純文学の書評

【江戸川乱歩】『心理試験』のあらすじと内容解説・感想

『心理試験』は『D坂の殺人事件』の続編で、D坂の殺人事件から数年経って世間からも認められるようになった明智小五郎が活躍します。乱歩が専業作家になる決意を固めるきっかけとなった作品です。

今回は、江戸川乱歩『心理試験』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『心理試験』の作品概要

著者江戸川乱歩(えどがわ らんぽ)
発表年1925年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ心理学

『心理試験』は、1925年年に雑誌『新青年』(2月号)で発表された江戸川乱歩の短編小説です。心理学を利用した推理がカギとなる探偵小説です。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:江戸川乱歩について

  • 推理小説を得意とした作家
  • 実際に、探偵をしていたことがある
  • 単怪奇性や幻想性を盛り込んだ、独自の探偵小説を確立した

江戸川乱歩は、1923年に「新青年」という探偵小説を掲載する雑誌に『二銭銅貨』を発表し、デビューしました。

その後、乱歩は西洋の推理小説とは違うスタイルを確立します。「新青年」からは、夢野久作や久生十蘭(ひさお じゅうらん)がデビューしました。

『心理試験』のあらすじ

貧しい大学生・蕗屋清一郎は、友人の斎藤勇から「下宿先の家主である老婆が、松の植木鉢に大金を隠している」ということを聞きます。そこで蕗屋は、老婆を殺害して金を奪う計画を立てました。

犯行に及んだ蕗屋は、後日斎藤が嫌疑者になっていることに驚きます。そして、のちに蕗屋と斎藤は心理試験を受けることになりました。

独自の練習で試験対策をした蕗屋は、試験を完璧にこなします。ところが探偵の明智小五郎は、そのあまりに完璧な結果を疑うのでした。

登場人物紹介

蕗屋清一郎(ふきや せいいちろう)

成績優秀だが、貧しい生活を送る大学生。老婆を殺害したのちに金を盗んだ。

斎藤勇(さいとう いさむ)

蕗屋の大学の同級生。老婆の家の部屋を間借りしている。極度の小心者で、老婆殺害の犯人として疑われてしまう。

老婆

60歳近くの未亡人。貯金を増やすことを楽しみとしているが、その金に目を付けた蕗屋に殺害される。

笠森(かさもり)判事

老婆の殺害事件を担当した予審判事。名判事かつ素人心理学者として有名。

明智小五郎(あけち こごろう)

難事件を解決に導く優秀な探偵。

『心理試験』の内容

この先、江戸川乱歩『心理試験』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

心理試験のワナ

貯金好きの老婆

大学で斎藤勇と親しくなった蕗屋清一郎は、斎藤が間借りしている家の持ち主である老婆が、大金を家に隠していることを知りました。

「あのおいぼれが、そんな大金を持っているということに何の価値がある。それを俺の様な未来のある青年の学資に使用するのは、極めて合理的なことではないか」と考えた蕗屋は、さっそく老婆の情報を集め始めました。

そしてあるとき、斎藤は「老婆が床の間にある松の植木鉢の底だ」と蕗屋に言いました。それから半年かけて、蕗屋は犯行の計画を練るのでした。

実行

それから半年後、蕗屋は犯行に及びます。斎藤の留守中に老婆の家に向かい、床の間に通してもらった蕗屋は、お茶を入れようと部屋を出ようとした老婆に襲い掛かり、首を絞めました。

老婆はもがき、びょうぶに傷を付けました。それは六歌仙の金びょうぶで、小野小町の顔のところが破れてしまったのです。そして蕗屋は植木鉢に入っていた金の半分を盗み、警察署に向かいます。

そして「今この札入れを拾いました」と言って財布を差し出し、氏名と住所を伝えました。遺失主である老婆は亡くなったため、1年後には財布は蕗屋のものになるのです。

 

しかし翌日の新聞には、予想だにしない記事が載っていました。なんと、斎藤が嫌疑者に挙げられていたのです。警察署に行って話を聞いた蕗屋は、斎藤が老婆が亡くなっているのを見て植木鉢の残りの金を盗んでしまったのだと思いました。

