純文学のあらすじ

【江戸川乱歩】『二銭銅貨』のあらすじと内容解説・感想|朗読音声付き

『二銭銅貨』は、特殊な暗号と巧妙なトリックが登場する江戸川乱歩の処女作です。

今回は、江戸川乱歩『二銭銅貨』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『二銭銅貨』の作品概要

著者 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ)
発表年 1923年
発表形態 雑誌掲載
ジャンル 短編小説
テーマ いたずら

『二銭銅貨』は、1923年に雑誌『新青年』で発表された江戸川乱歩の短編小説です。ある大泥棒が逮捕されたことをきっかけに、2人の貧乏人の日常が一変する様子が描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:江戸川乱歩について

  • 推理小説を得意とした作家
  • 実際に、探偵をしていたことがある
  • 単怪奇性や幻想性を盛り込んだ、独自の探偵小説を確立した

江戸川乱歩は、1923年に「新青年」という探偵小説を掲載する雑誌に『二銭銅貨』を発表し、デビューしました。

その後、乱歩は西洋の推理小説とは違うスタイルを確立します。「新青年」からは、夢野久作や久生十蘭(ひさお じゅうらん)がデビューしました。

『二銭銅貨』のあらすじ

「私」と松村は、下駄屋の2階で貧乏生活を送っていました。そんなとき、世間をにぎわせていた大泥棒が逮捕されます。大泥棒はある工場から5万円を盗みますが、決してその金の在り処を明かしませんでした。

そんなとき、「私」と一緒に暮らしている松村が奇妙な行動をし始めます。私が煙草屋でつり銭として受け取った二銭銅貨について聞いたり、東京の地図を広げて何か作業をしたりする松村を、私は興味深そうにながめます。

そしてある朝、大きな風呂敷包みを持った松村が私の前に現れます。その風呂敷の中には、泥棒が盗んで隠した5万円が入っていたのでした。

登場人物紹介

貧乏な若い男。下駄屋の2階に松村武と同居している。

松村武(まつむらたけし)

私と同居している男。二銭銅貨の仕掛けに気づき、大泥棒が隠した5万円の在り処を探し出す。

大泥棒

ある電気工場から5万円を盗み、どこかに隠した。

『二銭銅貨』の内容

この先、江戸川乱歩『二銭銅貨』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

暗号トリック×どんでん返し

大泥棒

」と松村武が場末の貧弱な下駄屋で貧乏暮らしをしていたころ、1人の大泥棒が世間を騒がせていました。その泥棒は、とある電気工場から巧妙な手口を使って5万円(約5億円)を盗み出します。

ある刑事の活躍によって泥棒は逮捕されましたが、泥棒は5万円の在り処(ありか)を語りませんでした。困った工場の支配人は、5千円の懸賞金をかけることにしました。

5万円の在り処

貧乏暮らしをしている私と松村は、春になると少し金銭的な余裕が出ます。冬に使っていた羽織や火鉢などを質屋に持っていけるからです。

そんな春のある日、私が銭湯から帰ると、松村は興奮した様子で机の上に置いてあった二銭銅貨について私にたずねました。私が「煙草を買ったときの釣り銭だ」と言うと、松村は「それはどこの煙草屋だ」などと詳しく問い続けます。

そして、私が「煙草屋の娘が監獄の差入れ屋と結婚したと聞いた」と告げると、松村は急に黙って6畳の部屋の中を歩き回ります。私は、そんな松村の様子を一種の興味を持ってながめました。

 

それから1人で外食に行った私が部屋に帰ってくると、松村は盲目のマッサージ師を呼んでいました。全財産が20円の貧乏な2人にとって、60銭のマッサージはこの上ないぜいたくです。しかし、松村は「これにはわけがあるんだ」と私に言いました。

