吉本ばななは、大学の卒業制作で『ムーンライト・シャドウ』を生み出した作家です。
今回は、吉本ばななのおすすめの本を4冊ご紹介します!
吉本ばななってどんな人?
吉本ばななは、日本大学 芸術学部 文芸学科を卒業しており、卒業制作の『ムーンライト・シャドウ』で日大芸術学部長賞を受賞しました。『キッチン』が『海燕(かいえん)』という雑誌に掲載され、吉本ばななは商業誌デビューを果たしました。
吉本ばななが在学中、ゼミを担当していた曾根博義さんは「吉本ばななの小説は、あらゆる点でこれまでの小説の文章の常識を超えている」と評価しています。
作中では「死」が描かれることが多いですが、単に孤独や絶望を描くのではなく、人物がそれを乗り越えようとするエネルギーを持っているところが特徴です。
初級編
「とりあえず、有名な作品をさらっと読みたい!」「話振られたとき困らないように、代表作だけ知っておきたい!」というビギナー向けに、読んでおけば間違いない作品を2つ紹介します。
『キッチン』
著者 | 吉本ばなな(よしもと ばなな) |
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発表年 | 1987年 |
発表形態 | 文庫 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 身近な人の死からの再生 |
『キッチン』は、1987年に文芸雑誌『海燕(かいえん)』(11月号)で発表された吉本ばななの短編小説です。吉本ばななが商業誌デビューした作品で、吉本ばななは『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しました。
祖母を無くして天涯孤独となった主人公が、知人の家での奇妙な生活を通して死を乗り越える様子が描かれています。1988年には、『キッチン』の続編となる『満月』が発表されました。
あらすじ
幼い頃に両親を亡くしたみかげは祖父母と暮らしていましたが、祖父もみかげが中学生の時に他界したため、みかげは大学生になるまで祖母と生活をしていました。
しかし先日、最後の肉親だった祖母もついに帰らぬ人となってしまいます。みかげはそれを上手く消化できず、ぼんやりと日々を過ごしていました。
そんなとき、みかげは祖母が通っていた花屋で働く雄一という青年に声をかけられ、ひょんなことから雄一の家で暮らすことになります。
みかげを受け入れる雄一や、突然やって来たみかげをわが子のようにかわいがる雄一の親との暖かい交流を通し、みかげは祖母の死を徐々に乗り越えていきます。
感想
祖母の死を受け入れられずにぼんやりとしていたみかげが、あることをきっかけに大号泣するシーンが印象的でした。
そして死を扱っている吉本ばなな作品には、「死の克服」が共通してあるように思います。どれだけ死に押しつぶされていても、そのまま幕が閉じられるわけではありません。
人物は何らかの形でその死を受け入れて、停滞している状態から前に進むまでが描かれているのです。
死を題材にした作家でパッと思いつくのは堀辰雄ですが、彼の作品には救いようのない絶望が感じられます。
例外的に、『菜穂子』という作品は菜穂子がお腹を空かせるシーンで締められていて、何となく生命の息吹を感じられる終わり方だなあと感じましたが、基本的にはずっと死の気配がただよっているように思います。
それに対して吉本ばななが描く死は、「死からの立ち直り」までがセットであるため、不思議と読後には暗い雰囲気がぬぐわれます。
『TUGUMI』
著者 | 吉本ばなな(よしもと ばなな) |
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発表年 | 1989年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 青春 |
『TUGUMI』は、1988年4月号~1989年3月号に雑誌『マリ・クレール』で連載された吉本ばななの中編小説です。吉本ばななの初期の作品で、1989年に山本周五郎賞を受賞しました。
海辺の町を舞台に、病弱な少女とその従姉妹らの交流が描かれています。平成初のミリオンセラーを記録し、英訳されて海外からも高い評価を得ている作品です。
あらすじ
大学生のまりあは、夏休みに故郷の海辺の町に帰ることになりました。そこでまりあは、従姉妹のつぐみや陽子と再会します。つぐみは病弱な体質でしたが、気の強い性格です。
そんなとき、まりあ・つぐみ・陽子は恭一という青年と出会います。つぐみは恭一を気に入り、4人は海辺の町での夏を満喫しました。しかし、楽しいことは長続きせず、つぐみの容体は突然急変してしまいます。
感想
