純文学の書評

【夏目漱石】『こころ』のあらすじ・内容解説・感想|感想文のヒント付き

高校の教科書で一度は読んだことのある人が多い、夏目漱石『こころ』。教科書には途中からしか載っていないので、全文読んだ人は少ないかもしれません。

今回は、夏目漱石『こころ』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『こころ』の作品概要

著者夏目漱石(なつめ そうせき)
発表年1914年
発表形態新聞掲載
ジャンル長編小説
テーマ恋は罪悪

『こころ』は、1914年に朝日新聞(4月20日~8月11日)で連載された夏目漱石の長編小説です。1人の女性を巡って争った友人の死を、「先生」が重く受け止めていることを軸に物語が展開されます。

発行部数を太宰治『人間失格』と競っており、「日本で一番売れている小説」と言われています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:夏目漱石について

  • 芥川を発掘
  • 森鷗外のライバル
  • ロンドンに留学するも、精神を病んで帰国
  • 教師、大学教授を経て新聞社に入社

夏目漱石は、当時大学生だった芥川龍之介の『鼻』を絶賛しました。芥川はそれによって文壇デビューを果たしました。また、森鷗外は執筆活動を中断していた時期がありましたが、漱石を意識して執筆を再開したという話が残っています。

漱石は、東大を卒業後に教師や大学教授を経て政府からロンドン留学を命じられます。しかし、現地の雰囲気に上手くなじめずに精神を病んでしまったため、帰国を余儀なくされました。

帰国後、漱石は朝日新聞の専属作家(朝日新聞で小説を連載する小説家)となりました。当時多くの新聞社からオファーが来ていましたが、その中で朝日新聞が提示した月給が一番高かったため、漱石は朝日新聞に入社しました。

 

また、漱石は造語を多く用いました。漱石の造語で、今日一般的に使用されている言葉には、「浪漫(ロマン)」「沢山(たくさん)」などがあります。

他にも、「高等遊民(高等教育を受けたにもかかわらず、仕事をしないで過ごす人のこと)」「低徊趣味(ていかいしゅみ。世俗的な気持ちを離れて、余裕を持って物事に触れようとする趣向)」があります。

漱石の門人・門下生には、寺田寅彦・和辻哲郎・芥川龍之介・久米正雄・松岡譲などがいました。漱石の作品は、国外でも評価されています。

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『こころ』のあらすじ

主人公の「私」は、鎌倉の海で「先生」と出会いました。しかし、先生と親しくなるうちに、私は、先生が暗い過去を持っていることを知ります。

先生は奥さんとの関係がうまく言っておらず、奥さんは「大学時代の親友のKが亡くなってから、性格が変わった」と言いました。その後、先生は手紙で過去に起きたことを告白します。

登場人物紹介

主人公。先生と出会い、親睦を深めるうちに先生と奥さんのあいだにわだかまりがあることに気づく。

先生

Kの自殺がきっかけで罪の意識に支配され、自分自身を否定するようになり、人間不信に陥る。

静(しず)

先生、Kの学生時代の下宿先の娘。先生と結婚するが、先生の中身のない愛に思い悩む。

K

学生時代に先生と静を取り合って負けた結果、自殺してしまった。

『こころ』の内容

この先、夏目漱石『こころ』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

心を奪われた「私」

先生と私

主人公の「」は、学生時代に鎌倉(当時の首都圏の観光地・別荘地)の海で「先生」と出会います(なぜ先生と呼んでいるのかは書かれていません。一番初めに呼びかけたときから、二人称は「先生」です)。

私は、西洋人を連れている先生にまず目を惹かれました(明治時代末期、西洋人はまだ珍しい存在でした)。

そして、「どこかで会ったことがある気がする」という思いを抱き、翌日以降も海を訪れて先生との接触を試みますが、なかなか実行に移せません。メガネを失くした先生を助けてなんとか会話がができた時、私は先生の自宅に訪問することを許されます。

 

