純文学の書評

【樋口一葉】『うもれ木』のあらすじ・内容解説・感想

『うもれ木』は、一葉が有名になるきっかけとなった作品です。

今回は、樋口一葉『うもれ木』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『うもれ木』の作品概要

著者樋口一葉(ひぐち いちよう)
発表年1901年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ芸術とはなにか

『うもれ木』は、1901年に文芸雑誌『都の花』(第95号)で発表された樋口一葉の短編小説です。利益を追わずに作品作りに注力する芸術家が描かれています。

一葉は、朝日新聞の社員で小説家だった半井桃水(なからい とうすい)と恋愛関係にありましたが、『うもれ木』は桃水と仲違いしたころに書かれた作品です。

著者:樋口一葉について

  • 職業女流作家
  • 17歳で家を継ぎ、借金まみれの生活を送った
  • 「奇蹟の14か月」に名作を発表
  • 24歳で死去

樋口一葉は、近代以降初めて作家を仕事にした女性です。美貌と文才を兼ね備えていたので、男社会の文壇(文学関係者のコミュニティ)ではマドンナ的存在でした。

父の死によって17歳で家を継ぐことになり、父が残した多額の借金を背負いました。「奇蹟の14か月」という死ぬ間際の期間に、『大つごもり』『たけくらべ』『十三夜』などの歴史に残る名作を発表したのち、肺結核によって25歳で亡くなりました。

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『うもれ木』のあらすじ

薩摩焼の絵師である籟三は、妹のお蝶と2人で暮らしていた。しかし、どれだけ良い薩摩焼を作っても、世の中の人に受け入れられなければ収入には繋がりません。籟三は、お蝶の支援を受けながら作品作りにいそしみます。

そんなとき、籟三の前にはかつて同じ師匠についていた篠原という男と再会します。篠原は弟子を辞めたあと、資産家として成功していました。篠原は、籟三に資金を提供する約束をしました。籟三は喜びますが、篠原のたくらみを知ってしまいます。

登場人物紹介

籟三(らいぞう)

主人公の29歳。売れない絵師。

お蝶(おちょう)

籟三の17歳の妹。資金援助してくれた篠原に恋心を抱いている。

篠原

かつて籟三の弟分だった男。現在は資産家となり、籟三のパトロンとなる。

『うもれ木』の内容

この先、樋口一葉『うもれ木』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

金を取るか、信念を貫くか

売れない絵師

薩摩焼の絵師・籟三は、両親を失って妹のお蝶と2人暮らしをしています。質の高いものを作っているのに、全くお金にならないことを籟三は嘆きます。

しかし、籟三は「後世に名を残す名作を作り上げたい」という夢を持っているため、お蝶に支えられながら何とか生きていました。

篠原との再会

ある日、籟三はかつて弟分だった篠原と出会います。篠原は、籟三と共通の師匠の金を持ち逃げし、師匠の死に際になっても姿を現さなかった人物です。最初は篠原に対して強く当たる籟三でしたが、改心した篠原に心を許し始めます。

篠原は資産家になっていて、大金を持て余していたため、籟三に資金を提供することになりました。そのおかげで、籟三は花瓶作りに没頭します。一方で、篠原が前に借金返済に苦しむ老婆を助けたことを思いだしたお蝶は、篠原に恋心を抱き始めました。

篠原のおもわく

翌年の春、籟三は生活のすべてをかけて制作した花瓶を完成させます。それを篠原に報告しに行ったところ、籟三は衝撃的な事実を目の当たりにします。なんと篠原は、籟三とお蝶を詐欺計画のために利用しようとしていたのです。

そのころお蝶は、篠原に有力者の女になるよう頼まれます。お蝶は、篠原は野望を叶えるために自分を利用しているのだと理解しましたが、篠原への恋心は捨てられません。そして「病で死ぬのも、恋で死ぬのも命はひとつ」と思い、亡くなってしまいました。

残された籟三は、お蝶を失った悲しみと裏切られた怒りで胸を詰まらせます。そして、全ては自分が芸術に没頭してしまったことが原因だと悟った籟三は、完成した花瓶を「いざ共に行かん」と叩き割ってしまいました。

『うもれ木』の解説

『うもれ木』と『埋木』

『うもれ木』は、ドイツの女流作家オシップ・シュピンの小説を、森鷗外が訳した『埋木』を参考に執筆したとされています。主な共通点は、物語の筋と人物の関係です。

『埋木』の主人公はバイオリンの名手で、養父の娘と婚約します。しかし、その娘は経済的に豊かなピアニストと関係を持ってしまいます。

罪の意識に耐えられなくなった娘は自殺し、さらに主人公が作った曲はピアニストの手に渡ってしまい、主人公は落ちぶれてしまいます。

 

『うもれ木』も『埋木』も、貧しい芸術家が友人に裏切られたうえに大切に思っていた女性が自殺し、主人公は零落するという点で似ています。

しかし、『うもれ木』ではお蝶は籟三の技術や名誉を客観視する視点を持っています。お蝶がこのように描かれる点に、『うもれ木』のオリジナリティが表れています。

塚本 章子「一葉「うもれ木」における<芸>の歴史的位相–露伴「風流仏」・鴎外訳「埋木」との比較を通して」(『近代文学試論』 1997年12月)

『うもれ木』の感想

芸術と商業

金に目がくらむことの卑しさ、芸術はパトロンがいないと成り立たないという厳しい現実、恋愛のために命を落とすという旧時代的な価値観など、語れるテーマがわんさか盛り込まれている作品だと思いました。

特に、芸術と商業というのは永遠のテーマだと思います。クリエイターとしては、もちろん「自分の作りたいものを満足するように作り上げたい」という気持ちがあるでしょう。

しかし、そのためにはお金と時間が必要です。だからこそ、クリエイターの中では大衆受けする作品作りにシフトする人も出てきます。

 

ところがそうした人たちは、籟三のような自分の信念を全うする人たちから見れば「大衆に媚びを売っている」と思われます。しかし、そうでもしないと生きていけないので、それは仕方ないことです。

どこまで大衆受けを気にして、どこまで自分の作りたいものを作り上げるか。音楽でも絵でも、芸術には常にその思考が付きまとうのだと改めて感じました。

最後に

今回は、樋口一葉『うもれ木』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

すぐに読める短編なので、ぜひ読んでみて下さい!

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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