『TUGUMI』は、「人生」「よそ者」「夜のせい」「祭り」「怒り」という風に12個の章で構成されています。
しかし、これらは小説の中の章というよりは、1つ1つが独立した連作のように感じました。 そのためどこから読んでも楽しめる小説です。
また、つぐみと恭一との恋愛は、愛のささやきもスキンシップもほとんどない非常にあっさりしたものです。しかし、表面には表さないだけでお互いのことを思い合っているのが伝わりますし、確かに愛の質量を感じられる関係だと思いました。
中級編
「代表作一通り読んで、もっと他の作品も読んでみたくなった!」「もうにわかは卒業したい!」という人向けに、ここでは定番からは少しそれた作品をご紹介します。
『ムーンライト・シャドウ』
著者 | 吉本ばなな(よしもと ばなな) |
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発表年 | 1987年 |
発表形態 | 卒業制作 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 身近な人の死からの再生 |
『ムーンライト・シャドウ』は、1987年に作者の卒業制作として提出された短編小説です。1988年に泉鏡花文学賞を受賞しました。のちのヒット作『キッチン』と同じく、「身近な人の死からの再生」が描かれています。
あらすじ
さつきは、等という恋人を交通事故で失ってしまいました。悲しみに暮れているさつきは、ジョギングをして気を紛らわそうとしています。
そんなとき、さつきはうららという女性から突然声をかけられます。うららは、「100年に1度の見もの」を見るためにやって来たのだと言いました。
それから、うららは「あさっての朝、この川で何かが見えるかもしれない」とさつきを川へ連れ出します。そこで、さつきは信じがたい光景を目にするのでした。
感想
吉本ばなな作品の登場人物のキーワードの1つに、「ジェンダーレス」があります。
本作の場合、等の弟である柊が該当する人物です。柊は、ゆみこの死を克服するためにセーラー服をごく当たり前のように着ています。しかし、柊はセーラー服をいつでも着ているわけではありません。
「ちょっと人が振り向くようなかっこいい男の子」である柊は、あるときは黒いセーターに身を包んでいました。そうかと思いきや、1人称は昔から「ワタシ」だったりします。
男性っぽいと思ったら女性らしく、女性っぽいと思ったら男性らしく、うまい具合に男性性と女性性がミックスされているのです。
このように型にはまらずに我が道をゆく魅力的な人物が登場するところが、吉本作品の好きなところです。
LGBTQという言葉の普及など、今でこそジェンダーフリーは定着した考えですが、本作が執筆されたのが1987年と考えると先端の価値観を反映した作品だと思います。
『サンクチュアリ』
著者 | 吉本ばなな(よしもと ばなな) |
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発表年 | 1988年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 身近な人の死の克服 |
『サンクチュアリ』は、1991年11月に福武文庫として刊行された吉本ばななの中編小説です。家族や恋人を亡くした男女が不思議な縁で出会い、死の悲しみを乗り越える様子が描かれています。
あらすじ
恋人の死のショックに打ちひしがれていた智明は、あるとき夜の海で号泣する女性を見かけます。馨というその女性は、智明と同じく悲しい雰囲気をまとっていました。
もう二度と会うことはないと思いながら別れたものの、2人はたまたま町中で再会を果たします。それから、智明と馨は似た過去を持つ者同士仲を深め、お互いに悲しい過去と向き合うのでした。
感想
『サンクチュアリ』を読んで気になったのは、主に智明(男性)の視点から物語が語られている点です。本作は3人称小説であるため、視点人物を1人に決める必要はありません。しかし、『サンクチュアリ』では大部分が智明の目を通して語られます。
ところどころで異なる人物の視点で語られることがありますが、基本的には智明の側から語られるのが興味深かったです。
なぜなら、「吉本ばななの作品は女性を視点人物としたものが多い」という印象をこれまで持っていたからです。
吉本ばななの作品に登場する男性は少しキザなところがあります。女性視点と男性視点でどう変わるのかと思いながら読み進めましたが、視点が男性に変わっても、そのキザさはあまり変わらないなと感じました。
最後に
今回は、吉本ばななのおすすめの本を4冊ご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!