同僚・飲み友・よき理解者…いろんな言葉でだいたい言い表せるけど、ぴたりとくる言葉が見当たらない2人の女性の関係が描かれる『ハヅキさんのこと』。
今回は、川上弘美『ハヅキさんのこと』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『ハヅキさんのこと』の作品概要
著者 | 川上弘美(かわかみ ひろみ) |
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発表年 | 1999年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 掌握小説 |
テーマ | 危うい関係 |
『ハヅキさんのこと』は、1999年に雑誌『星星峡』(4月号)で発表された川上弘美の掌握小説です。
著者:川上弘美について
- 1958年東京生まれ
- お茶の水女子大学理学部生物学科卒業
- 『蛇を踏む』で芥川賞受賞
- 紫綬褒章受章
川上弘美は、1958年生まれ東京都出身の小説家です。お茶の水女子大学理学部生物学科を卒業後、高校の教員を経て小説家となりました。
1996年に『蛇を踏む』で第115回芥川賞を受賞し、その後も中年女性と初老の男性の恋を描いた『センセイの鞄』がベストセラーとなり、数々の文学賞を獲得しました。2019年には、その功績がたたえられて紫綬褒章(しじゅほうしょう)を受章しました。
『ハヅキさんのこと』のあらすじ
登場人物紹介
わたし
15年ほど前に教師として理科を教えていた。ハヅキさんに叱られてばかりいた。
ハヅキさん
主人公の元同僚。担当教科は国語。主人公と違って真面目な性格。
『ハヅキさんのこと』の内容
この先、川上弘美『ハヅキさんのこと』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
言葉にしない方がスムーズに行くこともある
しっかり者のハヅキさん
「わたし」は、約15年前の教師時代の同僚・ハヅキさんの見舞いに行くためにバスに揺られています。
ハヅキさんは真面目な明るいクラスの担任で、国語を教えていました。一方でわたしのクラスはどことなくだらしない雰囲気のクラスで、わたしは「学級はその経営者に準ずる」というのは事実なのかもしれないと思うのでした。
そのころの2人の口癖は「へんよね、あれ」です。酒を飲みながら教師業へのうっぷんを晴らし、互いの恋愛にいちゃもんをつけ、わたしは最終的には酔っ払ってしまいます。
そんなとき、ハヅキさんは床に落ちているわたしのハンカチを拾ってきっちり割り勘し、母親のような声で「さあさ、帰りましょ」と言うのでした。
本音
あるとき、ハヅキさんが「ふられた」とわたしに打ち明けます。実はその数か月前にわたしも振られていたのですが、なんとなく癪で黙っていたのでした。しかし、「あなたもこのごろうまく行ってないでしょ」と見破られてしまいます。
その日はひどく酔っ払い、いつもとは逆にわたしがハヅキさんのハンカチを拾って勘定を計算し、「さあさ、帰りましょ」と言いました。しかし、ハヅキさんは聞く耳を持ちません。
しまいにハヅキさんは「あなたと恋愛してるんならよかったのに」などと言い始めます。「あなたと恋愛すれば、きっと幸せになれると思う」「ほんと?」「うそかもしれない。あなた、ちょっと鈍感だからね」。
気が付くと2人はラブホテルのベッドの上に、コートを着たまま横たわっていました。
わたしが「よく覚えてないけど、わたしのほうが面白がって入ろうとしたような気がする」と言うと、ハヅキさんは「私が相手だったからいいようなものの、誰か知らない男だったらどうするのっ」とこんこんとわたしを叱りました。
それから
それから15年後、わたしはハヅキさんの見舞いのために新幹線でM市にやってきました。
わたしは、ハヅキさんが「お見舞いに来られるの、好きじゃないの。まったくあなたは鈍感ね」なんて言うに違いないと思うのでした。
『ハヅキさんのこと』の解説
叱る・叱られる
主人公とハヅキさんは、叱る・叱られるという関係で繋がる関係と言えます。
同僚時代、早く帰ることを促した主人公に、ハヅキさんは「あなたも仕事しなさい。まだ残ってるでしょ」と叱り、また別のときには酔っ払って帰ろうとしない主人公を厳しい声で叱りつけます。
そして、面白がってハヅキさんをホテルに誘った主人公をこんこんと叱り続けるのです。
「ハヅキさんは、僅か、ほんの僅かばかり、わたしを憎んでいたのかもしれない」
主人公はそう感じていますが、ハヅキさんの気持ちに気づかない主人公の鈍感さや、それによるハヅキさんのもどかしさが、「叱る」という形で表出したのではないかと考えます。
そしてそれは、「あなた、ちょっと鈍感だからね」という少し棘を含んだハヅキさんの言葉にも表れています。
『ハヅキさんのこと』の感想
良いコンビ
「プリキュアみたい」というのが、主人公とハヅキさんの関係を見た私の率直な感想です。
2人はまったく正反対の性格です。主人公は不真面目で整理整頓が苦手でばたばたとあわただしく、ハヅキさんは生真面目で机の上をきっちり整理していて身なりにも隙がありません。
しかし、酒が好きでかつ教師に向いていない点で共通しています。教師なのに教師らしくないというちょっと外れた設定なのが興味を引きますし、2人は仲が良いにも関わらず慣れ合っていないのもポイントだと思います。
例えば、ハヅキさんは主人公の恋人のことを「たんに女ぐせの悪い不誠実な奴」としていて、逆に主人公はハヅキさんの恋人を「少しばかり頭がいいことを鼻にかけた男尊女卑な男」と思っています。
忖度せず思ったことをそのままに言えて、そのために気が合って一方ではお互いを補填し合うような部分もあって、だからこそ簡単に終わらせたくない関係で、ハヅキさんは確信を突く一言を言えなかったのではないかなと思いました。
最後に
今回は、川上弘美『ハヅキさんのこと』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!