純文学の書評

【芥川龍之介】『魔術』のあらすじと内容解説・感想|朗読音声付き

芥川は、『蜘蛛の糸』『犬と笛』『杜子春』『アグニの神』など数々の童話を執筆していますが、『魔術』もそのうちの1つです。

今回は、芥川龍之介『魔術』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『魔術』の作品概要

著者芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
発表年1920年
発表形態雑誌掲載
ジャンル童話
テーマ

『魔術』は、1920年1月に雑誌『赤い鳥』で発表された芥川龍之介の童話です。魔術の教えを乞う男の末路が描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

『魔術』は童話であるため、絵本でも楽しむことができます。

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著者:芥川龍之介について

  • 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
  • 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
  • 35歳で自殺
  • 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立

芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。芥川は作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。堀は、芥川を実父のように慕いました。

しかし晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺してしまいます。

芥川とは学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。

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『魔術』のあらすじ

私は、魔術を使うミスラ君と親交があります。あるときミスラ君の魔術を目の当たりにした私は、自分も魔術を学びたいと申し出ます。ミスラ君は、魔術を使うには欲を捨てなければならないと言いました。

それを承諾した私は、魔術の修行を始めるのでした。

登場人物紹介

ミスラ君と懇意にしており、ミスラ君に魔術を教えてもらう。

マティラム・ミスラ

カルカッタ生れの愛国者。ハッサン・カンの魔術を学んだ大家。私に魔術を教える。

『魔術』の内容

この先、芥川龍之介『魔術』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

一見簡単そうなことが、実は一番難しい

ミスラ君の家

は、魔術を使うミスラ君が住む大森の町外れの西洋館に向かっています。ミスラ君はインドのカルカッタ生まれの愛国者で、ハッサン・カンの魔術を学んだ人物です。私はミスラ君の魔術を見るために、人力車に乗って館に赴いたのでした。

修行の始まり

私がミスラ君の家に着くと、ミスラ君は出迎えて私に葉巻を勧めます。

そして、「私がハッサン・カンから学んだ魔術は、あなたでも使おうと思えば使えますよ」と言って、ミスラ君はテーブルクロスの花の模様を取り出しました。そしてまたテーブルクロスの中に戻すのです。

それからミスラ君は、ランプをコマのように回したり、本棚から本を飛びださせたりしました。

ミスラ君の魔術を見た私は、「私にも魔術は使えますか」と問います。ミスラ君は、「誰にでも造作なく使えます。ただ、欲のある人間には使えません」と言いました。こうして私は、欲を捨てることを条件にミスラ君に魔術を教えてもらうことにしました。

1ヶ月後、私は友人の前で魔術を披露することになりました。私は暖炉の中の石炭を手に取り、それを金貨に変えてしまいます。友人たちは。「この魔術を使えば大金持ちになれるだろう」と言いました。

しかし私は、「僕の魔術は、一旦欲を起したら二度と使うことが出来ないのだ。だからこの金貨は、すぐにまた元の暖炉の中へほうりこんでしまおうと思っている」と言います。

すると友人の1人が、「賭けをして買った方が金貨を好きにできるようにしよう」と提案しました。

 

私は断りましたが、しぶしぶ勝負をすることになりました。勝負に勝ち続けた私は、次々と友人の財産を巻き上げていきます。

焦った友人は、自身の全財産を賭ける代わりに、私にも石炭から生んだ金貨と、今まで友人から巻き上げた金を全て賭けるよう強要します。その瞬間、私には「金貨を奪われたくない」という欲が出ました。

 

最終的に私が勝ち、喜びの声を上げたときふと周りを見回すと私はミスラ君の部屋にいました。

指に挟んだ葉巻の様子から察するに、時間は1ヶ月ではなく2〜3分しか経っていないようです。この数分の間に、私には魔術を身につける資格がないことが露呈してしまったのです。

恥ずかしそうにうなだれる私に、ミスラ君は「私の魔術を使おうと思ったら、まず欲を捨てなければなりません。あなたはそれだけの修業が出来ていないのです」と言いました。

『魔術』の解説

「私」とミスラ君の違い

高橋氏は、「欲を捨てなければ魔術を使えないのに、なぜミスラ君は魔術が使えるのか」という疑問から出発し、論を展開しています。

「永年印度の独立を計つてゐるカルカツタ生まれの愛国者」であるミスラ君には、「インドの独立を果たしたい」という欲があるからです。

そこで高橋氏は、捨てなければならない欲と、 抱いていても魔術を使える欲があるとし、「私」とミスラ君を比較しています。

 

2人の欲の決定的な違いは、魔術の現実への介入です。「私」の魔術は、現実の相手との勝負に勝つために使われました。つまり、魔術によって現実を動かそうとしたのです。

一方でミスラ君は、テーブル掛けの模様を本物の花として出して見せるなど、現実の価値とは無関係の魔術を使います。さらに、しまいにはその花を元のテーブル掛けに戻してしまうので、現実は何も変わりません。

『魔術』を読んでいると「私」の金銭欲に目が行きがちですが、実は現実への干渉という側面からも、「私」が魔術を使う資格がないと宣告された理由を導くことができるのです。

高橋 博史「芥川龍之介「魔術」:〈小説味〉のある童話」(『国文白百合』(50) 2019年3月)

『魔術』の感想

子供向けらしくない作品

解説でご紹介した高橋氏の論文では、『魔術』は「子供向けの作品という感じが、薄い」としています。なぜなら、三人称ではなく一人称の回想体が採用されているからです。

普通、童話には「昔々あるところにおじいさんとおばあさんが…」というように天の声としての語り手が存在し、語り手が物語を進めます。

しかし、『魔術』は「私」による一人称の回想体なのです。その点で、高橋氏は「『魔術』は子供向けらしさが薄い」としているのです。

 

同様に私も『魔術』に対して子供向けっぽくないと思いましたが、私は人称ではなくラストにそれを感じました。『魔術』は、童話にしては歯切れの悪い終わり方をしているからです。

ラストで、「私」はミスラ君から「私の魔術を使おうと思ったら、まず欲を捨てなければなりません。あなたはそれだけの修業が出来ていないのです」と言われてしまいます。

「私」の友人たちとのやりとりは全てミスラ君に見られており、その上で魔術を身につける資格がないことが明らかとなり、「私」は赤っ恥をかいたのです。

大人ならば「私」の恥ずかしさを理解できますが、子供が同じように思えるとは限りません。子供には勧善懲悪のような分かりやすさがヒットすると思いますし、そういう意味で私はラストに「子供向けらしくなさ」を感じました。

『魔術』の朗読音声

『魔術』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。

最後に

今回は、芥川龍之介『魔術』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

青空文庫にあるので、ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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