純文学の書評

【三島由紀夫】『潮騒』のあらすじ・内容解説・感想|名言付き

漁師と海女の純粋で素朴な恋愛が描かれる『潮騒』。何度も映画化されるほど大人気で、三島の代表作と言える作品です。

今回は、三島由紀夫『潮騒』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『潮騒』の作品概要

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著者三島由紀夫(みしま ゆきお)
発表年1954年
発表形態書き下ろし
ジャンル中編小説
テーマ恋愛

『潮騒』は、1954年に発表された三島由紀夫による書き下ろしの中編小説です。若くて純粋な漁師と海女の恋愛が描かれています。三重県の歌島(うたじま)が舞台となっており、1954年から5度に渡って映画化されました。

2013年に放送されたテレビドラマ「あまちゃん」に登場する架空の映画「潮騒のメモリー」には、『潮騒』をパロディ化した内容が含まれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:三島由紀夫について

  • 小説家、政治活動家
  • ノーベル文学賞候補になった
  • 代表作は『仮面の告白』
  • 割腹(かっぷく)自殺した

三島由紀夫は、東大法学部を卒業後に財務省に入省したエリートでしたが、のちに小説家に転向します。ノーベル文学賞候補になったこともあり、海外でも広く認められた作家です。同性愛をテーマにした『仮面の告白』で一躍有名になりました。

皇国主義者の三島は、民兵組織「楯の会」を結成し、自衛隊の駐屯地で演説をした後に割腹自殺をしました。

『潮騒』のあらすじ

歌島という文明から隔絶されたような小さな島に、新治という18歳の漁師が暮らしていました。ある日、新治は島で初江という少女に出会います。

初江は村の有力者の娘で、養子に出された後に島に戻ってきたのでした。新治は、初江の名前を聞くだけで動悸がするようになります。その後、2人は何度か会って仲を深めます。

そんなとき、新治に思いを寄せていた千代子が初江の悪い噂を流します。それを知った初江は父親は、初江が新治と会うことを禁止してしまいました。しかし、2人の思いは募ります。

冒頭文紹介

『潮騒』は、以下の一文からはじまります。

歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である。

冒頭では、歌島についての説明がされています。特に、「文明から離れている」というところが強調されています。

登場人物紹介

新治(しんじ)

18歳の無口な漁師。父は戦時中に亡くなり、母と弟と暮らしている。

初江(はつえ)

照吉の末娘の海女。養子に出されていたが、兄が亡くなったため実家に呼び戻された。

照吉(てるよし)

初江の父。跡取り息子を亡くしたため、養子に出していた未婚の初江を呼び戻し、婿を迎えようとする。

千代子(ちよこ)

東京の女子大に通う19歳の娘。春休み中に島に帰省している。新治に気がある。

安夫(やすお)

島の権力者の19歳になる息子。初江と結婚しようとしている。

『潮騒』の内容

この先、三島由紀夫『潮騒』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

三島史上最も純情な恋愛物語

初江との出会い

三重県の歌島で漁師をしている新治は、貧しい家で母と弟と暮らしています。ある日、新治は浜で見覚えのない少女を見かけ、なんとなく心惹かれました。

その少女は初江といって、島の有力者である宮田照吉の娘でした。初江は養子に出されていましたが、照吉の跡取り息子が亡くなったため、島に呼び戻されたのです。

新治は、いつしか「初江」という名前を聞くだけで胸をときめかせるようになりました。そんな中、村のいろいろな場所で顔を合わせることが増えた2人は、次第にお互いのことを意識し出し、惹かれ合っていることに気づきます。

悪い噂

雨の降る日に、2人は待ち合わせをしました。早く来た新治は、火をたいているうちに眠ってしまいます。ふと目を覚ますと、初江が濡れた肌着を脱いで乾かしていました。

裸を見られた初江は、新治にも裸になるように言います。2人は抱き合いますが、初江は「今はいかん。私、あんたの嫁さんになることに決めたもの」と言いました。

 

あるとき、東京から実家のある島に戻っていた千代子は、新治と初江が一緒にいるところを見てしまいます。新治に気があった千代子は初江に嫉妬し、初江との結婚を意識していた安夫に告げ口しました。

