純文学の書評

【宮沢賢治】『オツベルと象』のあらすじ・内容解説・感想

小中学校の教科書で採用されることが多く、馴染みのある人も多い『オツベルと象』。

今回は、宮沢賢治『オツベルと象』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『オツベルと象』の作品概要

著者宮沢賢治(みやざわ けんじ)
発表年1926年
発表形態雑誌掲載
ジャンル童話
テーマ資本家と労働者

『オツベルと象』は、1926年に雑誌『月曜』(創刊号)で発表された宮沢賢治の童話です。地主のもとにやって来た白象が、酷使される様子が描かれています。賢治の数少ない生前発表作品の1つです。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:宮沢賢治について

  • 仏教と農民生活に主軸を置いて創作活動にはげんだ
  • 宗派の違いで父親と対立
  • 理想郷・イーハトーブを創造
  • 妹のトシと仲が良かった

宮沢賢治は熱心な仏教徒で、さらに農業に従事した人物です。宗派の違いで父親と対立し、なかなか和解には至りませんでした。故郷の岩手県をモデルにした理想郷・イーハトーブを想像で創り上げ作品に登場させました。

妹のトシは賢治の良き理解者で、トシが亡くなったときのことを書いた『永訣(えいけつ)の朝』は有名です。

賢治は、コスモポリタニズム(理性を持っている人間はみな平等という思想)の持ち主であるため、作品にもその色が出ています。生前はほとんど注目されず、死後に作品が評価されました。

『オツベルと象』のあらすじ

オツベルは、工場を経営している資本家です。ある日、オツベルのもとに白象がやって来ました。そして、白象はオツベルに騙され、そこで働くことになります。

始めこそ楽しく働いていた白象ですが、酷使されたり、エサを減らされたりしたせいで徐々に動けなくなります。そんなとき、月は白象にアドバイスをするのでした。

登場人物紹介

オツベル

穀物から茎をはずす、稲こき工場を経営する大金持ち。白象を奴隷のように使う。

白象

オツベルの工場に迷い込んできた象。上手く丸め込まれ、オツベルに使われる。

『オツベルと象』の内容

この先、宮沢賢治『オツベルと象』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

資産家と労働者

森からやって来た象

オツベルは、新式の稲こき機を6台も取りそろえるような大金持ちです。ある日、いつものようにオツベルが労働者たちを監視していると、一頭の白象が迷い込んできてきます。

労働者たちは驚きましたが、象と関わらないようにもくもくと仕事を続けます。オツベルは、象の動きを注意深く観察します。

 

そして、覚悟を決めて「ここは面白いかい?」と話しかけます。すると象は、うぐいすのような声で「面白いねえ」と答えました。 「ずっとここにいたらどうだい」と言うと、「いてもいいよ」と象は言いました。

それを聞いたオツベルは、顔を真っ赤にして喜びました。ここで働かせても、サーカス団に売り飛ばしても、オツベルは大金を手にすることが確定したからです。

酷使される象

その次の週から、オツベルは象を働かせます。そして象が逃げないように、大きなブリキの時計や鎖をつけるのでした。

そのまま川に水を汲みに行かせ、夜は10束のわらを与えました。それを食べながら、象は月を見上げて「稼ぐのはゆかいだね」と言うのでした。

次の日、象はは900束のたきぎを運び、8束のわらを食べながら「せいせいした、サンタマリア」と言いました。

その次の日、オツベルは象に鍛冶場で炭火を吹かせます。その夜、象は7束のわらを食べながら「つかれたな、うれしいな、サンタマリア」と言いました。

 

数週間後、酷使された象は徐々に笑わなくなり、充血した目でオツベルを見下ろすようになります。わらも食べられなくなった象は、月を見ながら「もうさようなら、サンタマリア」と言いました。

すると、月は「仲間に手紙を書けばいい」と言いました。象が「筆も紙もありません」と言うと、それを持った子供が象の前に現れました。象は手紙を書き、子供に託します。

仲間の助け

手紙を見た象の仲間たちは、「グララアガア、グララアガア」と叫びながら走り出しました。昼寝をしていたオツベルは、百姓たちが騒ぐ声で目を覚ましました。

そして、「早く丸太を持って来い。とじこめちまえ。わざと力を減らしてあるんだ。 門をしめろ。かんぬきをかえ。しっかりしろ」と的確に指示を出します。

オツベルは、突進してくる象をピストルで迎え撃ちますが、象のたちはそれを跳ね返します。そして、オツベルは潰されてしまいました。象は、牢屋に飛び込んで鎖や時計を外してくれる仲間を見て、寂しく「助かったよ」と言いました。

『オツベルと象』の解説

なぜ、オツベルは白象を恐れたのか

オツベルとオツベルのもとで働く百姓たちは、白象を恐れています。その理由について、語り手は「何をしだすか分からないじゃないか」と言っていますが、白象の様子は至って穏やかで、乱暴するようには見えません。

結論から言うと、彼らは「白象と意思疎通ができないこと」を恐れていたのです。コミュニケーションは、それが使われた場所やその背景、文脈を共有しなければ成立しません。

オツベルは、どこからどんな目的でやって来たか分からない白象と、自分の間で言葉のやり取りを正しく行えるかが分からなかったため、白象に恐怖心を抱いたのです。

例えば、白象が 「石も投げ飛ばせるよ」と言ったとき、オツベルは動揺しました。オツベルには、白象が単に力を誇示しているのではなく、そこに「オツベルに石を投げ飛ばすことだってできる」という意図を読み取ったからです。

横山信幸「宮沢賢治「オツベルと象」と〈第三項〉」(『日本文学』2013年)

『オツベルと象』の感想

「白」に注目

白象の「白」というのに注目して読みました。これは、他の象とは違う白象の決定的な特徴だからです。白には、清純・純粋・神聖というイメージがあります。

象は、人を疑うことを知らない純粋さや、月と話せる特殊能力(神聖さ)を持ち合わせています。そういった特徴が、「白」で表されていると思いました。

また、白痴(はくち、たわけ)という言葉があります。これは「ばか者」という意味ですが、世間を知らないお人好しの象が、まんまとオツベルに騙されているのは側から見るとばからしいです。

よって、白象の「白」には、神聖で高尚な意味を含みつつ、一方ではばかにするような意味もあったのではないかと思いました。

 

さらに、賢治は変わった擬音を使う作家です。象が迫ってくるシーンでは、「グララアガア」という擬音が使われました。初めて読んだときは、あまりにもなじみがないので違和感を覚えましたが、今では象と言ったら「グララアガア」がしっくりきます。

彼は、独特の言葉を創り出して物語を書いているので、賢治の造語を集めた辞書を作ったら面白いと思いました。

最後に

今回は、宮沢賢治『オツベルと象』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

教科書によく採用されている話なので、読んだことのある人も多いと思います。この機会に、ぜひもう一度読んでみてください!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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