江戸川乱歩は、探偵小説を多くの残した作家です。
今回は、江戸川乱歩のおすすめの本を10冊ご紹介します!
Contents
江戸川乱歩ってどんな人?
- 探偵小説を得意とした作家
- 実際に、探偵をしていたことがある
- 単怪奇性や幻想性を盛り込んだ、独自の探偵小説を確立した
江戸川乱歩は、1923年に「新青年」という探偵小説を掲載する雑誌に『二銭銅貨』を発表してデビューしました。
デビュー当時は西洋の推理小説を参考にしながらも、その後はそれらとは異なる独自のスタイルを確立します。雑誌「新青年」からは、江戸川乱歩他に夢野久作や久生十蘭(ひさお じゅうらん)がデビューしました。
初級編
「とりあえず、有名な作品をさらっと読みたい!」「話振られたとき困らないように、代表作だけ知っておきたい!」というビギナー向けに、読んでおけば間違いない作品を5つご紹介します。
『黒蜥蜴(くろとかげ)』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1934年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 探偵小説 |
『黒蜥蜴』は、1934年に雑誌『日の出』(1月号~12月号)で連載された江戸川乱歩の中編小説です。
美人盗賊・黒蜥蜴と、乱歩作品おなじみの明智小五郎(あけちこごろう)の対決が描かれています。三島由紀夫の戯曲(脚本)を元に、2回映画化されています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
東京のあるクラブで、黒蜥蜴と呼ばれる美女が踊っています。彼女の正体は、美しいものに目がない盗賊でした。
あるとき黒蜥蜴は大阪の令嬢に目を付け、令嬢の誘拐を計画します。しかし、そんな黒蜥蜴を邪魔するのは、私立探偵の明智小五郎です。黒蜥蜴と明智は、壮絶な攻防戦を繰り広げます。
感想
『黒蜥蜴』は、私が乱歩作品の中で一番好きな小説です。乱歩の作品の中で唯一女性の盗賊が出てくる小説だからです。
黒蜥蜴は、貴夫人のような優雅さとしとやかさを兼ね備えているかと思いきや、男性を差し置いて大胆に動く肝の据わった人物です。黒蜥蜴がたまに「僕」と自称するところも、宝塚っぽいところがあって好きです。
また、悪役である黒蜥蜴が人間味に溢れているところもポイントだと思います。ライバルだったはずの明智をいつの間にか意識していたり、明智を海に沈めた時に思わず泣いてしまったりと、悪役ではありながらも人間の心を忘れていない点が魅力的でした。
『二銭銅貨』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1923年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | いたずら |
『二銭銅貨』は、1923年に雑誌『新青年』で発表された江戸川乱歩の短編小説です。ある大泥棒が逮捕されたことをきっかけに、2人の貧乏人の日常が一変する様子が描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
「私」と松村(まつむら)は、下駄屋の2階で貧乏生活を送っていました。そんなとき、世間をにぎわせていた大泥棒が逮捕されます。大泥棒はある工場から5万円(約5億円)を盗みますが、決してその金の在り処を明かしませんでした。
そんなとき、私と一緒に暮らしている松村が奇妙な行動をし始めます。私が煙草屋でつり銭として受け取った二銭銅貨について聞いたり、東京の地図を広げて何か作業をしたりする松村を、私は興味深そうにながめます。
そしてある朝、大きな風呂敷包みを持った松村が私の前に現れます。その風呂敷の中には、なんと泥棒が盗んで隠した5万円が入っていたのでした。
感想
ラストにどんでん返しが仕掛けられている小説です。乱歩の作品をいくつか読めば、「今回はこの人物が仕掛け人か」とだんだん分かるようになってきますが、分かっていても毎回「そうくるのか」拍子抜けしてしまいます。
それくらい、乱歩は話を盛り上げたり読者をだましたりするのが上手いですし、それが乱歩の根強い人気を支えているのだと思います。最後まで読んでからもう一度読むと、また違った感想が得られる作品です。
『D坂の殺人事件』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1925年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 探偵小説 |
