純文学の書評

【夢野久作】『死後の恋』のあらすじ・内容解説・感想

『死後の恋』は、読者を混乱させる天才・夢野久作の作品で、主人公の独白で物語が進む作品です。

今回は、夢野久作『死後の恋』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『死後の恋』の作品概要

著者夢野久作(ゆめの きゅうさく)
発表年1928年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ悲恋

『死後の恋』は、1928年に雑誌『新青年』(10月号)で発表された夢野久作の短編小説です。

ロシア革命直後のウラジオストクで、通行人をつかまえては自身の身の上を話す奇妙な男が、日本人の軍人に「死後の恋」の話を聞かせる物語です。久作が得意とする、独白体形式で語られます。

著者:夢野久作について

  • 日本の探偵小説三大奇書『ドグラ・マグラ』の著者
  • 書簡体小説を書いたり、独白体を用いることが多い
  • 小説家、詩人、禅僧、陸軍の軍人、郵便局長という経歴を持つ

奇抜、幻惑という言葉がぴったりな作家です。久作の作品を読めば、「あ、この人なんか違う」と直感で分かります。

『ドグラ・マグラ』は、「読むと精神に異常をきたす」という衝撃的な広告文がつけられた小説です。当時の精神病患者への差別や、人非人(にんぴにん。人でなし)としてぞんざいに扱われた精神病患者の様子が描かれます。

『死後の恋』のあらすじ

ロシアのウラジオストクに、自身の数奇な体験を話して回る男がいました。男の名はコルシコフと言って、貴族という身分を隠して従軍していました。

コルシコフは、軍でリヤトニコフという美形の少年兵と出会い、親交を深めます。リヤトニコフは他人には言えない秘密を持つ人物でした。リヤトニコフの秘密を知ったコルシコフは衝撃を受けます。

登場人物紹介

コルシコフ

24歳の元兵士。「死後の恋」のことを話して回る。

リヤトニコフ

17~18歳の少年兵。かつて、コルシコフと同じ軍隊に所属していた。

日本人の軍人

コルシコフに呼び止められ、話を聞くことになった軍人。

『死後の恋』の内容

この先、夢野久作『死後の恋』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

信じるか信じないかは、あなた次第

「死後の恋」の話

ロシアのウラジオストクで、貧相な身なりの1人の男が日本人の軍人に話しかけています。なんでも、「死後の恋」というものの存在を認めてくれれば良いのだと言います。

その貧相な男は、それまで色々な人に「死後の恋」の話をしてきたけれど、馬鹿にされるばかりで誰にも信じてもらえなかったのです。軍人が話を聞くことを承諾すると、男は喜んで話し始めました。

 

男は、コルシコフという名の貴族でした。しかし、革命によって両親を失い、自暴自棄になって白軍(反革命派)の軍人になりました。その後、コルシコフは軍隊でリヤトニコフという男と出会います。

コルシコフは、リヤトニコフにどことなく気品があるような、貴族の血を引いているような雰囲気を感じ取りました。2人は意気投合し、宗教や政治、芸術の話をして一気に距離を縮めます。

リヤトニコフの秘密

あるとき、リヤトニコフは敵の陣地に遠征することになってしまいました。出発の前日、コルシコフがリヤトニコフにお別れを言いに行くと、リヤトニコフはコルシコフを人気のないところに連れて行きました。

そして、リヤトニコフは内ポケットから布の袋を取り出し、中を見せます。なんとそこには、20~30粒の見事な宝石が詰まっていました。元貴族で宝石が好きなコルシコフは、その美しさに目をくらませます。

そしてリヤトニコフは、自分の身の上を語ります。実は、リヤトニコフはロマノフ王家の血を継ぐ者で、革命によって一家が虐殺され、血が途絶えることを避けるために、家から出されたのでした。

そして、王家の出身であることを隠して生き延び、結婚して子孫を残すための資本として、宝石を渡されていたのです。そしてリヤトニコフが白軍の軍人になったとき、仲間が「ロマノフ家の人間が殺されたらしい」と話しているのを聞きます。

 

リヤトニコフは、じきに自分の身分もバレて殺されてしまうことを恐れていました。一方でコルシコフは、リヤトニコフが貴族だとは気づいていたものの、王族の血を引いていたとは思っておらず、驚きます。

また、そのころの王室には女性しかおらず、王室は跡継ぎとなる男子を最も必要としていました。そのため、コルシコフは「なぜ、わざわざ男子であるリヤトニコフが王室の外に出されたのか?」と疑問に思います。

さらにコルシコフは、リヤトニコフがなぜこれほど重大なことを自分に明かしたのか不思議に感じました。

 

コルシコフは話を聞いてくれている日本人の軍人に、「私はその宝石が欲しくてたまらなくなったのです」と告白しました。そして、コルシコフは「リヤトニコフが戦死するのでは」と予感し、宝石欲しさにその遠征に参加することを決意したのです。

衝撃の事実

翌日、コルシコフとリヤトニコフを含む軍は出発し、目的地まであと少しというところまで来ました。ところがその時、敵の軍に発砲されてコルシコフは負傷してしまいます。しかし、仲間は気づかずに森の中に避難してしまいました。

 

コルシコフは何とか動けるようになると、1人で目的地に行こうか迷いました。しかし、なんとなく心が引かれ、仲間が逃げた森に向かいます。コルシコフは、そこで驚くべき光景を目にします。

木の1本1本には、全裸の死体がくくり付けてあったのです。そして、それらはコルシコフの仲間たちでした。彼らは、眼をえぐり取られたり、歯を砕かれたり、耳をちぎられたりしており、傷口からは血をひものように垂らしています。

