純文学の書評

【内田百閒】『残夢三昧』のあらすじと内容解説・感想

寝ても覚めても夢を見る、とあるねぼすけが語り手の『残夢三昧』。

今回は、内田百閒『残夢三昧』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『残夢三昧』の作品概要

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著者内田百閒(うちだ ひゃっけん)
発表年1969年
発表形態単行本
ジャンル短編小説
テーマ夢かうつつか幻か

『残夢三昧』は、1969年11月に三笠書房から刊行された内田百閒の短編小説です。夢と現実の境界があいまいな語り口が特徴です。

著者:内田百閒について

  • 1889年岡山県生まれ
  • 夏目漱石の弟子
  • 法政大学教授
  • 代表作は『阿房列車』

内田百閒は、1889年生まれ岡山県出身の小説家です。夏目漱石の弟子で、川上弘美に影響を与えた幻想的な世界観が特徴。

31歳のときに法政大学の教授に就任しました。大阪旅行を題材にしたエッセイ『阿房列車』は、代表作となりました。

『残夢三昧』のあらすじ

眠ることが大好きな「私」は、あるとき昼前か夕方か分からない時間に目を覚まします。すると、そこへなぜか有名な踊りの師匠がやって来ました。知り合いの男もやってきて、そこはカオスな空間と化します。

その後も、脈絡なくさまざまな人物が登場し、私を混乱させるのでした。

登場人物紹介

1日12時間くらい眠るほど、寝ることが好き。この「眠たがり屋」の体質は、母親から受け継いだものだと思っている。

踊りの師匠

年配の女性。有名な踊りの先生。

木田(きだ)

「私」の知り合いの文芸評論家。

女中(じょちゅう)

「私」の家で7年ほど働いていた女性。結婚して田舎に帰った。

ノラ

「私」が以前飼っていた猫。とうとう家に帰ってくることはなかった。

『残夢三昧』の内容

この先、内田百閒『残夢三昧』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

半分寝てて半分起きてるときの話

夢と現実のはざま

昼前か夕方か分からない時間に、は目を覚ましました。もし夕方だったら、床屋が来ているかもしれない。いや、床屋に電話をしたのはいつだったか。目覚めた後のぼんやりした頭で、私は考えを巡らせます。

そのとき、私が寝ている部屋になぜか踊りの師匠が入ってきました。その師匠が帰る前に、今度は知り合いの文芸評論家である木田がやってきました。木田は、靴を脱ぐときに靴べらを使っていました。

それから、以前私の家で女中をしていてすでに田舎に帰っているはずの女性が庭にやってきます。

夢の中でもまだ眠たい私ですが、その夢の景色の中で、とうとう家に帰ってくることのなかった猫のノラが、涙を流していました。

『残夢三昧』の解説

境界としての夢

『残夢三昧』では、現実と夢(非現実)が混ざったような世界が展開されています。この、2つの対立するものの区別がつかないという性質を考えたとき、本作は生と死の境さえあいまいなものにしている可能性を指摘できます。

というのは、この作品には2つの死が意識されていると考えられるからです。1つは、「私」の母と祖母の死です。『残夢三昧』が発表されたのは1969年11月であり、百閒の死の2年前に書かれたことになります。

よって、彼女たちはすでに亡くなっていることになります。その母と祖母が夢の中で生きている状態で登場するという意味で、「私」は夢を通してすでに亡くなった彼女たちと会ったと言うことができます。

 

2つ目は、百閒自身の死です。『残夢三昧』に登場する人物は、面識のない踊りの師匠から知り合いの木田、家で働いていた女中の順に登場します。そして、最終的には「私」の母と祖母が思い出として登場します。

このことから言えるのは、登場人物は徐々に「私」との関連度が高くなっていくということです。そうした様子や、文脈に関係なく次々と人物が立ち現れる様子は、走馬灯(そうまとう)をほうふつとさせます。

百閒が亡くなる2年前に書いた作品だという事実と照らし合わせても、やはり『残夢三昧』では生と死の境界があやふやになっていると言えると思います。

『残夢三昧』の感想

これぞ夢小説

夢というのは不思議なもので、目覚めてから冷静に考えるとカオスなのに、夢を見ているときはそれが当たり前に感じられたりします。

「私」のもとには、なぜか有名な踊りの師匠がやってきて、彼女は「私」とは面識がないはずなのになぜかなれなれしい様子でいる。そこへ木田がやってきて、靴ベラを使って靴を脱ぐ(本来、靴ベラは靴を履くときに使うもの)。

隣の家の犬は「私」の家の庭で鳴いているし、以前住み込みで働いていた女性もどういうわけか庭にいる。

文脈も時系列もぐちゃぐちゃでつながりがなく、休む暇もなくいろいろな人物が次々と現れます。この渾沌(こんとん)とした感じを小説をしてそのまま表現するのが斬新で、「これが小説として成り立ってしまうんだ」という意外さに面白さを感じました。

最後に

今回は、内田百閒『残夢三昧』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

つかんだと思ったら、するすると抜けて行って思い出せない、そんなとりとめのない夢が描かれている小説です。ぜひ読んでみて下さい!

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人1年生。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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