『D坂の殺人事件』は、1925年に雑誌『新青年』で連載された江戸川乱歩の短編小説です。心理学と犯罪の関係が描かれています。明智小五郎シリーズの代表作です。
D坂とは、東京の文京区にある団子坂のことです。執筆当時、乱歩が団子坂付近に住んでいたためモデルになりました。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
主人公の「私」は、カフェでコーヒーをすすりながら、向かいの古本屋を眺めていました。しばらくすると、カフェの前を探偵の明智小五郎が通ります。
2人は並んで談笑しますが、古本屋の異変に気づきます。店の奥のふすまが閉まり、誰も店番をしなくなったのです。
私と明智が古本屋に駆け付けると、そこには明智の幼馴染である、古本屋の奥さんの遺体がありました。私は、目撃者の証言と明智の服装が似ていることに違和感を覚えます。
感想
初期の乱歩作品には、巧妙なトリックや暗号コードが登場することが多いですが、『D坂の殺人事件』では人間の心理がキーになっています。そのため、他の乱歩の作品にはない意外性を楽しむことができます。
探偵には論理的な思考だけでなく、人間の心情を読み取る能力も必要なのだと感じた作品です。
『人間椅子』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1925年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | ホラー |
『人間椅子』は、1925年に文芸雑誌『苦楽』で発表された江戸川乱歩の短編小説です。男が椅子の中で生活し、一方的にコミュニケーションを取る様子が不気味な小説です。
1970年から数回に分けてドラマ化、1997年と2007年には映画化されています。また、2度に渡って漫画化もされています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
女流作家の佳子(よしこ)のもとには、毎朝ファンレターが届きます。
ある日、書斎の椅子に座った佳子は、原稿用紙に書かれた手紙を読み始めました。そこには、椅子の中に入りこみ、そこで生活した男の告白が書かれていました。佳子は、じわじわ忍び寄る恐怖に支配されていきます。
感想
「もしかして、夫人が座っている椅子の中に男が隠れているのでは…」という、得体のしれない不安な空気が終始漂っている不気味な小説です。今まで他人事だと思っていたことが、急に身近に迫ってくる恐怖を感じました。
この小説の面白いところは、最後の数行で物語の読み方が180°変わってしまうところです。乱歩は最後の最後で読者を裏切るのが得意ですが、ここまでくると裏切られたことに「やられた!」という快感を覚えます。
ちなみに、先ほどご紹介した『黒蜥蜴』では人間椅子のトリックが使われています。合わせて読んでみて下さい!
『屋根裏の散歩者』
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著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1925年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 犯罪への興味 |
『屋根裏の散歩者』は、1925年に雑誌『新青年』(8月号)で発表された江戸川乱歩の短編小説です。犯罪に興味を持った男が実際に殺人を犯すまでが、男の目線から描かれています。1970年から5回にわたって映画化されました。
あらすじ
三郎(さぶろう)は、勉強にも遊びにも楽しみを見出せず、退屈な生活を送っています。そんなとき、三郎は探偵の明智小五郎と出会い、さまざまな犯罪の話を聞くうちに、犯罪に興味を持つようになりました。
退屈を紛らわせようと、新しい下宿に引っ越した三郎は、部屋の押し入れから屋根裏に上がれることに気が付きます。そして、それを利用して犯罪を計画し始めました。
感想
『屋根裏の散歩者』は、倒叙法が用いられている作品です。倒叙法とは、犯人視点で描かれることが多く、犯行の手口などが隠されずに語られる方法のことです。読者は犯人の正体を知っているので、犯人に感情移入しながら読むことができます。
本来殺人は、理由があって憎んでいる相手を殺すための手段にすぎません。しかし、本作の主人公・三郎は、殺人という行為自体に魅力を感じている特殊な人物です。そういう普段関わらないような人物の内面を知ることができるのは、非常に面白いです。
乱歩作品にはこの倒叙法が用いられているものがしばしばあります。毎回「今回は完璧な犯行でしょ」と思っても、必ずどこかに穴があって、それが暴かれるところの緊張感がすさまじいです。
