純文学の書評

【森鷗外】『ヰタ・セクスアリス』のあらすじ・内容解説・感想

馴染みがない文字が使われているので、抵抗を感じる人もいるかもしれません。「ヰ」は、「ゐ」をカタカナで表記したもので、「ウィ」と発音します。

今回は、森鷗外『ヰタ・セクスアリス』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『ヰタ・セクスアリス』の作品概要

著者森鷗外(もり おうがい)
発表年1909年
発表形態雑誌掲載
ジャンル長編小説
テーマ

主人公の哲学者が、長男への性教育のために記録を取るという形式で進んでいきます。主人公の、6歳~21歳までの経験が語られます。大胆な描写が問題となり、発表された月に発禁(発売頒布禁止)になってしまった作品です。

著者:森鷗外について

  • 夏目漱石のライバル
  • 樋口一葉の評価を高めた
  • 文豪の中で、社会的地位が最も高い人物(陸軍軍医総監)

医者の家に生まれ、東大を首席で卒業した鷗外は、軍医として働きます。スーパーエリートの鷗外は、国から認められてドイツに留学しました。このときの経験は、ドイツ三部作(『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』)の題材になっています。

『ヰタ・セクスアリス』のあらすじ

金井湛は、中国地方の城下町で生まれ育ちます。金井君は、幼い頃に見た春画のことを忘れられずにいました。そのあと、東京の学校に進学した金井君は、同級生との交流を経て、大人に成長していきます。

登場人物紹介

金井湛(かねい しずか)

有名な哲学者。自分の性生活を哲学の視点から振り返る。

『ヰタ・セクスアリス』の内容

この先、森鷗外『ヰタ・セクスアリス』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

鷗外の自伝

初めて見るもの

金井湛君は、6歳のとき近所のおばさんに1冊の絵本を見せられました。そこには、男女がいびつに絡み合った絵がありましたが、当時の金井君にはその絵が何なのか分かりませんでした。

10歳になったころ、金井君は家の蔵でカラフルな本を見つけます。そして、それはいつかおばさんに見せてもらった本と同じ種類のものだと思いました。成長した金井君は、それがどういう本かもう分かります。

11歳になり、金井君は東京に引っ越して私立の学校に通います。寮では、上級生の相手をさせられている少年がいて、金井君もあやうく捕まりそうになったことが何度かありました。それを父親に相談すると、「よくあることだ」と言われます。

硬派と軟派

13歳になった金井君は、東京英語学校に入学しました。その寄宿舎の中では、硬派と軟派という2つの派閥に対立しています。軟派は女性を嗜好するグループで、硬派は少年を嗜好するグループです。金井君の同室者は、軟派の青年でした。

年末の試験では、成績の悪い生徒は次々と退学処分を受け、軟派の生徒たちは姿を消していきます。部屋割りが変わり、金井君の新しい同室者は硬派の古賀(こが)になりました。

ヰタ・セクスアリス

金井君は、おそるおそる古賀の部屋に引っ越しします。すると、古賀は笑顔で迎えてくれました。金井君と古賀は、散歩に行ったり、ウナギを食べたりして親交を深めます。

古賀の友人の児島(こじま)も交えて、3人はよく遊ぶようになりました。時には吉原(政府公認の遊郭)に行くこともありますが、金井君と児島にはいまだに女性経験がありません。

 

金井君が一線をこえたのは20歳で、相手は吉原の遊女です。そして友人と食事をした後、金井君は両親と暮らしている家に帰るはずでしたが、人力車が向かったのは遊郭でした。

金井君は、誘われるままに見ず知らずの女性と一夜を過ごします。のちに有名な哲学者となった金井君は、この夜を振り返って自身の異常さを認めます。

そして今年、高等学校を卒業する息子には、自分のようにはなってほしくないと思いました。金井君は、自らのこれまでの経験をつづった手記の表紙に、「vita sexualis」とタイトルを書き込んで、机の中に投げ込みました。

『ヰタ・セクスアリス』の解説

最後の一文

近代日本で、性教育は注目を集めていた話題でした。健全な子供を教育しようと言う機運が高まっていたからです。金井君が自身の経験を振り返ろうと思ったきっかけも、ドイツの性教育に関する郵便物を受け取ったからでした。

金井君は、手記に「vita sexualis」と書いた後、机の中にしまってしまいます。発表されている時点で、ずっとしまい込んでいることはウソになります。

この描写はさまざまな解釈ができますが、金井君が長男に性教育をすることに対して、ためらいの気持ちを抱いていることが読み取れます。

王蘭「周作人と森鷗外の「ヰタ・セクスアリス」:―近代東アジア知識人のある共通性―」(『比較文学』2006年)

『ヰタ・セクスアリス』の感想

リアルな生活

「性欲的生活」を意味する、ラテン語の「vita sexualis」という単語からタイトルが取られた作品です。センシティブな内容だったため、政府から発禁処分を受けてしまいました。

本作からは、その時代の人々の生活がリアルに読み取れます。当時は男社会だったため、高等教育を受けられるのは男子だけでした。そのため、必然的に学校は男子しかいない環境ができます。そして、その寮では男性同士の恋愛がよく起こっていました。

堀辰雄『燃ゆる頬』なども、寮での同性愛を描いた作品ですし、実際にそういう経験をした作家も数多くいます。『ヰタ・セクスアリス』を通して、当時の様子を立体的にとらえることができました。

最後に

今回は、森鷗外『ヰタ・セクスアリス』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

こういうセンシティブな話題はなかなか表に出ませんが、その意味で当時の性事情を知る良い資料なのだと思います。ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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