『トリプル』では、2人で付き合う「カップル」と3人で付き合う「トリプル」の間で揺れる主人公が描かれています。
今回は、村田沙耶香『トリプル』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『トリプル』の作品概要
著者 | 村田沙耶香(むらた さやか) |
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発表年 | 2014年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 新しい価値観 |
『トリプル』は、2014年に文芸雑誌『群像』(2月号)で発表された村田沙耶香の短編小説です。3人で付き合う「トリプル」を実践する主人公が、それを否定する母と戦う様子が描かれています。『殺人出産』という文庫に収録されています。
著者:村田沙耶香について
- 日本の小説家、エッセイスト
- 玉川大学文学部卒業
- 2003年に『授乳』で群像新人文学賞優秀賞受賞。
- 人生で一番読み返した本は、山田詠美『風葬の教室』
村田沙耶香は、1979年生まれの小説家、エッセイストです。玉川大学を卒業後、『授乳』でデビューしました。
山田詠美の『風葬の教室』から影響を受けています。ヴォーグな女性を賞する「VOGUE JAPAN Women of the year」に選ばれたこともあります。美しく年を重ねている印象がある女性です。
『トリプル』のあらすじ
ここ数年、3人で付き合うこと(トリプル)が10代の間で流行っています。高校2年生の真弓も同い年の青年2人と交際していますが、トリプルを嫌う母には隠しています。真弓は2人で付き合ったことがないため、トリプルの奇妙さを理解できずにいるのでした。
登場人物紹介
真弓(まゆみ)
高校2年生の少女。誠と圭太と付き合っている。
誠(まこと)
背が高い黒髪の青年。横浜の進学校に通う高校2年生。
圭太(けいた)
茶髪の青年。都内の工業高校に通う高校2年生。
『トリプル』の内容
この先、村田沙耶香『トリプル』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
違う価値観を受け入れることの難しさ
真弓・誠・圭太
近年、3人で付き合うことが10代の間で流行り始めました。真弓も、同い年の誠と圭太と付き合っています。海外では、同性婚より先にトリプルでの婚姻を認めるべきだというデモが起きるほど、トリプルは浸透していました。
しかし、日本ではまだあまり受け入れられておらず、一定以上の年代の人はトリプルを良く思っていません。そのため、真弓は母親に隠して誠や圭太と付き合っているのでした。
カップルとトリプル
ある日、真弓は誠と圭太と別れた後、友人のリカと会いました。そのとき、真弓とリカは大学生くらいの女性から「私とトリプルにならない?」と声をかけられます。2人は、「それぞれに恋人がいるんです」と言って断りました。
真弓が家に帰ると、母親は真弓に誠と圭太との関係を聞きました。母親は、真弓の携帯を見て3人がトリプルであることを知ったのです。母親は、真弓を「売女(ばいた)」「色情狂」とののしります。
怒って家を飛び出し、公園にたたずんでいた真弓のもとに、誠と圭太が駆けつけました。お母さんに挨拶に行こうと言う誠に、真弓は、「そんなんでわかってくれるような人じゃないよ。あの人たちは、私とは別の生き物だったんだよ」と言います。
カップルから生まれた嫌悪感で満たされた真弓に、誠は「きっと、真弓も、お母さんも、友達も、3人とも清らかなんだ。だから他の人の清潔な世界を受け入れることができないんだ」と告げました。
『トリプル』の解説
モノガミーとポリアモリー
現在の恋愛観を支配しているのは、「モノガミー」という価値観です。「mono」は「単一」という意味で、モノガミーは特定の相手と恋愛関係を持つことや単婚を指します。
一方で、ポリアモリーは複数の相手と恋愛関係を持つことです。モノガミー規範の中にいる人からは「誠実なクズ」と評されたりしますが、この小説はポリアモリーが普及し始めた世界を舞台としています。
今でこそ一夫一妻は当たり前ですが、明治以前の日本では一夫多妻が採用されていました。権力者や将軍のまわりを、正妻や側室、それ以下のさまざまな女性が取り巻いていたのです。