マッサージ師が帰ると、松村は2枚の紙切れを出してしきりに何かを書いています。夜になると、松村は東京の地図を広げて熱心に何かをしているのでした。

そして、松村は私に「10円を貸してくれないか」と言いました。松村の行動に興味を持っていた私は、全財産の半分である10円を松村に渡しました。

翌朝、目を覚ました私の目の前には、昨日とは全く違う格好をした松村が立っています。そして、松村は「この風呂敷包みの中には、5万円という金がはいっているのだよ」と言いました。

松村の推理

松村は、「これは大泥棒が隠していた5万円だ」と私に告げます。しかし、松村は警察には届けないと言いました。

大泥棒は、自身の刑が重くなるのを覚悟して、決して5万円の在り処を言いませんでした。その5万円を届け出たのが松村だと知られたら、大泥棒は復讐しに来ると松村は考えたからです。そして、松村は5万円を見つけた経緯を自慢げに話し始めました。

 

私が銭湯に行った日、松村は二銭銅貨が上下に開くことに気づきます。そして、その中には1枚の紙切れが入っていました。そこには、「南無阿弥陀仏」の6文字のいずれかを組み合わせた意味をなさない文字列が書いてありました。

松村はこれが暗号であることに気づき、さらに「大泥棒が5万円の在り処を相棒に知らせるために作ったものではないか」と考えました。

また、煙草屋の娘の夫は監獄の差入れ屋であることを知った松村は、ますます暗号と大泥棒の5万円に関係があることを疑います。

 

そして、松村は「南無阿弥陀仏」の暗号が点字を利用したものであることに気づきました。松村は、点字を教えてもらうために盲目のマッサージ師を呼んだのでした。

暗号を解いてみると、「ゴケンチョーショージキドーカラオモチャノサツヲウケトレウケトリニンノナハダイコクヤショーテン(五軒町の正直堂からおもちゃの札を受取れ、受取人の名は大黒屋商店)」という文ができました。

松村は、大泥棒が5万円と大黒屋商店が注文していたおもちゃの札を入れ替えたのだと悟り、わざわざ変装をして正直堂から5万円を受け取ってきたのでした。

種明かし

そこまで聞いた私は、急に大笑いします。そして暗号文を8文字おきに呼んで「ゴジャウダン(ご冗談)」という言葉を示し、これが誰かのいたずらである可能性を指摘します。

松村は注意深く風呂敷の中の札を見てみると、それはすべておもちゃの札であることが分かりました。

実は、正直堂は私の遠い親戚の店でした。店におもちゃの札があることを知った私は、大泥棒の事件を利用したいたずらを思いついたのでした。そして、私はなぜ自分があの二銭銅貨を手に入れたのかを、決して語らないのでした。

『二銭銅貨』の解説

犯罪の連鎖

乱歩が描く犯罪は、コソ泥のつまらない犯罪ではなく、思わず称賛したくなるような鮮やかで機知に富んでいる犯罪です。

冒頭で、「私」と松村は大泥棒に「うらやましい」という思いを抱いています。もちろん、大泥棒が大金を持っていることに対してですが、大泥棒が頭脳を生かして見事な犯罪を犯ししていることそのものへの羨望もあると思います。

「二人の多少知識的な青年が、ひと間のうちに生活していれば、そこに、頭の良さについての競争が行われるのは、至極あたり前のことであった。」とあるように、私と松村は頭脳の優劣を競い合うような関係だったからです。

 

私はそんな松村を出しぬこうと、話題になっている大泥棒の犯行に目をつけました。そして、自分の頭脳を駆使して暗号を解読したことを自慢し、大金を手に入れて得意気になっている松村に恥をかかせたのでした。

この私の行動から分かるのは、「犯罪は連鎖する」ということだと思います。乱歩は、犯罪にあこがれるうちに本当に犯罪を犯してしまうような人物を描いたりします。

今回の私のいたずらは疑似犯罪ですが、それが本物の犯罪になってしまう可能性もあるのではないかと思いました。

なぜかと言うと、私は特殊な二銭銅貨を持っているからです。私が「或る人」から二銭銅貨をもらったと語っていますが、そんな二銭銅貨を作れる人とのコネクションを持っている時点で、だいぶ犯罪に近い人物だと考えられます。

 

もしくは、「或る人」から二銭銅貨をもらったというのは嘘で、本当は自分で作ったのかもしれません。いずれにせよ、私が犯罪に使えるツールを手にしていることは確かなので、今後私が第二の大泥棒になることもありうると思います。

なぜ二銭銅貨?

