純文学の書評

【今村夏子】『あひる』のあらすじ・内容解説・感想

『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した、今村夏子の『あひる』。

今回は、今村夏子『あひる』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『あひる』の作品概要

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著者今村夏子(いまむら なつこ)
発表年2016年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ不穏

『あひる』は、2016年に文学ムック『たべるのがおそいVol.1』(4月)で発表された今村夏子の短編小説です。

著者:今村夏子について

  • 1980年大阪府生まれ
  • 『こちらあみ子』でデビュー
  • 『むらさきのスカートの女』で芥川賞受賞
  • 小川洋子を敬愛している

今村夏子は、1980年生まれ大阪府出身の小説家です。風変わりな少女が主人公の『こちらあみ子』で第26回太宰治賞を受賞し、小説家デビューを果たしました。その後、『むらさきのスカートの女』で第161回芥川賞を受賞し、再び注目されています。

作家の小川洋子を尊敬していると発言しており、『星の子』の巻末には2018年に文芸雑誌『群像』に掲載された小川洋子と今村夏子の対談が収録されています。

『あひる』のあらすじ

わたしの家には「のりたま」という名前のあひるがいます。父が同僚から譲り受けたあひるです。

のりたまが家にやってきてから、静かだったわたしの家には子どもたちがやって来るようになりました。ところが、のりたまはしばらくして体調を崩してしまいます。父は病院に連れて行きますが、帰ってきたのりたまは以前とは少し雰囲気が違うのでした。

登場人物紹介

わたし

両親と実家で暮らしている。資格取得のために勉強をしている。

『あひる』の内容

この先、今村夏子『あひる』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

どれが本当ののりたま?

疑惑

わたしの家には、「のりたま」という名前のあひるがいます。のりためが家に来てから、のりたまを見るために近所の子供がわたしの家にやって来るようになりました。静かだった家がにぎやかになり両親は子供たちを喜んで迎えます。

ところが、しばらくしてのりたまは体調を崩してしまいました。父が病院に連れて行き、2週間後にのりたまは帰って来ました。しかし、そのあひるの体格やしみなどの特徴は、のりたまとは違います。

それでも、子供たちは「のりたまが帰ってきた」と言ってまたわたしの家に集まるようになりました。

「一番最初」ののりたま

しかし、そのあひるもまた体調を崩してしまいます。今度は太ったあひるが家にやって来ました。そのあひるは、運動不足が原因で死んでしまいます。

わたしがそのあひるを庭に埋めているとき、1人の少女が「前の2羽も、そこに埋められているの?」と問いかけました。少女は、「一番最初ののりたまが一番好きだったよ」と続けました。

『あひる』の解説

代替可能

わたしがのりたまに感じていた違和感は間違いではなく、のりたまは3匹いたというオチでした。しかしこの小説でそれはクローズアップされず、むしろ隠されています。

のりたまが入れ替わっていることに気づいていないのは、最後の女の子を除く子供たちということになります。これは、「気づいていない」というよりも「のりたまであろうがなかろうが、関係ない」という風に解釈できないでしょうか。

つまり、子供たちは白い羽と黄色いくちばしをもったあひるという動物に興味があっただけで、のりたまというパーソナリティには興味がない、ということです。

そして、これは実際にのりたまが入れ替わっても何の支障もないという事実として表れています。

『あひる』の感想

たった1つの要素が、日常を狂わせる

『こちらあみ子』では、あみ子という純粋無垢な危険因子が、家族や友人を徐々に侵していくという物語でした。

『あひる』もそれに近いテイストの作品だと感じました。父や母と静かに暮らしていたわたしのもとにやって来たのりたまは、子供という部外者を家に招き入れます。父と母は喜びますが、わたしはあまりよく思っていない節があります。

『こちらあみ子』のような家庭崩壊は起きないけれど、調子を狂わすような要素がぽんと提示され、それがじわじわと効力を発揮していく様子を丹念に描いたのが、『あひる』という作品なのだと思いました。

最後に

今回は、今村夏子『あひる』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

ぜひ読んでみて下さい!

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yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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