今回は、夢野久作のおすすめの本を4冊ご紹介します!
夢野久作ってどんな人?
- 日本の探偵小説三大奇書『ドグラ・マグラ』の著者
- 書簡体小説を書いたり、独白体を用いることが多い
- 小説家、詩人、禅僧、陸軍の軍人、郵便局長という経歴を持つ
夢野久作は、奇抜・幻惑という言葉がぴったりな人物です。三大奇書に分類され、「読むと精神に異常をきたす」という衝撃的な広告文がつけられた『ドグラマグラ』の作者です。
久作の作品では、書簡体(手紙の連なりで展開していく手法)や、独白体(主人公が1人でつぶやくように語る手法)がよく用いられています。また、久作は様々な職業を経験した特異な作家です。
初級編
「有名な作品を読みたい!」「話振られたとき困らないように、代表作を知っておきたい!」という方向けに、読んでおけば間違いない作品を2冊紹介します。
『瓶詰地獄』
著者 | 夢野久作(ゆめの きゅうさく) |
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発表年 | 1928年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 罪 |
無人島に漂流した兄妹の様子が描かれます。手紙文の羅列で小説が成り立つ書簡体と、人物の一人語りで構成される独白体という、夢野久作が得意とする方法が掛け合わされています。1986年に映画化されました。
あらすじ
ある町役場から、海洋研究所に向けて「瓶に入った3通の手紙が砂浜に打ちあがった」という手紙が送られます。それぞれの手紙には、離島に漂着したとある兄妹の告白と懺悔の言葉が記されていました。
彼らの犯した罪とは何なのか?彼らは救われるのか?
感想
『瓶詰地獄』は「第一の瓶の内容」「第二の瓶の内容」「第三の瓶の内容」で構成されますがは、流された順番にはさまざまな意見があります。
一般的には、第三の瓶→第二の瓶→第一の瓶の順に流されたとされますが、鉛筆の消耗状態から上記の意見が否定され、順番には諸説あります。
情報量が少なく解釈をするには何度も読む必要があり、推理小説のような面白さがある作品です。
『死後の恋』
著者 | 夢野久作(ゆめの きゅうさく) |
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発表年 | 1928年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 悲恋 |
『死後の恋』は、1928年に雑誌『新青年』(10月号)で発表された夢野久作の短編小説です。ロシア革命直後のウラジオストクで、通行人をつかまえては自身の身の上を話す奇妙な男が、日本人の軍人に「死後の恋」の話を聞かせる物語です。
あらすじ
ロシアのウラジオストクに、自身の数奇な体験を話して回る男がいました。男の名はコルシコフと言って、貴族という身分を隠して従軍していました。
コルシコフは軍でリヤトニコフという美形の少年兵と出会い、親交を深めます。リヤトニコフは他人には言えない秘密を持つ人物でした。リヤトニコフの秘密を知ったコルシコフは衝撃を受けるのでした。
感想
本作には、敵軍によって無残な姿にされたコルシコフの味方の軍人の死体が木にくくり付けられた状態で登場します。
眼をえぐり取られたり、歯を砕かれたり、耳をちぎられたりしており、傷口からは血をひものように垂らしていますが、そのうちの一体は撃ち抜かれた胴体からは内臓がこぼれ落ち、そこには宝石がへばりついて輝いていると描写されます。
敵軍によって“いたずら”され惨い姿をした死体と美しい宝石を共存させるこの感覚が、他の作家にはない夢野久作独特の感性だと感じました。
中級編
「代表作一通り読んで、もっと他の作品も読んでみたくなった!」という方向けに、定番からは少しそれた作品をご紹介します。
『ビール会社征伐』
著者 | 夢野久作(ゆめの きゅうさく) |
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発表年 | 1935年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 滑稽 |
『ビール会社征伐』は、1935年8月に雑誌『モダン日本』で発表された夢野久作の短編小説です。経営難に陥った新聞社に勤める酒豪たちが、なんとかして酒を手に入れようとする様子が回想体で描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
経営難におちいっている九州日報社では、毎月きちんと給料が支払われず、そのせいで社員はろくに酒を飲むことができません。社内は「どうにかしてうまい酒を飲むことができないか」という話でもちきりです。
そんなとき、九州の実業庭球界で名をはせていたビール会社にテニスの試合を申し込めば良いのではないかという話になりました。もちろん目的は、試合の後に振舞われるであろうビールです。
果たして、社員たちは無事ビールにありつくことができるのでしょうか?
感想
『ビール会社征伐』は、久作の振り幅の大きさを改めて実感した作品です。『ドグラ・マグラ』のような、理解が追いつかない凄まじい推理小説と同じ作者であると信じがたいほどです。
また「ビール会社」と「征伐」という絶対に結びつかない単語をあえてつなげたことで生まれる、ミスマッチさから来る笑いが秀逸です。
久作の作品には印象的なタイトルの作品が多くあり、キャラメルと飴玉のケンカを描いた『キャラメルと飴玉』や、きのこの会合の様子を描いた『きのこ会議』など、目を引く面白い作品が多数あります。
『きのこ会議』
著者 | 夢野久作(ゆめの きゅうさく) |
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発表年 | 1922年 |
発表形態 | 新聞掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 勧善懲悪、因果応報 |
『きのこ会議』は、1922年に「九州日報」(12月4日)で発表された夢野久作の短編小説です。「九州日報」は、福岡県を中心に販売されていた地方紙で、福岡県出身の久作はたびたび九州日報で小説を発表しました。
『きのこ会議』もそうですが、九州日報に掲載される久作の作品は擬人化した作品やユーモアに富んだ作品が多数あります(『キューピー』『キャラメルと飴玉』など)。
『きのこ会議』には、無毒のきのこと毒きのこの論争が描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
あらすじ
ある夜、きのこたちは集まって会議を始めました。初茸(はつたけ)の司会進行で、会議は進んでいきます。椎茸が子孫の繁栄を喜ぶ一方で、松茸は「人間に採られてしまって子孫を増やせません」と涙ながらに話します。
その様子を見て、毒きのこたちは笑いました。そして、「世の中の役に立つからいけないんだ。毒があれば採られることはない」と主張します。そこで無毒のきのこたちは、毒があることが良いのか悪いのかを実験してみることにしました。
感想
私は、『きのこ会議』というコミカルなタイトルに惹かれて読み始めました。きのこたちは人間と同じくいたって真面目に会議をしていますが、その光景を想像すると笑いがこみ上げてきます。
椎茸や松茸が人間のように改まって話をしていたり、蝿取り茸が幅を利かせていたりと、思わずくすっと笑ってしまうシュールさが癖になる作品です。
最後に
今回は、夢野久作のおすすめの本を4冊ご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!