口を引き裂かれたり、鼻を切り開かれて笑っているようなものもありました。振り返ると、そこにはリヤトニコフの死体がぶら下がっており、それを見たコルシコフは悲鳴を上げました。

なんと、リヤトニコフは女性だったのです。口元の猿ぐつわの跡を見て、敵の軍人に強姦されたのだと悟りました。結婚費用として渡された宝石は、腹部に打ち込まれた銃弾によって破れた胴体にへばり付き、キラキラと光っていました。

終劇

リヤトニコフは、「死後の恋とはこの事を言うのです」と軍人に言いました。そして、「彼女は私と結婚したいと思い、大切な宝石を見せたのだ。彼女の私を愛する気持ちが、私を森に呼び寄せたのだ」と告げます。

その上で、コルシコフは再度話を信じてくれるか軍人に尋ねます。軍人は、信じると言ったようです。コルシコフは、リヤトニコフの血にまみれた宝石を、軍人にお礼として差し出しました。

しかし、軍人はそれを拒否して去って行きます。コルシコフは、「ま、待って下さいッ……。ああッ……アナスタシヤ内親王殿下……」と言いました。

『死後の恋』の解説

ウソなの?ホントなの?

コルシコフは、とにかく誰かにこの話を信じてもらおうと必死です。日本人の軍人は、話を聞き終わったときは信じるそぶりを見せたようでしたが、コルシコフから宝石を渡されると去って行ってしまいました。

結論から言うと、私たち読者にはコルシコフの話がウソかホントか判断できません。コルシコフは、自分が「キチガイ」であることを認めていますし、何より軍人に語っているときにお酒を飲んでいます(酔っぱらいの言うことは、たいてい信じられませんよね)。

ですが、同時にウソだと決めつける証拠もありません。狂人は時代を先取りした人(地動説を唱えたガリレオも、当時は変人扱いされていました)とも言うことができ、コルシコフが変人でも、彼を全否定することはできません。結局、真相はやぶの中なのです。

なぜ信じて欲しかったのか?

コルシコフは、なぜ変人と思われてまで、話を信じて欲しかったのでしょうか?それは、コルシコフが居場所を求めていたからだと考えられます。

元貴族のコルシコフは、革命によって両親を殺されてしまいました。再び貴族として生きようものなら、コルシコフはもれなく殺されます。つまり、コルシコフはもう貴族にはなれないのです。

そして、次に見つけた居場所は軍隊でした。ところが、その仲間たちも皆殺しにされてしまします。次にコルシコフが求めたのは、自分に好意を抱いてくれたリヤトニコフとの結びつきです。

 

しかし、リヤトニコフがコルシコフに好意を抱いていた証拠はありません。コルシコフは、「リヤトニコフは自分を好きでいてくれたはずだ」と信じているだけなので。もしかしたらとんだ勘違いかもしれませんが、それを勘違いでなくさせるのが、第三者の承認なのです。

第三者が話を信じてくれれば(コルシコフの独りよがりでなくなれば)、コルシコフとリヤトニコフは思い合っていることが証明されます。

そして、コルシコフには心のよりどころができるというわけです。そのために、コルシコフは必死に誰かの承認を求めていたのです。

最後の一言の意味

「アナスタシヤ」というのは、ロマノフ王家の4人の皇女の末っ子です。コルシコフが最後に「アナスタシヤ内親王殿下……」と言ったのには、2通りの解釈ができます。

1つ目は、日本人の軍人が実はアナスタシヤだった場合です。そう考えると、1度はコルシコフの言うことを信じた軍人が、急に手のひらを返したことが納得できます。妹の血がべっとりついた宝石なんか、誰も欲しくないからです。

2つ目は、リヤトニコフがアナスタシヤだった場合です。このときコルシコフは、またしても聞き手から拒絶され、承認を求めて恋しい人に呼びかけたのではないかと考えられます。

畑中佳恵「夢野久作「死後の恋」の「宙づり」効果」(Comparatio 2001年3月)

『死後の恋』の感想

死体と宝石

そこの処の皮と肉が破れ開いて、内部から掌ほどの青白い臓腑がダラリと垂れ下っているその表面に血にまみれたダイヤ、紅玉、青玉、黄玉の数々がキラキラと光りながら粘り付いておりました。

芥川龍之介『奉教人の死』を思わせる結末も印象的ですが、一番の見せ場は、やはり死体と宝石のコントラストだと思います。あらすじでは省いていますが、コルシコフが森にいるときはすでに夜になっていて、コルシコフは火を焚いています。

さらに、コルシコフは森の少しへこんだ場所にいて、周りは木に囲まれています。四方を木に囲まれ、その1本1本には残虐な仕打ちを受けた死体がくくられていて、それらは燃え上がる火に照らされているのです。想像しただけで、その恐ろしさに鳥肌が立ってきます。

そして、極めつけはリヤトニコフの死体です。撃ち抜かれた胴体からは内臓がこぼれ落ち、そこには宝石がへばりついて輝いているんです。これほどグロくて美しいシーンがあるでしょうか?

 

この話が嘘か本当かはいったん置いておいて、私はこの場面の虜になってしまいました。一枚の絵として浮かび上がってくるというか、『死後の恋』はこのワンシーンを書くためだけに描かれたのではないかと思えてきます。

最後に

今回は、夢野久作『死後の恋』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

コルシコフの狂人ぶりが面白いですし、内容を知ってから読んでも結末には驚かされるので、ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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