純文学の書評

【芥川龍之介】『桃太郎』のあらすじ・内容解説・感想|朗読音声付き

『桃太郎』は、昔ばなしの桃太郎をパロディ化したもので、当時の社会を風刺した作品です。

今回は、芥川龍之介『桃太郎』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『桃太郎』の作品概要

著者芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
発表年1924年
発表形態新聞掲載
ジャンル短編小説
テーマ支配

『桃太郎』は、1924年に『サンデー毎日』(臨時増刊)で発表された芥川龍之介の短編小説です。桃太郎が、鬼ヶ島で平和に暮らしていた鬼を支配するという、昔話の桃太郎とは解釈の違う物語が展開されます。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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『桃太郎』は、岩波文庫から出ている短編集に収録されています。芥川は児童向けの小説を多く書いた作家ですが、そうした子ども向けに分類される作品が収められています。

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『桃太郎』は、書籍の装画やポスター、グッズ等に作品を提供している画家の寺門孝之(てらかどたかゆき)さんによって絵本化されています。大人向けの文学絵本です。

著者:芥川龍之介について

  • 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
  • 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
  • 35歳で自殺
  • 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立

芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺しました。作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。

学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。

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『桃太郎』のあらすじ

むかしむかし、ある深い山の奥に地下から天上まで伸びる大きな木がありました。その木には、子供が入っている実がなっていました。カラスがそのうちの1つを落とし、人間のおばあさんが拾いました。

その実から生まれた桃太郎は、鬼退治をしに旅に出ます。犬がきび団子を1つ欲しいと言ってやって来ますが、桃太郎は「半分しかやれない」と言い張って犬をお供にしました。そして、桃太郎は鬼たちが平和に暮らす鬼ヶ島を襲撃するのでした。

登場人物紹介

桃太郎

天上にある桃の木の実から生まれた。冷酷な人物。

桃太郎のお供。猿に主従の道徳を教える。

桃太郎のお供。一時はお供をやめようとしたが、鬼ヶ島のお宝の話を聞いて踏み留まる。

雉(きじ)

桃太郎のお供。地震学の素養がある。

鬼たち

孤島の楽園で暮らしている。人間を恐ろしい生き物だと思っている。

『桃太郎』の内容

この先、芥川龍之介『桃太郎』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

侵略する桃太郎

桃太郎の誕生

むかしむかし、大むかし、深い森の奥には地の底から天まで届く大きな木がありました。その木には、1万年に一度子供が入った実ができます。

一度できた実は1万年間は地に落ちません。しかしある朝、八咫烏(やたがらす。神話に登場する神)がやってきて、実を人間の世界に落としてしまいました。

落ちた実は川で洗濯をしていたおばあさんに拾われ、生まれた子供は桃太郎と名付けられました。成長した桃太郎は、おじいさんやおばあさんのように山や川や畑で仕事をしたくないと思い、鬼を倒しに行くことにしました。

鬼が島へ

桃太郎が旅に出ると、飢えたがやってきて「きび団子を1つ下さい」桃太郎に言いました。しかし、桃太郎は「1つはやれぬ、半分やろう」と言い張ります。仕方なく、犬は半分のきび団子で桃太郎のお供をすることにしました。

その後、桃太郎はきび団子でをお供に付けました。犬・猿・雉は非常に仲が悪かったため、争いを繰り返しました。

しかし、桃太郎の「ではお供をするな。その代わり、鬼ヶ島の宝物は分けてやらないぞ」という言葉を聞いた動物たちは、素直に桃太郎に従って鬼ヶ島へ急ぐのでした。

鬼ヶ島の征服

鬼ヶ島は孤島にありましたが、そこはヤシの実がなっていたり、鳥がさえずっていたりと平和で豊かな場所でした。鬼たちは、琴を弾いたり踊ったりして楽しく暮らしていました。

鬼のおばあさんは、「人間は嘘を言うし、欲は深いし、焼餅は焼くし、己惚は強いし、仲間同志殺し合うし、火はつけるし、泥棒はするし、手のつけようのない毛だものなのだよ……」と孫に言って聞かせます。

