純文学の書評

【今村夏子】『星の子』のあらすじ・内容解説・感想

『星の子』は、野間文芸新人賞を受賞し、映画の原作にもなっている今村夏子の代表作です。

今回は、今村夏子『星の子』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『星の子』の作品概要

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著者今村夏子(いまむら なつこ)
発表年2017年
発表形態書き下ろし
ジャンル中編小説
テーマ宗教と家族

『星の子』は、2017年に発表された今村夏子による書き下ろしの中編小説です。新興宗教を信じる両親のもとで育った少女が、徐々に自分が身を置いてきた環境に疑問を抱く様子が描かれています。

2017年に第39回野間文芸新人賞を受賞しました。2020年10月には、芦田愛菜さん主演で実写化された映画が公開予定です。

著者:今村夏子について

  • 1980年大阪府生まれ
  • 『こちらあみ子』でデビュー
  • 『むらさきのスカートの女』で芥川賞受賞
  • 小川洋子を敬愛している

今村夏子は、1980年生まれ大阪府出身の小説家です。風変わりな少女が主人公の『こちらあみ子』で第26回太宰治賞を受賞し、小説家デビューを果たしました。その後、第161回芥川賞を受賞し、再び注目されています。

作家の小川洋子を尊敬していて、『星の子』の巻末には2018年に文芸雑誌『群像』に掲載された、小川洋子と今村夏子の対談が収録されています。

『星の子』のあらすじ

病弱だったちひろは、両親から大切に育てられました。しかし病状が回復する過程で、両親は新興宗教にのめりこんでしまいます。ちひろはそうした環境に疑問を持つことなく育てられましたが、中学生になって両親や宗教と向き合います。

登場人物紹介

ちひろ

中学3年生の少女。新興宗教を信じる親に育てられた。少し変わっている。

ちひろの両親

ちひろの病気の回復に腐心した結果、新興宗教にはまってしまう。

雄三おじさん

ちひろの両親が宗教を信じていることを良く思っておらず、両親を説得する。

しんちゃん

雄三おじさんの息子。面倒見がよく、ちひろに慕われている。

なべちゃん

ちひろの友人。小学4年生の時にちひろのクラスに引っ越してきた。背が高くて美人。

南先生

ちひろの学校の数学教師。端正な顔立ちで、生徒から人気がある。

『星の子』の内容

この先、今村夏子『星の子』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

2世の生き方

宗教にはまる親

幼いころ病弱だったちひろは、両親に大切に育てられました。ちひろの父親は、会社の同僚の落合さんにちひろの話をしたところ、「それは水が悪いのです」と言われます。

落合さんに勧められるままに、両親は「金星のめぐみ」という水を使ってみました。すると、ちひろの病気が徐々に回復していきました。それからというもの、両親は水やその他の品を落合さんに紹介され、次々と試すようになりました。

ちひろが小学校に上がる頃には、両親は完全に宗教にはまっていました。親戚の雄三おじさんは、両親と話したり「金星のめぐみ」の中身を公園の水と入れ替えたりと、必死に説得します。しかし、両親は聞く耳を持ちませんでした。

「変質者」

ちひろが中学3年生になった年の春、南先生が赴任してきました。端正な顔立ちに加えて爽やかさを兼ね備えている南先生に、ちひろは思いを寄せます。ちひろは、授業中に南先生の似顔絵を描くようになりました。

ある日の放課後、友人のなべちゃんと、なべちゃんが好きな新村(しんむら)くんと学校に残っていたちひろは、南先生の車で家まで送ってもらうことになりました。

公園の前で降ろしてもらったちひろは、急に南先生に腕をつかまれます。先生の視線の先には、緑色のジャージを着て頭に濡れたタオルを乗せた男女がいました。

それは、ちひろの両親でした。両親は、頭に濡れタオルを載せると体調が良くなるということを信じていたのでした。南先生は、「最近増えてんだよ、季節はずれの変質者が……」と冷たく言いました。

説得

親戚の法要に1人で出席したちひろは、いとこのしんちゃんと再会します。しんちゃんは、「大事な話がある」と言ってちひろをカフェに呼びました。そこには雄三おじさんも現れます。

そして、雄三おじさんは「高校入学を機に今の家を出て、うちで暮らさないか」と提案しました。しんちゃんも、「両親とは距離を置いた方がいい」と説得しますが、ちひろは「今のままでいい」と言いました。

流れ星

12月、ちひろは教団が行う研修旅行に両親と参加することになりました。『交流の時間』『宣誓の時間』などのイベントを終え、ちひろは両親に呼び出されます。3人は宿泊所の外にある丘の上に立ち、静かに星空を見上げました。

両親は、流れ星が見えたとちひろに言います。しかし、ちひろは見ることができません。「みんなで流れ星を見るまで部屋に戻らないぞ」と父が言います。「……もう限界」とちひろは言います。

