純文学の書評

【村田沙耶香】『しろいろの街の、その骨の体温の』のあらすじ・内容解説・感想

『しろいろの街の、その骨の体温の』は、少女の性や欲望を描くことを得意とする芥川賞作家・村田沙耶香の小説です。

今回は、村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『しろいろの街の、その骨の体温の』の作品概要

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著者村田沙耶香(むらた さやか)
発表年2012 年
発表形態書き下ろし
ジャンル長編小説
テーマ価値観の獲得

『しろいろの街の、その骨の体温の』は、2012年に発表された村田沙耶香による書き下ろしの長編小説です。開発が進むニュータウンを舞台に、中学2年生の少女が閉鎖的な教室での戦いを経て成長する様子が描かれています。野間文芸新人賞受賞作です。

著者:村田沙耶香について

  • 日本の小説家、エッセイスト
  • 玉川大学文学部卒業
  • 2003年に『授乳』で群像新人文学賞優秀賞受賞。
  • 人生で一番読み返した本は、山田詠美『風葬の教室』

村田沙耶香は、1979年生まれの小説家、エッセイストです。玉川大学を卒業後、『授乳』でデビューしました。

山田詠美の『風葬の教室』から影響を受けています。ヴォーグな女性を賞する「VOGUE JAPAN Women of the year」に選ばれたこともあります。美しく年を重ねている印象がある女性です。

『しろいろの街の、その骨の体温の』のあらすじ

主人公の結佳は、開発が打ち切りとなって墓場のようになってしまった街の中学校に通っていました。そして、クラスに5つあるグループの中で下から2番目の集団に属しています。

結佳は表面上は大人しい女の子を演じていますが、心の中では自意識過剰なクラスメイトをバカにしていました。

さらに小学校からの友人の伊吹との関係に悩みつつ、「大人になること」を模索します。そして、教室という枠から飛び出したときに結佳はあるものを手に入れるのでした。

登場人物紹介

結佳(ゆか)

主人公。クラスの反感を買わないように傍観者として過ごしている反面、心の中でクラスメイトをあざ笑っている。

伊吹(いぶき)

結佳の同級生。結佳と同じ書道教室に通っている。誰とでも分け隔てなく接する人気者。

若葉(わかば)ちゃん

結佳の友人。小学生の時にニュータウンに引っ越してきた。大人びていて、あか抜けている。

信子(のぶこ)ちゃん

結佳の友人。身なりに気を使わず、趣味が子供っぽい少女。

『しろいろの街の、その骨の体温の』の内容

この先、村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

自分のものさしを手に入れるまで

膨張する街

小学4年生の結佳は、白がシンボルカラーのニュータウンで暮らしています。空き地には次々とビルやマンションが建設され、街には工事の音が響いています。結佳は、生き物のように膨張するこの街が嫌いでした。

ニュータウンにある結佳の学校には、長い休みが終わると1クラスに7~8人の転校生がやって来ます。おしゃれで可愛い若葉ちゃんもそのうちの1人でした。

結佳は、大人びている若葉ちゃんに憧れていました。結佳は、信子ちゃんや若葉ちゃんとおそろいのものを買ったりして遊びました。

結佳は習字がきっかけで仲良くなった伊吹と、街の探検をします。結佳は、無邪気に話をする小柄な伊吹を、少しだけバカにしながら見ていました。

閉塞的な教室

結佳が中学2年生になると、予算の関係で街の開発はぴたりと止んでしまいました。結佳は、クラスの中で5つある女子のグループの中で、下から2番目に位置しています。若葉ちゃんは1番上のグループにいて、結佳は大人しくて真面目な女子グループの一員です。

一番下のグループには、信子ちゃんがいました。結佳は信子ちゃんとは目を合わせないように努め、若葉ちゃんは露骨に信子ちゃんを無視しています。

 

サッカー部の副部長を務めている伊吹は、教室内のカーストに気づいていないため、かえって人から好かれていました。自然と上位グループに属している伊吹は、女の子の憧れの対象です。

しかし、伊吹は下から2番目の結佳にも気兼ねなく話しかけてくるため、結佳はそのたびに上位グループの女の子の目におびえるのでした。

その女の子たちに目を付けられないように、結佳は「学校で話しかけないで」と伊吹に言います。それが理解できない伊吹は、結佳に反発します。結佳は、「教室では、正しさなんて何の役にも立たない」と思うのでした。

あがき

ある日、駅前のダイエーに行った結佳は、ファッション誌を抱えた信子ちゃんに会います。しかし、それは上位グループの女の子たちが読んでるものよりも子供っぽい雑誌でした。信子ちゃんは、「イメチェンして見返すの!」と意気込みます。

