純文学の書評

【梶井基次郎】『檸檬』のあらすじ・内容解説・感想|朗読音声付き

しばしば、「ラストが意味不明」と言われる『檸檬(れもん)』。不思議な終わり方ですが、読後はレモンの香りのような爽快な気分になれる小説です。教科書に載っているので、知っている人も多いかと思います。

今回は、梶井基次郎『檸檬』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『檸檬』の作品概要

著者梶井基次郎(かじい もとじろう)
発表年1925年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ蘇生

『檸檬』は、1925年に文芸雑誌『青空』(創刊号)で発表された梶井基次郎の短編小説です。憂鬱な気分が、1個の檸檬と出会うことで生き生きとしたものに生まれ変わる過程が描かれています。梶井の高校時代の経験が元になっています。

『檸檬』の漫画版です。『桜の樹の下には』『冬の蝿』も収録されています。

著者:梶井基次郎について

  • 1901年(明治34年)~1932年(昭和7年)
  • 感覚的なものと、知的なものが融合した描写が特徴
  • 孤独、寂寥(せきばく)、心のさまよいがテーマ
  • 31歳の若さで肺結核で亡くなった

作家として活動していたのは7年ほどであるため、生前はあまり注目されませんでした。死後に評価が高まり、感性に満ちあふれた詩的な側面のある作品は、「真似できない独特のもの」として評価されています。

『檸檬』のあらすじ

精神的に疲弊している「私」は、あるとき果物屋で檸檬を見つけます。その形状や香りを気に入った私は、檸檬を買って持ち歩きます。そして、それまで避けていた丸善に入る決意をしました。

登場人物紹介

不吉な魂に苦しめられている男。果物屋で見つけた檸檬を持ち歩く。

『檸檬』の内容

この先、梶井基次郎『檸檬』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

鮮やかな蘇生(そせい)

私の好きなもの

は、「えたいの知れない不吉な塊」に苦しめられていました。それは病気のせいでも、借金のせいでもありません。その頃の私は、みすぼらしくて美しいものを好んでいました。

一方で、生活がまだ安定していたころの私の好きな場所は、丸善(書籍や文房具を扱う書店)でした。しかし生活がすさんでからと言うもの、そこはむしろ居心地の悪い場所へと変貌してしまいます。

檸檬の力

ある日、私はお気に入りの美しい景観の果物屋で、檸檬を見つけました。私は思わずそれを1つ買います。紡錘(ぼうすい)の形や、冷たさ、香りは、私の心を軽くしました。そのまま歩き、私は避けていた丸善の前にたどり着きます。

丸善爆破

丸善に入り、私は画集を手に取りました。以前は画集に心を躍らせていましたが、今はただ重たく感じるだけです。重たすぎて、元の場所に戻すこともできません。いつの間にか私の前には、引き出した画集が山積みになっていました。

そんな時、私は檸檬のことを思い出しました。そして急に元気になってきた私は、画集で城を作り上げます。そしてその頂点に、檸檬を乗せました。

その時、ふいにあるアイデアが浮かんできました。それは「檸檬をそのままにして、何くわぬ顔で外へ出る」というものです。それを実行した私は、くすぐったい気持ちになりました。

そして、私は檸檬を爆弾に見立てて、丸善が爆発する創造をしながら、京都の町を歩いて行きました。

『檸檬』の解説

なぜレモン?

カラーセラピーでは、黄色は明るさ・軽さ・興奮・危険・緊張という意味を持つと言われます。黄色は明るく生き生きとしていて、インパクトのある色です。

そんな黄色一色のレモンは、独特の酸っぱさも特徴です。柑橘系の果物と言うことで、鼻にまっすぐ届いてくる香りも印象的でしょう。総じて、レモンは存在感のある果物だと言えます。

 

また本作でレモンは、暗雲が立ち込めている状況を全く別物に変えるアイテムとして機能しています。モノクロ映画で、レモンだけが鮮やかに着色されているような感覚です。

借金、病気、焦燥、嫌悪にさいなまれ、鬱々(うつうつ)とした主人公の前に突如現れるする爽やかなレモンは、読み手の気持ちもすがすがしいものにしてくれます。

ちなみに梶井基次郎の『闇の絵巻』という小説には、真っ暗闇で香り立つ柚子の木が登場します。

そこで柚子は、視覚を奪われた状態で、他の感覚が研ぎ澄まされていることを象徴するものとして機能していますが、単純に彼は柑橘系の果物が好きなのかもしれません。

丸善の役割

生活に余裕があったころ、「私」にとって丸善は心を踊らせる場でした。しかし借金まみれになってからというもの、あんなに好きだった丸善は恐怖の対象となります。このことから、丸善は「えたいの知れない不吉な魂」の象徴になっているのだと考えました。