中級編
「代表作一通り読んで、もっと他の作品も読んでみたくなった!」「にわかは卒業したい!」という人向けに、ここでは定番からは少しそれた作品を3つご紹介します。
『赤い部屋』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1925年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | プロパビリティの犯罪 |
『赤い部屋』は、1925年に雑誌『新青年』(4月号)で発表された江戸川乱歩の短編小説です。
夢幻的な雰囲気が漂(ただよ)う「赤い部屋」の会で、1人の男が犯した罪の数々を告白する物語です。Tの語りが終わったとき、衝撃の事実が明かされます。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
「赤い部屋」の会は、人生に退屈した人間が集まって、奇怪な話を披露したり、悪趣味なイベントを企画したりするクラブです。そんな「赤い部屋」の会に、Tという男が入会しました。Tは、会員を前に自身の完全犯罪をたんたんと語ります。
Tは、それまで自身の手を汚すことなく99人の命を奪ってきました。Tが話し終えたときに、給仕女がやって来ますが、Tはピストルを取り出して給仕女に向けて発砲します。
おもちゃのピストルだと知った女がTに発砲すると、Tは血を流して倒れました。そのピストルには実弾が入っていたのです。「赤い部屋」の会のメンバーは、「Tは自身を100人目の被害者に選んだのだ」と悟りますが、そこにはまだ秘密が隠されていました。
感想
『赤い部屋』は、「異常な興奮を求めて集まった、七人のしかつめらしい男が……(中略)今晩の話し手が、何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待ち構えていた」という一文で始まります。
小説に限らず、文章の書き始めは読者の心を引き付けるために重視されますが、小説の場合はそれが顕著(けんちょ)です。この『赤い部屋』の冒頭は、非常に衝撃的で引き込まれた書き出しです。
「異常な興奮」の正体を考えながら読み進めましたが、最後には読者である私も「異常な興奮」を覚えることができました。作中人物が感じていることを追体験できる、面白い小説です。
『押絵と旅する男』
(2024/11/20 20:58:08時点 Amazon調べ-詳細)
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1929年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 幻想 |
『押絵と旅する男』は、1929年に雑誌『新青年』(6月号)で発表された江戸川乱歩の短編小説です。押絵の中の少女に恋をした男の身の上が語られます。
乱歩が魚津(富山県)で蜃気楼を見た経験が元になって、執筆された作品です。一度完成させたものの、気に入らなかった乱歩は、書き上げた原稿をトイレに捨ててしまいました。現在読めるのは、その後に書き直された『押絵と旅する男』です。
あらすじ
主人公の私は、富山県に蜃気楼を見に行った後、帰りの電車で不思議な男と出会います。その男は、窓に立てかけてあった額をおもむろに風呂敷にしまい始めました。
その奇妙な様子に興味を持った私は、男に接近します。すると、男は再び風呂敷を開いて額を見せます。それは、精巧な押絵(布で作ったパーツを紙に貼った絵)でした。
さらに、双眼鏡でその絵を覗くと、押絵の老人と娘がまるで生きているかのように見えるのです。男は、老人が自身の兄だと告げた上で、彼らの身の上を話し始めるのでした。
感想
二次元だと知っていて、二次元の世界の人に恋をするのと、二次元の人であることを知らずに恋をするのは、ダメージの受け方が全く違うと思います。前者の場合は、多少割り切れると思いますが、後者のショックは計り知れません。
男の兄は、完全に押絵の娘を実在する人間だと思っていたのに加え、娘のことを考えてご飯もろくに食べられなくなるほどの盲目ぶりだったので、娘が絵だと知ったときは想像を絶する落胆を感じたのではないかと思いました。
しかし、相手が二次元だからと諦めず、突破口を見出そうとする兄の執念には驚きました。「恋は盲目」とは、まさにこのことを言うのだと思いました。
『二癈人』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1924年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 真の廃人 |