後日、学校に香水をつけてきた信子ちゃんの前で、上位の男の子が「この辺、くさくねー?」とあからさまに言いました。休み時間の間じゅう、信子ちゃんは手首を洗っていました。

それからしばらくして、クラスには信子ちゃんがクラスの中森くんに告白をしたというウワサが流れます。中森くんは、「あんなの女じゃねーよ」と言い放ちました。

変わる

習字のあと、結佳は伊吹と一緒に帰り、伊吹の家に行きました。翌日学校に行ってみると、「結佳が伊吹の家に押し掛けた」という風に、話がねじ曲がって広がっていました。

結佳は、伊吹に好意を抱いていた女の子たちから無視されるようになってしまいました。一度教室の枠から外れた結佳は、そのあまりの静けさに拍子抜けします。

校外学習で乗るバスの座席決めの時、バカにされていた信子ちゃんがついに怒りました。感情を爆発させて、転んでも戦う信子ちゃんを見た結佳は、その姿を美しいと感じます。

 

春休みを終えて3年生になった日、結佳は開発が再開してまた工事の音を立てるようになった街を自転車で走ります。塞がれていた街のトンネルは抜けていて、そこからはどこに繋がっているか分からない真っ白な道が伸びていました。

『しろいろの街の、その骨の体温の』の解説

自分の軸を持つ

この作品では、絶対的なスクールカーストや性への目覚めなどを通して中学生の生きざまが描かれていますが、テーマは「一言で言うと」にも書いた通り、「自分のものさしを手に入れる=自分の価値観を持つ」ことなのではないかと思いました。

教室では、上位グループの生徒が下位グループの生徒をおとしめ、高らかに笑っています。しかし、逆に教室を出てしまえば、カーストは何の効力も持ちません。教室という世界しか知らない結佳は、それに違和感を覚えながらも教室のルールに従います。

そんな結佳は、伊吹のストーカー呼ばわりされて無視されるようになった時、ようやく教室とは無関係の場所に身を置きます。そのとき結佳は、思いがけない静けさを感じました。

これは、結佳が教室から疎外されたことで、教室を支配していたルール(若葉ちゃんのような女の子が「上」で、信子ちゃんのような女の子が「下」というもの)から抜けだし、自由になったことを意味しています。

 

そのあと結佳は、クラスから容姿をバカにされていた信子ちゃんが反逆するのを見て、「美しい」という感想を抱いています。これは、「『上』が美で『下』が醜」というおかしなルールがまかり通っている教室では考えられないことです。

教室から出た結佳は、教室が持っている価値観にとらわれない、自分自身のものさしを見つけることができたため、「全力で感情をむき出しにする信子ちゃんは美しい」と素直に感じることができたのでした。

このように、結佳が閉鎖的な共同体の中にある独特のカラを破り、自分だけの判断基準を手に入れるまでの過程が、『しろいろの街の、その骨の体温の』には描かれていると感じました。

『しろいろの街の、その骨の体温の』の感想

中学校というおかしな場所

『しろいろの街の、その骨の体温の』は、自意識過剰な少年少女が押し込まれている中学校ならではの、妙な雰囲気が忠実に再現されている小説だと思いました。結佳と信子ちゃん、若葉ちゃんの関係が、小学校と中学校で対比されているのが残酷です。

この作品には、クールに振舞いながらも自分の見え方を執拗に気にしている男の子や、逆に結佳のように自己嫌悪に陥っている女の子が描かれています。

「あんたくらいの子は、自分のことを世界で一番醜いと思ってるか、可愛いと思ってるか、どっちかなんだから」という結佳の母親の言葉が的確で、「他人は、そこまであなたのこと見てないよ」と言いたくなるような子供たちが登場します。

 

作者の村田沙耶香は、インタビューで「朝、挨拶するタイミングも、教室に入るときに『おはよう』か、机についてから『おはよう』がいいのかと悩みに悩んで、けっきょく黙って座ってしまうような感じだったんです」と語っています。

作者自身、相当「気にし過ぎる」人物だったようです。こういう作者だからこそ、途中で読むのが嫌になるくらいリアルな、2年E組の内部を描き出せたのだと思いました。

最後に

今回は、村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

街の白と墨汁や夜の黒が対比されていたり、街の膨張と結佳の成長がリンクしていたりと、まだまだ考察の余地がある興味深い作品です。ぜひ読んでみて下さい!

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yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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