私は東京に帰った後、先生の家を訪ねます。若くて美しい奥さんから、先生は「墓参りに行っている」と言われたので、私はそこに足を運んで、先生と会うことに成功します。私は先生に誰の墓か聞きますが、先生はあまり多くは語りませんでした。

先生と奥さんのは、表面的には仲の良い夫婦でした。しかし、私はそこになにやら空虚なものを感じます。先生は「恋は罪悪だ」と繰り返します。私は、彼らの間に恋愛事件があるのだと予想しました。

同時に、先生が大学を出ているのにもかかわらず仕事をしないで家に籠っているのかが気になり始めます。そうしているうちに、私には静と二人で話す機会が訪れました。

すれ違う先生と静

私は、静から「以前はもっと前向きで活動的だった」という話を聞きました。そして先生はなぜ今のように内向的で人間を嫌ってふさぎ込む性格になってしまったのか尋ねます。すると静は、自分にははっきりとした原因は分からないと答えます。

静は、先生が変わってしまった理由や自分が嫌われている理由を、表向きには「もともと先生が厭世的で、その結果として自分が嫌われている」としています。

しかし、本当はその真逆で、「先生は自分を嫌った結果、とうとう人が嫌いになってしまった」と思っているのだと私は見抜きます。先生は非常に親切で静を大切にしている素振りを見せます。だからこそ、その裏で先生が自分のことを嫌っているというのが、静はつらいというのです。

静は、学生時代に共通の友人が亡くなってから先生の性格が変わったことを打ち明けました。その上で、やはり原因が分からないことを嘆くのでした。

両親と私

私の父親の体調がすぐれないということで、私はいったん帰省します。その後病状は回復し、私は父に大学卒業を報告できました。同時に、両親は大学卒という華々しい経歴を持った私の将来に過大な期待を寄せます。

就職先を見つけるために再び上京しようとした矢先、父の容体が急変します。今度は命に関わる危ない状況です。そんな時、先生から手紙が届きました。そこには先生の死を予期させる文言が記されていたので、私は父を置いて東京に向かいました。

先生と遺書

手紙には、先生の身に起こったことが記されていました。

先生は学生時代に両親を亡くして、叔父の世話になっていました。しかし叔父が両親の財産を取っていることに気づき、絶望した先生は新しい下宿先を探します。その下宿先の娘が静だったのです。彼らは次第に心を通わせるようになります。

やがてその下宿に先生の友人のKが加わりました。Kは静に恋心を抱くようになり、先生に思いを打ち明けます。先生はそんなKを裏切り、静と結ばれます。Kはショックのあまり自殺してしまいました。

先生はその後罪悪感を抱きながら生きることになりました。友人を自分のせいで死なせてしまったという事実が、先生の性格を大きく変えてしまったのでした。

『こころ』の解説

エゴイズム

この小説には、金銭と恋愛をめぐるエゴが描かれています。先生は金銭欲におぼれた叔父に失望し、また静を独り占めしようとした勝手な恋愛のせいで、一生後悔することとなりました。

漱石はエゴイズムを徹底的に描きだし、自己否定に陥った「先生」という人物を創り上げました。このエゴというのは、西洋の資本主義が流入してから定着した思想です。

漱石は「先生」のような自己否定と孤独に苦しむ人物が、大正という新しい時代によって生み出されたことを暗に示し、それを批判しようとしたのです。

先生の死後

静の「子供が欲しい」発言。人を愛せる私と愛せない先生との対比。私の「まだその時は子供がいなかったので」という発言から、今の私には子供がいる事が分かる。というこれらの情報から、先生の死後私と静は結ばれたのではないか?という意見があります。

かなり嫌な展開ですが、ドロドロしたドラマのようで面白い解釈だと思います。静と私は先生の秘密について話したりして、2人の関係はかなり親密です。また、私が先生の留守中に代わりに家いたことを考えると、静は私のことを相当信用していたことがうかがえます。

