純文学の書評

【太宰治】『人間失格』のあらすじ・内容解説・感想|名言付き

「世界で最も売れている日本の小説」とも言われている『人間失格』。夏目漱石の『こころ』と発行部数を競うほど、長年愛されている作品です。

今回は、太宰治『人間失格』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『人間失格』の作品概要

著者太宰治(だざい おさむ)
発表年1948年
発表形態雑誌掲載
ジャンル中編小説
テーマ絶望

『人間失格』は、1948年に雑誌『展望』で発表された太宰治の中編小説です。太宰が自殺をする1か月前に書き終えた作品です。実話ではなく創作ですが、太宰の実人生をなぞったような小説です。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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2019年には小栗旬さん・宮沢りえさん・沢尻エリカさん・二階堂ふみさんの豪華なキャストで映画化もされていて、依然として人気のある作品です。

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『人間失格』は、文藝春秋からも出版されています。『ダス・ゲマイネ』『走れメロス』を含む計11作品が収録されていて、読みごたえがあります。他にも多くの出版社から本が出ています。

著者:太宰治について

  • 無頼(ぶらい)派作家
  • 自殺を3度失敗
  • 青森の大地主の家に生まれた
  • マルキシズムの運動に参加するも挫折した

太宰治は、坂口安吾(さかぐち あんご)、伊藤整(いとう せい)と同じ「無頼派」に属する作家です。前期・中期・後期で作風が異なり、特に中期の自由で明るい雰囲気は、前期・後期とは一線を画しています。

実家がお金持ちだった太宰は、成長するにつれて地主の家の子であることに後ろめたさを感じるようになります。そして社会主義の運動をするも挫折し、その心の弱さから自殺未遂を繰り返しました。

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『人間失格』のあらすじ

葉蔵は、幼い頃から人間の存在が理解できなかったり、人間に対して恐怖を覚えていました。そこで葉蔵は、おどけることで周りに上手く溶け込む術を身に付けます。上京した葉蔵は、友人からさまざまな遊びを教えられて堕落し、勘当されてしまいました。

その後、葉蔵はますます落ちぶれていき、酒やたばこにとどまらず薬物にも手を出すようになってしまいます。

冒頭文紹介

『人間失格』は、以下の一文からはじまります。

恥の多い生涯を送って来ました。

身もふたもない告白ですが、葉蔵の醜態をよく表している一文だと思います。

登場人物紹介

葉蔵

人の気持ちを理解することができない男。その得体のしれない恐怖と、誰にも相談できない孤独を感じながら生きている。

ヒラメ

葉蔵の父の知り合い。何かと葉蔵を援助するが、葉蔵からは嫌われている。

ツネ子

カフェ(風俗店)の従業員。葉蔵と入水自殺を試みる。

シヅ子

出版社で働くシングルマザー。娘のシゲ子と小さなアパートで暮らしている。

ヨシ子

17,8歳のタバコ屋の娘。葉蔵は、彼女の純潔さに惹かれる。

薬屋の奥さん

体が不自由な女性。葉蔵に薬を与える。

『人間失格』の内容

この先、太宰治『人間失格』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

異端者の苦悩

不気味な写真

『人間失格』は、葉蔵を知らない第三者「私」が、葉蔵が残した手記を読むという構成です。「はしがき」と「あとがき」はこの「私」によるもので、「第1、第2、第3の手記」は葉蔵によるものです。

はしがきでは、第三者が葉蔵の写真を見た写真の印象が語られます。1枚目は幼少期のもので、かわいらしさのなかに薄気味悪いものが感じられる不思議な表情の写真です。2枚目は、恐ろしく美貌の学生時代の写真ですが、生きている感じのしない気味の悪い写真です。

そして最後の1枚は、頭に白髪が見えますが、何歳なのかさっぱりとわからない写真です。

人間恐怖症

葉蔵は、幼い頃から他人が何を考えているのか理解できませんでした。顔色をうかがうことでしか相手の気持ちを理解する手段がありません。彼にとって、人間は理解しえない恐ろしい生き物でした。

「なぜ皆、実は欺きあっているのに表面上は傷ついてないよう、明るく振舞っているのだろうか?」と感じ、自分がそう考えていることはおかしいことなのではないかと悩みます。そう考えてしまう葉蔵は、ますます自分を孤独と感じながら、やがて中学校へ上がります。

彼はその恐怖を消し去って人に好かれるために、自分を偽って他人を笑わせるお調子者として生きてきました。彼はそれが演技だと皆に知られることを何よりも恐れて、誰にも理解されない孤独を感じながら成長します。