鬼が島にやってきた桃太郎は、「鬼という鬼は見つけ次第、1匹も残らず殺してしまえ!」と犬・猿・雉に命令します。大虐殺ののち、鬼の首長は降参して、桃太郎が鬼ヶ島を襲撃した理由をおそるおそる尋ねました。

すると、桃太郎は「鬼が島を征伐したいと思ったからだ」と言いました。

桃太郎のその後

桃太郎は、人質に取った鬼の子に宝物の乗った車を引かせて故郷に帰りました。しかし、その後は雉が鬼の子にかみ殺されたり、鬼ヶ島の鬼が桃太郎の家にやってきてその命を狙ったりと、桃太郎は大変な人生を送りました。

天上の桃の木には、未来の天才たちが眠っている実がいくつもできているのでした。

『桃太郎』の解説

風刺の対象

『桃太郎』は、日本帝国主義のアジア侵略を批判していると読むことができます。南国を思わせる鬼ヶ島は、日本が大東亜共栄圏の建設のために行った、東南アジアへの進出を表しています。

また、雉が「地震学に精通している」という設定も重要です。雉は地震を予知するという俗説がありますが、もともと昔話の桃太郎にこのような設定がなく、芥川がわざわざ付け加えたという点で注目すべきポイントなのです。

『桃太郎』は1924年に発表され、その前年には関東大震災がありました。「地震学」というワードは、当時の読者に関東大震災を思い起こさせるものとして機能しています。

 

そして、関東大震災の時に起きたのは、朝鮮人や中国人、社会主義者の大虐殺です。この虐殺は、震災の混乱で「朝鮮人は放火する」等のデマが広がり、罪のない人々が一般市民に殺害されたというものです。

『桃太郎』は、こうした短絡的な虐殺を風刺している作品です。わざわざ昔話を用い、回りくどく風刺する方法を選んだのは、検閲の対象にならないための配慮だと考えられます。

 

また、桃太郎は鬼の首長の「なぜ鬼ヶ島を攻撃したのですか?」という問いに対し、「鬼が島を征伐したいと思ったからだ」というトートロジー的な返答をしています。

トートロジーとは、「おなかが痛い」「なぜおなかが痛いの?」「おなかが痛いから」というような、同じ語の無意味な反復のことです。桃太郎と鬼の首長の会話は、不条理で理不尽な侵略への批判を表しているのです。

桃太郎が「征伐したいと思ったからだ」と言った後、「どうだ?これでもまだわからないといえば、貴様たちも皆殺してしまうぞ」と恐怖を与えて無理やり鬼を降伏させているところからも、それが読み取れると思います。

原田光三郎「芥川龍之介における主体の問題:「桃太郎」を中心に」(『論叢国語教育学』2015年)

『桃太郎』の感想

鬼のイメージをくつがえす

『桃太郎』は、桃太郎が侵略者で、鬼が平和主義者という、昔話のイメージを180°転換させたユニークな作品だと思いました。個人的に、「鬼というものは元来我々人間よりも享楽的に出来上った種族らしい」という文章が面白かったです。

確かに、思い返してみれば「こぶ取りじいさん」や「一寸法師」に登場する鬼は、歌ったり酒を飲んだり踊ったりする、愉快な生き物だったなと思いました。高校の古文の授業で定番の「大江山」に出てくる鬼も、よく酒を飲みます。

古典に精通しており、平安時代の説話集である今昔(こんじゃく)物語や宇治拾遺(うじしゅうい)物語を題材に、『』『羅生門』を書いた芥川ならではの発想だと感じました。

 

また、「木に子供がなる」という設定を知ったとき、小野不由美の『十二国記』を思い出しました。

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『十二国記』の場合は、子供がなった実のことを「胎果(たいか)」と呼んだり、親が祈れば実を結んだりするという点で『桃太郎』とは違いますが、原理は同じだと思います。

「子供が木に実る」というモチーフが、他の作品にも使われているかを調べてみたいと思いました。

『桃太郎』の朗読音声

『桃太郎』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。

最後に

今回は、芥川龍之介『桃太郎』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

青空文庫でも読めるので、ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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