含みがあってその可能性が否めないミステリアスさが、この作品の魅力でもあります。

今後の『こころ』研究

これまで、『こころ』の研究は最後の章の「先生の遺書」に偏っていた傾向がありました。しかし、最近では「私が書いた前半の2つの手記無しに「先生の遺書は」分析できないのでは」という理由で、「先生と私」「両親と私」に焦点が当てられています。

そこで注目されているのが、「私が先生を批判していること」です。

 わたくしはその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間をはばかる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆をっても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。

以上に『こころ』の冒頭を引用しました。「よそよそしい頭文字」というのは、「K」のことです。ここから、私が友人をイニシャルで呼ぶ先生のことを暗に非難していると読み取れます。

「Kに対する配慮なのでは?」と私は思ってしまったのですが、「私」はどうも違うようです。「あれほど一途に先生のことを想っていた私が、なぜ彼を批判しているのか」という観点で、活発に研究が進んでいます。

『こころ』の感想

誰も幸せじゃない小説

私は慕っていた先生の死を嘆き、静は先生の表面的な愛と本心とのギャップに苦しみ、その原因が自分にあるのではないかと悩みます。Kは先生に裏切られて自殺し、先生は罪の意識に苛まれて後の人生を狂わせ、自ら破滅を選びます。

先生は静との結婚という幸せを掴んだために、不幸になってしまったのです。好転する兆しがまるで見えず、読んでいる途中も暗雲が立ち込めて、それが解消されないまま結末に向かうという、何とも救いようのない小説だと思いました。

悲劇が好きな方には読みやすい小説です。先生の身を切るような苦悩がひしひしと伝わってきて感情移入しやすいですし、世捨て人のようなどこか厭世的な先生の人柄に惹かれるので、個人的にはかなり好きな作品です。

私と先生

「私」の先生に対する熱い想いは尋常じゃありません。いくら鎌倉ですることがなかったとはいえ、先生を見るために毎日海に行くというのはなかなかないことだと思います。また、出会ったばかりの見ず知らずの人の家に、東京に帰った後も足しげく通うのも不思議です。

さらに、最終的に「私」は死に際の父よりも先生を取りました。これらの一種盲目的な先生への執着は、人生の先輩としての思想や意見に対する尊敬や、多くを語らず、何かを抱えるミステリアスさへの興味から来るものかもしれません。

しかし私は、そこに潜在的な恋愛感情が多少なりとも含まれていたのではないかと思います。「私」自身も気づいていない、恋と呼んでいいのかも分からないような微かな兆しです。

本文には書かれていませんので、あくまで推測でしかありませんが、そういう風に読むこともできるのではないかと思います。もしかしたら、つれない先生を何とか振り向かせたいという、追う者特有の心理が「私」に働いていたのかもしれまん。

『こころ』の感想文のヒント

  • 先生と私の関係について考察する
  • 先生の人物像を掘り下げてみる
  • 死にとらわれる先生の生き方へ意見する

作品を読んだうえで、5W1Hを基本に自分のなりに問いを立て、それに対して自身の考えを述べるというのが、1番字数を稼げるやり方ではないかと思います。感想文のヒントは、上に挙げた通りです。

ネットから拾った感想文は、多少変えたとしてもバレるので、拙くても自力で書いたものを提出するのが良いと思います。

『こころ』の名言

Kが恋の犠牲者になったことを受けて、先生が発した言葉です。Kの死によって先生の人生も変わってしまったので、犠牲者にはKだけでなく先生、静も含まれるのかもしれません。

最後に

今回は、夏目漱石『こころ』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

『こころ』は、過去の視点に現在の視点が混ぜて書かれているので、最初に読むのと二回目に読むのとでは解釈に大きな差が出てきます。結末を知ってからだと、先生の言葉の意味が良く理解できるからです。

テレビや漫画と違い、一度で何度でも美味しいのが小説の醍醐味だと思います。読むたびに解釈が変わり、違った感想が持てるのは非常に面白いです。ぜひ一回だけではなく、二回でも三回でも読んでみることをおすすめします。

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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