孤独を紛らわすもの

高等学校に進んだ葉蔵は、酒や煙草、左翼思想にのめり込みます。そうしている間は、恐怖がおさまるからです。

しかし学校に行っていないことが故郷の親に知られて仕送りがなくなり、遊ぶお金も無くなったため、葉蔵は出会ったばかりのツネ子と入水自殺未遂をします。ツネ子は亡くなり、葉蔵は助かりました。

シヅ子と葉蔵

その後、葉蔵は父の知り合いのヒラメに引き取られます。その時、葉蔵は漫画を描いて生計を立て始めるのですが、出版社で働くシヅ子と出会い、2人は同棲し始めます。

しかし葉蔵は、シングルマザーのシヅ子とその娘のシゲ子のささやかな幸福に押しつぶされそうになり、逃げてしまいました。自分がその幸せを壊してしまうのではないかと思ったからです。

ヨシ子と葉蔵

その後は、汚れを知らないタバコ屋のヨシ子の純粋さに惹かれ、彼女と一緒に住み始めます。酒を止めて幸福な生活を送っていた葉蔵ですが、ある事件をきっかけに一変してしまいます。

ヨシ子が、家を出入りしていた商人に犯されてしまったのです。葉蔵は、人を疑うことを知らない純粋無垢なヨシ子に惹かれていましてが、それが汚されてしまいました。

「神に問う。無抵抗は罪なりや?」と、葉蔵は信じていたものが壊されて失望してしまいます。そのショックで、葉蔵はまた酒に逃げてしまいます。

薬屋の奥さんと葉蔵

身体が不自由な薬屋の奥さんと知り合った葉蔵は、酒の代わりに薬物に溺れるようになっていきます。中毒になり、自分でもどうしようもなくなった葉蔵は再び自殺を考えます。

しかし、決行前にヒラメに精神病院へと連れていかれました。葉蔵は当初、療養所に行くのだと思っていました。

しかし、他人から精神病院に行くような狂人だと思われていたことに深く傷つき、自分は「人間失格」だと悟ります。(これには、実際に太宰が精神病院に送られた時のショックや絶望などの経験が深く関わっています)

死ぬに死ねず、夢も希望も、不幸も幸福も無い人生を振り返って、「毎年1歳年を取っている」という当たり前のことを悟り、葉蔵の物語は終わります。

あとがき

語り手は再び「私」に戻ります。そこで葉蔵の過去を知るマダムに話を聞くと、「私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした」と言いました。

『人間失格』の解説

葉蔵は本当に廃人か

葉蔵は、思考と行動に大きなギャップがあります。彼は至って冷静なのですが、酒や煙草、女遊びに薬物と、やっていることが常軌を逸しています。だからこそ、その行動を見た人は葉蔵を精神異常者だと思います。

ですが、葉蔵はそれが悪いことだと分かっています。分かっているのに、やってしまうという苦しさが、葉蔵を悩ませているのです。

 

また、孤独な葉蔵は誰かに気持ちを理解してもらうことを考えません。自分ひとりで抱え込んだ苦しさを誤魔化すために、快楽を求めて堕落するという悪循環に陥ってしまうのです。

だからこそ、誰かに相談していればこれほど堕ちることもなかったのではないのでしょうか。

葉蔵はなるべくしてなった廃人というよりも、環境のせいもあってなってしまった廃人と言うことができます。

『人間失格』の感想

「分かってる」葉蔵

葉蔵は、人の懐に入るのが実にうまい人です。特に小説に登場する女性は、おどける葉蔵が何か問題を抱えていることを見抜きます。そして心を許しているようで決して許さないミステリアスな葉蔵に、多くの女性は魅了されていきます。

それに加え「おそろしく美貌」な葉蔵は、近づきやすさと、それなのに決して他人が踏み込む事を許さない鋼の心と、弱さを武器に女性を惹きつけます。遊びに溺れるどうしようもない葉蔵に、彼女らはなぜか母性本能を掻き立てられるのです。

なぜかそういう人を放っておけなかったりする女性は、作中の女性たちがほいほい葉蔵のものになってしまう心理に強く同意できると思います。

『人間失格』の名言

ヨシ子が汚されたあとの葉蔵の言葉です。結局、薬屋の奥さんと関係を持ってしまうのでこの言葉はウソになりますが、追い詰められた葉蔵の切実な気持ちが伝わってくる文章です。

『人間失格』の朗読音声

『人間失格』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。

最後に

今回は、太宰治『人間失格』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

日本人として読んでおきたい作品なので、ぜひ手に取ってみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

ABOUT ME
yuka
「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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