2人の嫌疑者

この事件を担当したのは、名判事かつ素人心理学者の笠森判事です。そして、笠森は受け答えがしどろもどろして不自然な斎藤を犯人と考えていました。斎藤は非常に気が弱く、そのせいでハキハキした会話ができずに疑われてしまったのでした。

そんなとき、蕗屋が拾った財布のことが笠森の耳に入ります。そこで笠森は、2人に心理試験を行うことにしました。

新たな嫌疑者

心理試験とは、犯罪に関連した質問に対する身体上の微細な反応を見る検査です。たとえば、「お前は老婆を殺しただろう」という質問に動揺した人物が、犯人である可能性が高いということです。

笠森が素人心理学者だと知った蕗屋は、心理試験で動揺しないように練習を始めました。

後日、笠森は試験の結果を明智小五郎に見せます。結果は、蕗屋の反応は薄く斎藤の反応はいちじるしいというものでした。

しかし、明智は「神経過敏の男が、心理試験を平気で受けることができるだろうか」と笠森に問います。明智は斎藤の無実を指摘し、犯人は蕗屋の可能性があると言いました。

蕗屋の敗北

明智は蕗屋に「斎藤の有罪が確定した」を伝え、自宅に呼びます。そして、明智は床の間に会ったびょうぶに傷はなかったかとたずねました。蕗屋は、「事件の2日前に老婆の家に行ったが、そのとき傷はなかった」と言いました。

そこで明智は、そのびょうぶが老婆の家に持ち込まれたのは事件の前日だと告げます。蕗屋は、知らず知らずのうちに嘘をついていたのでした。

蕗屋の証言は、隣の部屋で記録されていました。観念した蕗屋はその紙に捺印(なついん)するのでした。

『心理試験』の解説

『罪と罰』のトリック

本作では2つのトリックが使われています。1つ目は、蕗屋が練習して試験になれるというもので、もう1つはびょうぶのトリックです。

乱歩は、『D坂の殺人事件』を執筆する前にミュンスターバーグの『心理学と犯罪』という本を読んでおり、それから心理学を用いた作品を書き始めます。『心理試験』は、その影響を大きく受けた作品です。(①)

 

乱歩が生み出すのに苦労したというびょうぶのトリックは、ドストエフスキイ『罪と罰』を下敷きにしています。

『罪と罰』において、主人公のラスコーリニコフは犯行後に空き部屋に隠れており、壁にペンキが塗ってあったことを覚えていました。その後、予審判事は空き部屋とペンキ塗りについて尋ねることでラスコーリニコフにかまをかけるというシーンがあるのです。(②塚本論)

『心理試験』では、明智は老婆の部屋にあったびょうぶがあたかもずっとそこにあったかのように話します。そして、「蕗屋が事件の2日前にびょうぶを見た」と証言した時点で、「びょうぶは事件の前日に届いた」と告げるのです。

①『江戸川乱歩傑作選』解説 荒正人(1960年12月 新潮社)

②塚本 真紀「江戸川乱歩「心理試験」の心理学」(『尾道文学談話会会報』(8) 23-32頁 2018年2月)

『心理試験』の感想

本当に隠したいものは隠さない

犯行をあえて昼間に行ったり、「隠したいものは見せる」という一見矛盾したことが行われているところが、『二銭銅貨』と似ていると感じました。大胆不敵な犯行にひやひやさせられますが、そうしたスリルも楽しめるのが乱歩の作品です。

また、乱歩作品の犯人は皆優秀で、毎回完璧な計画を実行します。だからこそ明智がじわじわと犯人を追い詰め、ひるんだところで決定打を売って一気にひっくり返す鮮やかさに、一種の感動を覚えます。

明智小五郎ものを読むと、完全犯罪の難しさを思い知ります。

最後に

今回は、江戸川乱歩『心理試験』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

『心理試験』は犯人の視点で事件が語られる形式の小説で、トリックが暴かれるときに読者も同じ緊張感を味わうことができます。ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

ABOUT ME
yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人1年生。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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