純文学の文豪図鑑

『風立ちぬ』だけじゃない!堀辰雄の生い立ちと代表作品を紹介

『風立ちぬ』というジブリ映画の影響で、同じ題で小説を書いている堀辰雄と、映画の主人公の堀越二郎がごちゃ混ぜになってしまいそうですが、堀辰雄と堀越二郎は全く関係ありません。

今回は、堀辰雄の生い立ちと代表作品を紹介します。

堀辰雄の生い立ち

複雑な境遇

1904年、辰雄は父・堀浜之助と母・志気(しき)の間に生まれました。志気は浜之助の正妻ではありませんでした。浜之助は正妻との間に子供をもうけていなかったため、辰雄は堀家の養子になります。

その後、母・志気が上條松吉と結婚したため、堀家の養子ではありながらも上條家で育つという複雑な環境に置かれていました。

ただ堀は、自分の苗字と両親の苗字が違うことを疑問に思いながらも、上條松吉を実父だと思っていたそうです。このことから、堀が大切に育てられていたことがうかがえます。

師・芥川龍之介

中学生の頃、堀は作家・室生犀星(むろうさいせい)を中学の校長から紹介され、親交を深めます。

そして1923年は、堀の人生を良くも悪くも大きく変えた年でした。1つ目の出来事は、関東大震災です。当時の家は木造だったため、地震が起こると火事が起こります。

火事に巻き込まれないようにするために人々は川に飛び込むのですが、堀の母・志気はその時に溺死してしまいます。そしてその時の心労から、堀は結核にかかってしまいました。

 

2つ目の出来事は、芥川龍之介と出会ったことです。震災後、室生犀星は金沢に避難したため、あとの堀の世話を友人である芥川に頼んだのでした。

そして堀が23歳の時に芥川が自殺し、それを受けて『聖家族』を執筆します。堀にとって精神的な父親の役割を果たしていた芥川の死は、堀にとってとても辛いものでした。

その後、『芥川龍之介論』という題で卒業論文を書いて大学を卒業し、小説家として作品を発表していきます。

闘病生活

1938年には2年近くかけて『風立ちぬ』を書き上げ、晩年は折口信夫(おりくちしのぶ。民俗学者)に夢中になり、古代への関心を強めて平安時代を題材にした作品を書くようになりました。

1945年〜1953年まではほとんど病床生活で、1953年に結核で亡くなりました。

堀辰雄の作風

堀の作品を理解するためのキーワードは、生と死・軽井沢・純潔です。

生と死

自身が結核であることや、恋人を結核で亡くしていることが関係していて、堀の作品には生と死がテーマの作品が非常に多いです。

そのため全体的に真面目で暗い話が多いので、浮ついている話を期待してる人には向いていないです。

 

ただ、運命や生きることについて深く考え抜かれているので、そういう哲学的な視点から小説を読んでみたい人にはものすごくおすすめです。

理解するのが難しくて、本当に頭を使うので、かじりつくように文学を味わいたい人に向いてます。

軽井沢

堀が生きていた時代の軽井沢は、「日本の西洋」と称される場所でした。現在でも、避暑地として別荘を置く土地という認識はありますが、当時軽井沢に別荘を持っていたのは、もっぱら西洋人でした。

堀は、震災後に金沢の室生犀星のもとを訪れた帰りに、初めて軽井沢の芥川の別荘に行きました。以後、堀は結核の療養地に軽井沢を選び、その影響もあって、彼の作品はかなりの確率で軽井沢が舞台になっています。

 

彼の代表作『風立ちぬ』『菜穂子』『美しい村』は全てそうです。先ほど、軽井沢が「日本の西洋」と呼ばれていたことに触れました。

そういうこともあって、軽井沢はどこか非日常で現実離れした、おとぎの世界のようなイメージがあります。そこを舞台にした堀の作品も、必然的にそのような雰囲気があるのが特徴です。

純潔

結核にかかっていて普通の恋愛ができない堀の作品には、露骨な性描写がほとんど無いです。恋人と肉体的に愛し合えない分、堀は視線を使って愛を表現することが多いのです。

「病人はベッドの上から、にっこりともしないで、真面目に私の方を見返していた。このごろいつのまにか、そんな具合に、前よりかずっと長い間、もっともっとお互いを締めつけ合うようにと目と目を合わせているのが、私たちの習慣になっていた。」