「もうちょっと」「でも目痛いし」「せっかくここまできたんだから」「もういいよ。お風呂の時間だってあるし」「ちーちゃん、もうちょっとだけ」と、両親は必死にちひろを引き留めます。その夜、3人はいつまでも星空を眺めつづけました。

『星の子』の解説

悪意

『星の子』を読んでいて印象的だったのは、大小さまざまな悪意が描かれていることです。

例えば、ちひろが西条くんという男の子に好意を寄せていることを知りながら、なべちゃんがちひろの背中の上で西条くんと手紙を交換する場面や、南先生の似顔絵を描くちひろをクラスメイトがからかうシーンに表れています。

特に、南先生がちひろをクラスメイトの前で公開処刑するところには明らかな悪意が感じられます。

「おれが前に立って大事なことをしゃべっているときに、いつもおれの似顔絵を描いているやつがいる!」(中略)
「まずその紙とえんぴつをしまえ。それからその水。机の上のその変な水もしまえ」

ちひろフィルターを通して、美化されまくっていた南先生の豹変ぶりに驚かされるシーンです。南先生は「非の打ち所のない爽やかイケメン」と読者に強烈に印象付けられていたので、その落差がよけいに南先生の残忍さを際立たせています。

また、ここで「変な水」は金星のめぐみを指しています。金星のめぐみを否定したということは、その効能を信じているちひろを否定しているということです。ちひろの淡い恋心が、踏みにじられるように散ったのも、このシーンの残酷なところです。

ちひろは少し空気を読めない節があり、このような悪意をあまり気にしていないか、そもそも気づいていない部分もあります。

悪意がちひろに向けられる原因は、ちひろが風変わりの少女だったのもあるかもしれませんが、宗教も絡んでいると思われます。こうした出来事が、ちひろに宗教と向き合うきっかけを与えたのではないかと思いました。

2世の感覚を共有する

『星の子』では、ちひろの1人称が語りに採用されています。これは、ちひろの目を通してしか物語が描かれないことを意味しています。ちひろの主観によって物語が進んでいき、第三者の視点が入ってくることはありません。

これが何を示しているかと言うと、宗教があるのが当たり前の生活が語られるということです。5歳のときに初めて落合さん(ちひろの父に金星のめぐみを勧めた人物)の家に行ったちひろは、頭の上に濡れタオルを載せている落合さんを見ます。

しかし、まだ子供のちひろがその光景に違和感を覚えることはなく、「お風呂屋さんごっこみたい」という無邪気な感想を抱きます。

それがちひろの家にもごく自然に取り入れられ、気づけば父親は仕事を辞めて宗教関係の人に紹介してもらったところで働き始め、家には祭壇がやって来て、金星のめぐみを持ち歩くことは当たり前になりました。

 

頭のタオルがただのおしぼりに見えたという描写や、雄三おじさんによる両親への説得、南先生が両親を不審者扱いしたこと、ちひろの姉が両親と縁を切ったことなどに第三者の目が表れていますが、基本的にはちひろの視点で世界が描き出されています。

他者の客観的な視点が取り入れられていないため、ちひろが宗教に関して疑問を抱いている様子は描かれません。

このことから、2世がその異常さに気づくのがいかに難しいか、読者は身をもって感じさせられます。ちひろの語りを読んでいると、濡れタオルを頭にのせていたり、両親がそろって緑色のジャージを着ていたりすることが気に止まらなくなるからです。

1人称がこの小説に採用されたのは、読者にこうした2世の感覚を共有させる狙いがあったのだと思いました。

『星の子』の感想

2世の苦しみ

ちひろは周りからの目に疎かったり、宗教がきっかけで友達ができなくても気にする素振りを見せなかったり、良くも悪くも鈍感な少女です。

だからこそ、両親と縁を切って家を出て行ったちひろの姉とは対照的で、「2世のちひろが信者の両親と戦う」という構図は見られません。

しかし、最後のシーンでは、ちひろが宗教を辞めることがほのめかされています。両親はちひろに高校の話を振り、それとなく宗教から離れることを匂わせますが、鈍感なちひろはそんな両親の気持ちに気づくことができません。

 

当初、ラストは教団で地位の高い海路(かいろ)さんと昇子(しょうこ)さんという人物が草むらに隠れている、というものでした。その後、現行の終わり方に変えられています。

私はそれを知ったとき、親子3人で終わった方がまだ希望が見えていいなと感じましたが、それは宗教を信じていない人間の勝手な思い込みかもしれないと思いました。

子供のころから信じている人にとっては、宗教のない世界で生きることのほうが辛いのかもしれないし、新興宗教を100%悪とみなすのは押しつけがましいです。社会と教団のはざまにいる2世の迷いや苦しみが、『星の子』には描かれています。

『星の子』の書評

  • ALL REVIEWS 翻訳家・鴻巣 友季子さんの書評です。
  • BookBang ライター・ 三浦天紗子さんの書評です。
  • 好書好日 文芸評論家・斎藤美奈子さんの書評です。

最後に

今回は、今村夏子『星の子』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

芥川賞作家の話題作なので、ぜひ読んでみて下さい!

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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