純文学の書評

【芥川龍之介】『蜜柑』のあらすじ・内容解説・感想|感想文のヒント付き

芥川の実体験がもとになってる『蜜柑』。教科書で取り上げられることがあるので、中高生の時に読んだことがある人もいるかもしれません。

今回は、芥川龍之介『蜜柑』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『蜜柑』の作品概要

著者芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
発表年1919年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ心の浄化

『蜜柑』は、1919年に文芸雑誌『新潮』で発表された芥川龍之介の短編小説です。横須賀駅から汽車に乗った私が、故郷から奉公に行く娘と過ごすひと時が描かれています。芥川の実体験がもとになっています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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『蜜柑』の文庫は、岩波書店から出版されています。他にも、角川書店や立東舎など様々な出版社から出ています。

著者:芥川龍之介について

  • 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
  • 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
  • 35歳で自殺
  • 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立

芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。芥川は作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。堀は、芥川を実父のように慕いました。

しかし晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺してしまいます。

芥川とは学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。

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『蜜柑』のあらすじ

退屈な人生を送り、疲労と倦怠を感じている主人公の私は、汽車が発車するのを待っていました。そんなとき、発車寸前になって田舎娘が汽車に飛び込んできました。私は、娘の醜い姿に嫌悪感を覚えます。その後、私は驚くべき光景を目にします。

登場人物紹介

だるさ、つまらなさを常に感じている主人公。心に余裕がなく、けなげな田舎娘をうっとうしく思っている。

粗末な着物を身に着けた13~14歳の田舎娘。列車に乗って働きに行こうとしている。

『蜜柑』の内容

この先、芥川龍之介『蜜柑』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

すさんだ心が浄化される話

疲労と倦怠

ある曇った冬の日暮れ、主人公のは横須賀発の上りの二等列車(ビジネスクラス)の隅に座っていました。

プラットフォームにも車内にも人はおらず、その寂しい風景はその時の私の気持ちを表しているようです。私はどんよりとした疲労と倦怠感に襲われて、ポケットの中の夕刊を取ることもできないほどでした。

小娘

やがて発車のベルが鳴り、電車はいよいよ走り出すかと思われました。ところがその時、けたたましい下駄の音とともに13〜14歳の小娘が列車に飛び込んできました。

列車が走り出した後、私は前の席に腰を下ろした小娘を改めて見てみます。彼女は大きな風呂敷を膝の上に置き、ひびだらけの頬を真っ赤にほてらせた、いかにも田舎者らしい娘でした。

私は、彼女の下品な顔立ちや不潔な服装が気に食わず、さらに彼女が三等列車(エコノミークラス)の切符を握っていたのが非常に不愉快でした。持っていた夕刊の記事も、平凡でくだらなかったので、私は死んだように目を閉じました。

蜜柑

私がふと目を開けると、娘はいつの間にか私の隣に移動して、一生懸命窓を開けようとしていました。彼女は鼻をすすりながら、重いガラス戸を必死に下げます。

列車は間も無くトンネルに差し掛かるため、私はなぜ娘が窓を開けようとしたのか理解できません。私は、娘の行動にいらだちます。

 

そんなことをしているうちに、列車はトンネルを抜けて踏切を通りました。私は、そこに娘と同じく頰を赤くし、みすぼらしい着物を着た3人の男の子がいるのに気づきます。

列車が彼らの前を過ぎる瞬間、彼らは手を挙げて歓声を上げました。次の瞬間、私は思わず息を呑みます。なんと、窓から半分体を出した娘が、風呂敷の中の蜜柑を5~6個男の子に向かって投げたのです。

私の心には、夕暮れ時の踏切と、小鳥のように声を上げる子供達と、その上にばらばらと落ちる暖かな日の色に染まった蜜柑の光景が焼きつきました。

 

おそらく、娘はこれから住み込みで主人のために働きに行くのだと私は予想します。そして娘は、そんな自分を見送りに来た弟たちに、感謝の気持ちを込めて蜜柑を投げたのだと私は思いました。

純粋な兄弟愛を目の当たりにした私は、先ほどまでのいらだちや憂鬱(ゆううつ)な気持ちを忘れ、ほがらかな気持ちになりました。

『蜜柑』の解説

鬱(うつ)な気分を変えたもの

『蜜柑』は、小説の冒頭と結末で主人公の気持ちに大きな変化がある作品です。では、何が主人公の心を動かしたのでしょうか?

それは、爽やかな蜜柑と美しい兄弟愛です。蜜柑の効果は「感想」で述べたとおりです。どんよりとしていた主人公は、娘が弟たちのために蜜柑を投げるという行為を見たことによって、癒しのようなものを感じたのでした。

いらいらしているときに、赤ちゃんがよく笑っているところとか、犬が車から顔を出しているところとか、猫が仰向けで寝てるところとか、微笑ましい場面に遭遇すると、心がふっと軽くなりますよね?感覚としては、そういうのに近いのではないかと思います。

よって、主題は「兄弟愛による心の浄化」なのではないかと思います。

『蜜柑』の感想

果物の効果

『蜜柑』を読んだ時、絵画みたいな小説だと思いました。列車の窓から身体を出した娘が、彼女を見送りに来て歓声をあげる弟たちに向かって蜜柑を投げる場面は、とても印象的です。

このシーンが、1枚の絵のように切り取られて強く頭に残りました。主人公も、その光景が目に焼き付いたと言っているので、芥川はこの一瞬を描くために『蜜柑』を書いたのだと思いました。

 

また、蜜柑がいい味を出している小説だと感じました。だるくて何にもやる気の起きないモノクロの世界で、ひなた色の蜜柑だけがぽっかりと色付きで浮かんで見えるようなイメージです。

梶井基次郎(かじいもとじろう)『檸檬(れもん)』も、主人公の得体のしれないもやもやした気持ちを、檸檬がすっきりさせてくれる小説です。かんきつ系の果物には、人を爽やかな気分にする力があるのだと思いました。

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『蜜柑』の感想文のヒント

  • 小説における果物の役割を考える
  • 蜜柑を投げるシーンについて、感じたことを言語化する
  • 「私」の気持ちが変化した理由を考察する

作品を読んだうえで、5W1Hを基本に自分のなりに問いを立て、それに対して自身の考えを述べるというのが、1番字数を稼げるやり方ではないかと思います。感想文のヒントは、上に挙げた通りです。

ネットから拾った感想文は、多少変えたとしてもバレるので、拙くても自力で書いたものを提出するのが良いと思います。

最後に

今回は、芥川龍之介『蜜柑』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

芥川は、起承転結のない詩のような小説を理想としたため、彼の作品にはエッセイのような小説が多いです。

例にもれず、『蜜柑』も主人公がが数々の試練を乗り越えるわけでも、ロマンスを繰り広げるわけでもありません。ですが、読んでいる方まで心が晴れ晴れするような魅力のある作品だと思います!

青空文庫 芥川龍之介『蜜柑』

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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