その意味で、明治以前の日本は限定的なポリアモリー(複数婚は男性のみに許された権利だったため)が普通だったと言えます。明治以前には、正妻になれない「2番目」の女の悲しみを書いた文学作品が数多く誕生しました。
たとえば藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)が書いた『蜻蛉(かげろう)日記』は、朝帰りした夫に激しい怒りを抱き、嫉妬心を燃やす女の様子が描かれています。一夫多妻ならではの面白い作品です。
忘れがちですが、「日本もかつては複数で関係が許容されていた」ということを意識しておくと、今後やって来る多様化の波に乗り遅れることを防げると思います。
『トリプル』の感想
所有しない愛
一般的な恋愛が、相手の気持ちを独占することを目的とする「所有の愛」だとすると、『トリプル』で描かれているのは「所有しない愛」です。
私は、いろいろなところに興味が向くのは自然なことだし、それを1つのところに集中するように矯正するのは当事者にとって苦しいことだと思っています。
そのため、所有しない愛は淡白だけど自由でいいと感じました。偶然そのとき選んだ人が残念だったときのリスクヘッジにもなると思います。
浮気も不倫も、モノガミーが当たり前になっている今は悪いこととされています。
しかし、そういう規範がない世界なら、「偶然好きになった人にたまたま相手がいただけ」「タイミングが悪かった」と思えるし、もっと言うと「1つしか選択肢がないなんて窮屈」と思えるかもしれません。
今は絶対にNGとされていることでも、ベースとなっている価値観が変わるだけで、人の生き方は多様化するし逆に単一的にもなるんだと思いました。
ポリアモリスト(複数人で交際する人)へ抱く最大の疑問は、嫉妬しないのかということです。
実際に、ポリアモリストのなかには自分だけに相手の気持ちが向いていないことを嫌だと思う人もいるそうですが、彼らはその気持ちをセーブできたりするのだそうです。自分のなかで悪い感情を消化できる人が、ポリアモリストになれるのだと思いました。
また、嫉妬さえも快楽に変えてしまう人もいると思います。谷崎潤一郎の『卍』などでは、1人の女性をわざわざ共有物にする人物が描かれていたりします。
このように、もともとそういう嗜好を持った人もいるということを考えると、複数人での交際は決しておかしなものではないと感じられます。
柔軟な頭を持つ
性別は2つしかないので、トリプルで付き合うときには必ず性別がかぶります。このことから、この小説では同性愛が当たり前の世界が描かれていることが分かります。
また、誠と圭太はトリプルになる前は友達でした。リカといるときに女子大生にナンパされた真弓は、「『うん』と言ったらリカと恋人になるのか」と思いました。ここでは、友達と恋人の境界はあいまいになり、その垣根はこわされています。
このように、性別や人数、関係などのさまざまな制限がなくなって、本当に自由になったら面白いなと思いました。
『トリプル』が収録されている文庫の表題作『殺人出産』では、新しい価値観に一定の理解は示しているものの、完全には受け入れていない人物が主人公になっていました。
一方『トリプル』では、「カップルにこだわる理由はどこにあるのか?」と既存の考えを疑問視し、「3人で付き合う」という新しい考えをいち早く受容した真弓が主人公です。
そんな真弓と真っ向から対立するのは、真弓の母です。真弓の母はそれまでの価値観を振りかざし、真弓を全否定します。
年を取るほど保守的になり、新しいものを受け付けなくなるのは仕方ないことです。しかし真弓の母のように、新しいものを知ろうともせずに頭ごなしに否定するようにはなりたくないと思いました。
カップルを極端に拒否する真弓にも問題はあります。ですが、母が真弓を認めてあげれば2人の関係は悪くならなかったと思います。
2人のやりとりを見て、未知のものを跳ねのけるのではなく、まず理解する姿勢を持ちたいと思いました。
最後に
今回は、村田沙耶香『トリプル』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
新しい交際のヒントが提示されていて、面白い小説です。ぜひ読んでみて下さい!