やがて、新治と初江の噂は初江の父の照吉の耳にも入り、照吉は初江が新治が会うことを禁止します。そのため、2人はこっそり手紙を交換して交流を続けました。

そんな健気(けなげ)な2人に手を貸したのは、新治の親方です。彼は、仲間に手紙の配達の手助けをするよう言ってくれました。また、年配の海女たちは新治と初江の悪い噂が嘘だと主張してくれます。

試練

そんなとき、新治はある船の船長から「見習いとして船に乗らないか」と誘われました。実はその船は照吉のもので、照吉は初江との婚約の条件として、新治と安夫に修行の機会を与えたのでした。

ここで船に乗って手柄を立てれば、安夫に勝てるかもしれないと思った新治は、不安と希望を胸に船に乗ることを決めました。

 

ある嵐の夜、新治と安夫は港のブイと船をつなぐワイヤーを監視していました。切れてもすぐ対応できるようにするためです。

やがてワイヤーは切れてしまい、船の持ち主である照吉は「誰か、命綱と船をつないでくるやつはおらんか」と乗組員にたずねます。

安夫は唇を震わせておびえていましたが、新治は「俺がやります」と名乗り出て海に飛び込み、命綱とブイをつなぎました。そのおかげで、船は救われました。

帰港したあと、千代子の母親や海女たちの好意で、新治と初江はもとの仲に戻ります。照吉は新治の活躍を見て、新治を初江と結婚させることを決めました。願いを叶えた新治と初江は、灯台から美しい夜の光を眺めました。

『潮騒』の解説

歌島と三島由紀夫

歌島(うたじま)は、歌島(かじま)、神島(かみしま)とも呼ばれる三重県にある島です。人口は300人ほどの小さな島ですが、三島はなぜ歌島を舞台に選んだのでしょうか?

『潮騒』執筆前の三島は世界旅行をしており、そこで古代ギリシアのイメージと重なる「神々」を題材にした作品を書こうと思いつきます。

神が感じられるということは、科学技術の影響を受けていないということです。そこで三島は「都会の影響を受けていない美しい漁村」を舞台として選び、歌島と出会ったのでした。

『潮騒』の感想

健全な物語

『潮騒』は、発表される1年前に刊行された『禁色(きんじき)』に比べて、純粋な恋愛が描かれていると感じました。

『禁色』では、男性同士の恋愛や一夜限りの恋愛が繰り広げられますが、『潮騒』ではそれとは真逆の健全で一途な恋愛が描かれます。

『禁色』を一言で言うなら「不埒(ふらち。けしからぬこと)」で、『潮騒』を一言で言うなら「道徳的」というのがぴったりだと思います。

 

また、タイトルが『潮騒』である理由について考えました。私は、説明しがたい初恋の胸さわぎと、ざわざわと寄せる潮騒が重ねられたのではないかと思いました。もちろん、漁村とリンクしているというものあると思います。

『潮騒』の名言

嵐の夜を乗り越えた朝の、新治の心情です。このとき新治は初江の写真を見ていたので、初江は「私の写真のおかげで、新治は試練を乗り越えたんだ」と思います。しかし、新治は「自分の力できる抜けたんだ」と思うのです。

普通に考えたら、「恋人のおかげで頑張れた」とした方がまとまりが良い気がします。しかし、あえてこのような文を最後の一文にしたのが興味深いです。

年頃の驕慢(きょうまん。おごること)な初江の存在を強調している気もしますし、戦いに勝った新治の強さを表しているようにも受け取れます。

最後に

今回は、三島由紀夫『潮騒』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

『仮面の告白』『金閣寺』『禁色』という三島のそれまでの作品は、血・背徳・肉・反逆・異常・偏愛というおどろおどろしいキーワードで語れるものでした。

一方で『潮騒』では、難しいことは何も起こらず、素直で単純な恋愛が描かれます。そのため、三島の作品の中でもかなり異質な存在です。とても読みやすいので、三島初心者におすすめです!まだ著作権が切れていないため、青空文庫では読めません。

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yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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