これは『風立ちぬ』から引用したものですが、私は初めてこの文章を読んだとき、めまいがするくらい官能的だと感じました。下手な性描写よりよっぽどセンシュアルです。

このように、堀は精神的な愛を描く作家なので、肉欲にまみれた作品の多いの谷崎などを読んだ後に堀の作品を読むと、心が浄化されるような気分になります。

「安心して読める」堀の小説だからこそ、おとぎ話の世界観が壊されずにするのかと思います。

堀辰雄に影響を与えた人

芥川龍之介

「芥川龍之介は、僕の最もいい先生だった」と堀が述べているように、堀が1番慕っていたのは芥川です。

『聖家族』は芥川とその愛人、その娘、堀がモデルになっている作品ですし、『菜穂子』に登場する男性は芥川を思わせる人物で、芥川が堀に与えた影響は半端じゃありません。

加えて、堀の作風も芥川の大きな影響を受けています。芥川は、谷崎潤一郎との「小説の筋論争」で、「作り込まれた嘘こそ小説だ」とする谷崎に対して、「余計な手を加えない詩のような小説が理想だ」という立場をとりました。

谷崎は起承転結のあるエンターテイメント性の高い小説を目指し、芥川はエッセイのような小説を目指したというわけです。

 

そのため、芥川の弟子の堀も、詩のような小説を書きます。『風立ちぬ』は、結核に犯された恋人と軽井沢の療養所で過ごす毎日だけが延々と描かれていて、本当に話に波がありません。

あまりにも何も起こらないので、退屈する人も少なからずいるだろうなと思うほどです。しかし、自然の描写がとても美しかったりするので、これはこれで素敵な小説です。

また余談ですが、辰年辰月辰日辰時に生まれて「龍之介」と名付けられた芥川と、辰年に生まれたことにちなんで「辰雄」と名付けられた堀の間には、何となく運命的なものを感じてしまいます。

堀辰雄の代表作

『風立ちぬ』

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ページ数 240ページ
出版年 1951年
出版社 新潮社

主人公で小説家の「私」と、その恋人の節子の生活が描かれた作品です。節子は結核に侵されているので、2人は軽井沢の療養所で静かに日々を送ります。

『菜穂子(なおこ)』

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ページ数 293ページ
出版年 2013年
出版社 小学館

母との確執、愛のない結婚生活、姑との不和が主なテーマです。菜穂子の母親は一人の男性から言い寄られてひどく心を悩ませていました。

そんな母親を見てきた菜穂子は、いつしかそんな彼女に嫌気がさし、「母のように恋愛に生きる人にはなりたくない」という強い思いを抱いたため、愛のない結婚をしました。生き方や幸せについて深く考えさせられる作品です。

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『聖家族(せいかぞく)

ページ数 181ページ
出版年 1947年
出版社 新潮社

芥川の死を受けて書かれた作品です。日本のようで日本でなく、外国のようで外国でなく、どこか別の世界のような雰囲気が魅力的です。

私は1年かけてこの小説を繰り返し読んだのですが、読むたびに違う発見があって、結局読めば読むほど分からなくなってしまう迷路のような小説だと思いました。

ただ、「生と死」について深く考察されているので、哲学が好きな人や1つのことを突き詰めて考える人にはとてもおすすめです。考える力が身につくと思います。

最後に

今回は、堀辰雄の生い立ちと芥川との関係について解説しました。

私は「小説の筋論争」で言うと谷崎の方を支持しているので、芥川の言う「詩的小説」はあまり好きではないです(何も起こらなすぎて、「……で?」ってなるので)。

 

ただ堀の書く世界は、たとえ舞台が日本に設定されていたとしても、なんとなく現実離れしていて、おとぎ話のような日常からは離れた不思議な雰囲気を醸し出しているので、とても好きです。

ふわふわした地に足のつかないような感覚を味わいたい人にはかなりおすすめの作家です!

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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