『二銭銅貨』を読んでいて、「なぜ1銭銅貨でも半銭銅貨でもなく、2銭銅貨なのか?」と疑問に思いました。そこで、2銭銅貨がトリックに使われた理由について考えました。

そのためには、まず作品世界がいつの時代なのかを知る必要があります。しかし、作中には明確な年代が書かれていないため、2銭銅貨の流通状況をヒントにしたいと思います。

2銭銅貨は1887年に製造ストップとなりました。新しく製造されなくなった通貨が、何年後に完全に流通しなくなるのか分かりませんが、2003年に新規製造されなくなった2千円札は、17年経った2020年現在ほぼ流通していません。

 

『二銭銅貨』が発表されたのは、製造ストップから36年経った1923年です。2千円の製造停止から17年後の現在、2千円札があまり流通していないことを考えると、1923年の話だと考えるのには無理があるように感じられます。

このことを踏まえると、作品の中の時代は明治時代なのではないかと推測できます(明治時代は1912年まで)。

 

明治時代に流通していた銅貨は、2銭・1銭・半銭・1厘の4種類です。金貨・銀貨は高価なものであるため、ここでは省きます。

大きさを比較してみると、2銭銅貨は31.81mm、1銭銅貨は27.87mm、半銭銅貨は21.81mm、1厘銅貨は15.75mmとなります(文鉄・お札とコインの資料館)。こうしてみると、2銭銅貨は他の硬貨と比べるとずば抜けて大きいことが分かります)。

今の500円玉は26.5mmなので、それと比較してもいかに2銭銅貨が大きいかが分かります。さらに2銭銅貨の写真を確認してみると、今の硬貨よりも厚みがあることが分かりました。

2銭銅貨が犯行に使われた理由は、当時流通していた他の硬貨に比べて大きく、厚かったからだと分かりました。

『二銭銅貨』の感想

だます乱歩

出しぬいたと思った方が、実は出しぬかれていて拍子抜けするという、逆ドッキリのような面白さがある小説です。

乱歩の作品をいくつか読めば、「今回はこの人物が仕掛け人か」とだんだん分かるようになってきますが、分かってても毎回「そうくるのか」思ってしまいます。それくらい、乱歩は盛り上げたり読者をだましたりするのが上手いです。

 

松村の奇妙な行動(部屋をうろうろして考えたり、二銭銅貨のことを詳しく聞いたり、地図を持ち出したりするなど)を目にした私は、ひたすら興味津々な様子でそれを見つめます。

普通に読むと、このシーンは私がたんに松村の行動を面白おかしいものとして捉えているのだと受け取れます。

しかし、仕掛け人が私だと知ってからその場面を読むと、全然違うものに見えてきます。実は、私は自分のトリックに引っかかって真剣に推理する松村を、高みの見物で見ていたのです。

乱歩は、それを読者にさとられないように、どうにでも受け取れる「一種の興味を持って見つめた」という風な言い方をしたのです。巧妙なトリック以上に、そのような読者をだます小説の書き方が、乱歩の魅力だと感じました。

『二銭銅貨』の朗読音声

『二銭銅貨』の朗読音声はYouTubeで聴くことができます。

最後に

今回は、江戸川乱歩『二銭銅貨』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

最後にどんでん返しが待っている、乱歩らしい小説です。青空文庫でも読めるので、ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

ABOUT ME
yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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