『伊豆の踊子』は、川端が19歳の時の体験がもとになっている作品です。
今回は、川端康成『伊豆の踊子』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『伊豆の踊子』の作品概要
著者 | 川端康成(かわばた やすなり) |
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発表年 | 1926年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 恋愛 |
『伊豆の踊子』は、1926年に文芸雑誌『文藝時代』(1月号)で発表された川端康成の短編小説です。
孤独や憂鬱から逃れるために旅に出た青年が、旅先で踊子の少女に恋心を抱く様子が描かれています。1933年から6回に渡って映画化されています。モデルとなったのは、静岡県にある明治12年創業の「福田屋」という宿です。
著者:川端康成について
- 新感覚派の作家
- 新人を発掘し、育てた
- ノーベル文学賞を受賞した
- ガス自殺した
川端康成は、大学卒業後に作家の横光利一(よこみつ りいち)らと雑誌『文藝時代』を作り、新感覚派の作家として活躍しました。岡本かの子、三島由紀夫などの新人を発掘し、世に送り出した功績は大きいです。
1968年にノーベル文学賞を受賞しましたが、72歳で動機不明のガス自殺をしました。
『伊豆の踊子』のあらすじ
自分の性格が歪んでいることに気付いた主人公の「私」は、伊豆の旅に出ました。その途中で、私は旅芸人の一行に出会います。私はその中の踊子に惹かれ、同時に一行と行動を共にすることで性格のゆがみが解消されたような気分になりました。
私は、東京に帰る前に踊子を映画に誘いましたが、母親に反対された踊子は姿を見せませんでした。私は、1人で映画を観て涙をこぼします。そして、ついに別れの時はやってきてしまうのでした。
冒頭文紹介
『伊豆の踊子』は、以下の一文からはじまります。
道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい速さでふもとから私を追って来た。
情景が映像として目の前に浮かんでくる一文です。特に、単に雨が降るとするのではなく、「雨脚が密林を白く『染める』」としたのが印象的です。
登場人物紹介
私
東大を目指す学生が行く一高(いちこう)に通う20歳の主人公。伊豆に旅に出て、そこで出会った旅芸人と行動を共にする。
踊子
14歳で、家族経営の旅芸人の一員。主人公が17歳くらいだと思うほど、大人びた見た目をしている。
『伊豆の踊子』の内容
この先、川端康成『伊豆の踊子』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
身分違いの恋
旅芸人と私
主人公の私は、自分が孤児であることからくる「孤児根性」を克服しなければならないという思いに駆られ、 その息苦しさに堪え切れず1人で伊豆に出かけます。
そして、道中で出会った旅芸人(旅をしながら芸をしてお金を稼ぐ人のこと)の一座の17歳くらいの踊子に惹かれ、伊豆半島の南部に位置する下田まで一緒に旅をすることになりました。
一座を率いているのは踊子の兄で、彼らは家族で旅芸人をしていました。私は、泊まった宿で湯に浸かっているとき、踊子が川の向こうの湯殿から無邪気に手を振っているのを見ます。私は吹き出し、彼女は大人びて見える子供なのだと思いました。
上手くいかない恋
私は、旅芸人たちとの身分の違いを気にすることなく、彼らと交流します。人の温かさを肌で感じ、私は自分の孤児性格が治りそうだと悟りました。
下田に着いたとき、私は踊子とその兄嫁を映画に連れて行こうとします。しかし、兄嫁の母親が反対したため、私は1人で映画を観に行くことにしました。
その最中、遠くからかすかに踊子が叩く太鼓の音が聞えてくるような気がして、私は思わず涙を流しました。
別れ
そして別れの日、まだ眠っている女性たちを置いて、私は見送りに来た踊子の兄と下田港の乗船場まで来ました。私は乗船場へ近づくと、海の方で踊子がうずくまっているのを見つけます。
私は、踊子にいろいろ話しかけますが、彼女はうなずくばかりで一言も発しません。私が船に乗ると、踊子は「さよなら」と言いかけて、もう一度うなずきました。
船が遠ざかってから、踊子は白いものを振り始めます。私は涙をぽろぽろこぼし、何も残らないような甘い快さを感じるのでした。
『伊豆の踊子』の解説
格差
「一言で言うと」に、「身分違いの恋」と書きました。あらすじでは触れませんでしたが、主人公と旅芸人たちの間には、圧倒的な社会的地位の差があります。
主人公は一高の学生ですが、一高というのは東大に行く前に通う学校です。そしてこのような高等教育を受けられるということは、未来の日本を担うエリートであることに加えて、莫大な財産の持ち主であることを意味します。
一方で、旅芸人は物乞いと同等の扱いを受けており、社会的な地位はものすごく低いです。そのため、本作では旅芸人への差別があからさまに描かれていたりするので、教科書に載るときはそのような部分はカットされることも多いです。
しかし『伊豆の踊子』のすごいところは、身分の高い主人公が、そういった偏見を持たないでフラットに旅芸人と接しているところです。こうした心が、主人公の歪んだ性格を修正したのだと思います。
『伊豆の踊子』の感想
『伊豆の踊子』の言葉
最後の「何も残らないような甘い快さ」というのがものすごく心に刺さりました。別れに、「甘い」という言葉を使うのが本当にすごいと思います。ノーベル賞作家というだけあって、言葉選びのセンスが他の作家とは別格です。
川端のハイセンスな文章は、一度目にしたら忘れられなくなる中毒性があります。また、踊子が何も言えなくなってしまうのもいじらしいです。
きっと、主人公がいなくなってしまうのは寂しいけど、自分の身分で引き止めるのはおこがましいし……でも別れるのは嫌だし……という風に心の中で悩んだ結果、何も言えなくなってしまったのかなと思います。
身分が違いすぎるせいで成就しない淡い恋でしたが、そのおかげで他で見ることができないくらい、切ない物語に仕上がっています。
『伊豆の踊子』の朗読音声
『伊豆の踊子』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。
最後に
今回は、川端康成『伊豆の踊子』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
ノーベル賞作家である川端康成の代表作なので、日本人として読んでおきたい1冊です。青空文庫にはまだありませんが、電子書籍化されていて手軽に手に入るので、ぜひ読んでみて下さい!