川乱歩『鏡地獄』のあらすじと内容解説、感想をご紹介しました。短時間でトリップできる作品なので、ぜひ読んでみて下さい!

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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