ですがレモンを手に入れてから、「私」は再び丸善に乗り込みました。そして丸善にレモンを置いてきて、それが爆弾だったらと想像して「私」は愉快になり、丸善がこっぱみじんになることを考えます。

これは、丸善=「えたいの知れない不吉な魂」をぶち壊すことで、かつての自分から決別することを意味しているのではないかと思いました。

 

もう一つ、丸善に打ち勝ったことを象徴している部分があります。それは、レモンを画集で作った城のてっぺんに乗せたことです。画集は丸善で売られている物であるので、丸善の属性を持っています。

このことは、恐れていた丸善ひいては「えたいの知れない不吉な魂」より、「私」が優位になっていることを暗に示しているのではないかと考えました。

果物屋

またそこの家の美しいのは夜だった。(中略)それがどうしたわけかその店頭の周囲だけが妙に暗いのだ。(中略)しかしその家が暗くなかったら、あんなにも私を誘惑するには至らなかったと思う。(中略)そう周囲が真暗なため、店頭にけられた幾つもの電燈が驟雨しゅううのように浴びせかける絢爛けんらんは、周囲の何者にも奪われることなく、ほしいままにも美しい眺めが照らし出されているのだ。

小説の中で、果物屋の描写だけが占める割合はかなり多いです。このことから、「私」にとってこの果物屋は、大きな感動を与えてくれるものであることが読み取れます。

梶井基次郎は数々の作品で「光と闇」をテーマにしてきました。この果物屋の描写から分かるように、『檸檬』にも光と闇のコントラストが描かれています。「このような美しい果物屋に、人の心を健やかにさせる檸檬があることは必然だ」と言われているように感じます。

『檸檬』の感想

日常に価値を見出す天才

梶井基次郎の作品には、共感覚(感覚は個々に存在するのではなく、連動しているというもの。例えば、共感覚を持つ人は文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする)が盛り込まれることが多いです。

それからまた、びいどろという色硝子(ガラス)で鯛や花を打ち出してあるおはじきが好きになったし、南京玉(なんきんだま)が好きになった。またそれを嘗(な)めてみるのが私にとってなんともいえない享楽だったのだ。

あのびいどろの味ほど幽(かす)かな涼しい味があるものか。

引用部は、私が1番好きな共感覚が描かれている箇所です。見れば見るほどドロップに見えてくる不思議なガラスを、子供の時につい口に入れたことがある人はいるのではないでしょうか。

食べる前は、飴玉を頭の中に思い浮かべて、「きっとこれは甘い」と想像するのに、いざ口に入れてみるとなんてことないただのおはじきなのです。

ところが、梶井基次郎はそれを「幽かすかな涼しい味」と表現しました。子供のころ口に含んだおはじきはなんの味もしませんでしたが、確かに涼しい味がしたような気がします。

『檸檬』の感想文のヒント

  • 当時、丸善は人々にとってどのような場所だったのかを調べる
  • 自分が「私」なら、檸檬をどうするか考える
  • 他に檸檬にフォーカスした作品(高村光太郎「レモン哀歌」など)を読んでみる

作品を読んだうえで、5W1Hを基本に自分のなりに問いを立て、それに対して自身の考えを述べるというのが、1番字数を稼げるやり方ではないかと思います。感想文のヒントは、上に挙げた通りです。

ネットから拾った感想文は、多少変えたとしてもバレるので、拙くても自力で書いたものを提出するのが良いと思います。

『檸檬』の朗読音声

『檸檬』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。

『檸檬』の名言

“それにしても、心というやつはなんという不思議なやつだろう。”

檸檬を手に入れた私が、それを握った瞬間に「不吉な魂」が緩んできていることを感じて思ったことです。

日常生活でも、友人と話したり、少し散歩に出てみるだけで、引きずっていた悩みを気付かないうちに忘れていることがあります。

そういう時ばかりは、自分のものであっても、「心は何がきっかけで動くか分からないな」と思います。

最後に

今回は、梶井基次郎『檸檬』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

個人的に、非常に好きな終わり方をする小説です。私は落ち込んでいた気分から回復しする時、平常時よりも有頂天になる気がします。心が生き返った嬉しさと言えるような感覚です。

そのように浮き足立っている時というのは、いつもはできないようなこと、常識では理解されないようなことをやってみたくなります。周囲の人に顔をしかめられても、舞い上がった気分がそうさせます。

丸善で、売り物の画集を積み上げて1番上にレモンを置いてきた「私」も、こんな気持ちだっただろうかと考えます。そのような時に、私は「それにしても心というやつはなんという不思議なやつだろう」と思います。

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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