『二癈人』は、1924年に雑誌『新青年』で発表された江戸川乱歩の短編小説です。温泉で出会った2人の男の昔話を軸に、過去の意外な事実が発覚するまでが描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
温泉で出会った井原(いはら)氏と斎藤(さいとう)氏は意気投合し、お互いの昔話を始めました。井原氏は、自身の人生を大きく変えることとなった、過去に犯した罪を告白します。しかし話し終わった後、思いもよらない事実が判明するのでした。
感想
トリックが暴かれる面白さよりも、徐々に真実に近づいていく恐怖や、どうしようもないやるせなさ、虚無感が特徴的な作品だと感じました。
読者は井原氏と同じように真相を知りませんが、井原氏の話を聞いていくうちに不可解な点が気になるようになり、だんだんと目の前の斎藤氏を疑うようになり、物語には不穏な空気が漂い始めます。そうした気味の悪さも見どころです。
上級編
「ディープな作品を読みたい」という上級者向けに、ニッチな層に受けそうな作品を2つご紹介します。
『芋虫』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1929年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | グロ |
『芋虫』は、1929年に雑誌『新青年』で発表された江戸川乱歩の短編小説です。戦地で大けがを負った元軍人と、彼を世話する妻の残酷な生活が描かれています。
乱歩のグロテスク趣味が色濃く出ている作品です。発表された当時はプロレタリア文学が盛んだったため、反戦小説として読まれることもありましたが、あくまで乱歩は「苦痛と快楽と惨劇を書きたかった」と言っています。
『少女椿』の丸尾末広によって漫画化され、2005年のオムニバス映画「乱歩地獄」で映画化されています。
あらすじ
時子(ときこ)は、戦争で負傷した夫の須永(すなが)の世話をしています。そのかいがいしさを周囲の人々は評価しますが、実は時子には恐ろしい秘密がありました。
時子は、負傷して体の自由が利かない夫をいたぶることを楽しみとしていたのです。夫へのいじめはエスカレートしていき、ついに時子は取り返しのつかないことをしてしまいます。
感想
耽美派に属する乱歩は、探偵小説だけではなく奇怪さや不道徳な美を追求した作品を残しています。『芋虫』は、手足を失って芋虫のようになった須永が、されるがままに虐待を受ける様子が描かれる残虐な作品です。
私は漫画の方から先に読んだのですが、漫画には時子の感情があまり描かれないので、小説から読んだ方が良いかもしれません。
丸尾末広のレトロなタッチで、須永の目を覆いたくなるような醜い身体や、獣のような須永夫婦の性生活が描かれていて、画集として眺めたくなる漫画でした。小説と合わせて読んでみて下さい!
『鏡地獄』
著者 | 江戸川乱歩(えどがわ らんぽ) |
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発表年 | 1926年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 鏡と狂気 |
『鏡地獄』は、1926年に雑誌『大衆文芸』(10月号)で発表された江戸川乱歩の短編小説です。レンズやガラス、鏡に魅せられた男が狂人になってしまうまでが描かれています。
『鏡地獄』の着想は、「科学画報」という雑誌に掲載された「球体の内面をすべて鏡にしたら、どんな像が映るのでしょうか?」という質問から得られました。
乱歩自身、幼い頃からレンズや鏡が好きで、『押絵と旅する男』『湖畔亭(こはんてい)事件』にもレンズや鏡が登場します。
あらすじ
Kの友人は、幼い頃からレンズやガラス、鏡が好きな少年でした。中学生になって凹レンズと出会ってからというもの、その魅力の虜になってしまった友人は、実験室を作って研究に没頭するようになります。
その後Kは、タブーに触れた友人のとんでもない姿を目にします。
感想
終盤に向けてのカオス度の高まりがすさまじく、「どうなるの?どうなるの?」とドキドキしながら読み進めました。ただのレンズ好きから、異常な執着を見せるようになる過程が描かれていて怖かったです。
レンズや鏡が見せる不思議な(ゆがんだり、増えたり、拡大したりする)世界の描写が増える後半部を読むと、本当に気が狂ってしまいそうになります。
最後に
今回は、江戸川乱歩のおすすめの本を10冊ご紹介しました。
探偵小説ももちろん面白いですが、乱歩の描くカオスな世界にも注目してみて下さい!