『瓶詰地獄』は、手紙のやりとりだけでストーリーが展開していく書簡体小説です。語り手や登場人物の語りで進むわけではないため、物語が間接的に展開していくことが特徴です。
今回は、夢野久作『瓶詰地獄』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『瓶詰地獄』の作品概要
著者 | 夢野久作(ゆめの きゅうさく) |
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発表年 | 1928年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 罪 |
無人島に漂流した兄妹の様子が描かれます。手紙文の羅列で小説が成り立つ書簡体と、人物の一人語りで構成される独白体という、夢野久作が得意とする方法が掛け合わされています。1986年に映画化されました。
著者:夢野久作について
- 日本の探偵小説三大奇書『ドグラ・マグラ』の著者
- 書簡体小説を書いたり、独白体を用いることが多い
- 小説家、詩人、禅僧、陸軍の軍人、郵便局長という経歴を持つ
夢野久作は、奇抜・幻惑という言葉がぴったりな人物です。三大奇書に分類され、「読むと精神に異常をきたす」という衝撃的な広告文がつけられた『ドグラマグラ』の作者です。
久作の作品では、書簡体(手紙の連なりで展開していく手法)や、独白体(主人公が1人でつぶやくように語る手法)がよく用いられています。また、久作は様々な職業を経験した特異な作家です。
『瓶詰地獄』のあらすじ
ある町役場から、海洋研究所に向けて「瓶に入った3通の手紙が砂浜に打ちあがった」という手紙が送られます。それぞれの手紙には、離島に漂着したとある兄妹の告白と懺悔の言葉が記されていました。
果たして、彼らの犯した罪とは何なのか?彼らは救われるのか?
登場人物紹介
太郎
11歳のころに無人島に漂着し、10年以上島で暮らしている。
アヤ子
太郎の妹。7歳のころに、太郎と同じく無人島にたどり着いた。
『瓶詰地獄』の内容
この先、夢野久作『瓶詰地獄』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
近親相姦の罪にさいなまれる兄妹
第一の瓶の内容
ある村の役場から海洋研究所に向けて、「3本の手紙入りの瓶が海岸に流れ着いた」という旨の手紙が送られました。
第一の瓶には、「島に、助けの船がやって来ます。しかし、私たちはしっかり抱き合って身を投げて死にます。どうぞそうぞお赦しください」とあります。
第二の瓶の内容
第二の瓶には、太郎とアヤ子が火をおこしたり、食べ物を取って生き延びている様子が書かれています。加えて、太郎がアヤ子にただならぬ感情を抱き始めていることが告白されました。アヤ子も、うるんだ目で太郎を見つめるようになります。
熱心なキリスト教信者の太郎は、罪を意識して苦しみます。
第三の瓶の内容
第三の瓶には、「オ父サマ。オ母サマ。ボクタチ兄ダイハ、ナカヨク、タッシャニ、コノシマニ、クラシテイマス。ハヤク、タスケニ、キテクダサイ」とだけありました。
『瓶詰地獄』の解説
順番は?
『瓶詰地獄』は「第一の瓶の内容」「第二の瓶の内容」「第三の瓶の内容」で構成されますがは、流された順番にはさまざまな意見があります。
一般的には、第三の瓶→第二の瓶→第一の瓶の順に流されたとされますが、第二の瓶では「鉛筆がもうすぐ無くなる」という記述があるため、「そのあとに第一の瓶の手紙を書くのは不可能では?」という意見もあり、順番は諸説ありということになっています。
「『瓶詰地獄』の物語は初めからそこにあるのではなく、読者の想像が介入して初めて創られる」という意見があります。
書簡体小説ということで、書かれていることは不確かなことが多く(ウソを書くことも可能なため)、さらに3つの瓶は開封されたとはどこにも書いてありません。
つまり、この小説には語られていない部分が非常に多いので、読者はそれを補って読む必要があるということです。いわば、夢野久作から材料が与えられて、読者がそれを完成させるようなものです。
そのため、この小説は人によってさまざまに解釈されることになります。そのため、順番にも明確な正解はありません。
手紙を流す目的
瓶は合計3回流されていますが、長さや内容が全く違うためそれぞれの目的は違うように思われます。第三の瓶は、両親宛てに助けを求めたものです。
第二の瓶は、アヤ子に許されない感情を抱いてしまったという、太郎の独白です。そして、それにはしきりに神へ呼びかける言葉が書かれており、太郎が許しを得るために神に宛てて流したものだと考えられます。
第一の瓶には、遺書が入っています。「船が来ているなら、瓶を流さないで島に置いた方が、遺書が見つかる確率が上がるのでは?」と思われますが、船が2人の幻覚だったとしたらどうでしょうか。
冒頭で、3つの瓶は同時に届けられたとされています。したがって、第三の瓶を見た両親がやって来たとは考えられません。そのため、2人が見た船は妄想なのかもしれないという可能性が出てくるのです。
そうだとすれば、無人島に置いておくよりも、海に流してどこかの海岸に流れついた方が、遺書が誰かの眼に着く確率が上がります。
そうまでして遺書を誰かに見てもらいたかったのは、太郎とアヤ子が存在していたという証拠を残したかったからなのではないかと思われます。2人は、自分たちが生きていた証として、第一の瓶を第三者宛てに流したのだと考えることができます。
山根 祥子「瓶詰地獄 : 瓶を投げ込む行動の意味」(Comparatio 2017年)
『瓶詰地獄』の感想
「瓶詰」が表すもの
瓶詰とは、ビール瓶に入った手紙のことですが、私は太郎とアヤ子の状況を表しているのでは?と思いました。無人島から出られない2人は、無人島に閉じ込められているという風に考えられるからです。
また、近親相姦という罪を犯してしまった兄妹は、仮に助けが来て家に帰れても、社会からは許されないでしょう。「社会と太郎・アヤ子の間には、目には見えない(ガラス)の壁が存在する」。瓶詰とは、このような意味でも使われているのではないかと思いました。
最後に
今回は、夢野久作『瓶詰地獄』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
情報量が少なく、解釈をするには何度も読む必要があり、推理小説のような面白さがある作品です。青空文庫にもあるので、ぜひ読んでみて下さい!
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