純文学の書評

【宮沢賢治】『銀河鉄道の夜』のあらすじ・内容解説・感想

よく『銀河鉄道999』とごちゃ混ぜにされがちですが、999はSF漫画です。『銀河鉄道の夜』にメーテルは出てきません。

今回は、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『銀河鉄道の夜』の作品概要

著者宮沢賢治(みやざわ けんじ)
発表年1934年
発表形態単行本
ジャンル中編小説
テーマ生と死

『銀河鉄道の夜』は、1924年頃から書き始められ、賢治の死後に全集に収められた作品です。貧乏な少年が、友人と不思議な銀河旅行をする物語です。何度も推敲が行われました。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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『銀河鉄道の夜』は、美術家の清川あさみさんによって絵本になっています。ビーズや布、クリスタル、糸で作られた宇宙は非常に美しく、画集として楽しむこともできます。

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『銀河鉄道の夜』の文庫は、新潮社から出版されています。真っ青な装丁が目を引く1冊です。

著者:宮沢賢治について

  • 仏教と農民生活に主軸を置いて創作活動にはげんだ
  • 宗派の違いで父親と対立
  • 理想郷・イーハトーブを創造
  • 妹のトシと仲が良かった

賢治は熱心な仏教徒で、さらに農業に従事した人物です。宗派の違いで父親と対立し、なかなか和解には至りませんでした。故郷の岩手県をモデルにした理想郷・イーハトーブを想像で創り上げ作品に登場させました。

妹のトシは賢治の良き理解者で、トシが亡くなったときのことを書いた『永訣(えいけつ)の朝』は有名です。

賢治は、コスモポリタニズム(理性を持っている人間はみな平等という思想)の持ち主であるため、作品にもその色が出ています。生前はほとんど注目されず、死後に作品が評価されました。

『銀河鉄道の夜』のあらすじ

その日は、「銀河祭り」というお祭りが行われる日でした。子供たちが、ウリを灯籠(とうろう)のように川に流す行事です。放課後、小学校の子供たちはその話に夢中になっていました。

ところが、貧しい家庭で生まれ育ったジョバンニは、アルバイトに追われているのでお祭りには参加できませんでした。

アルバイトを終えて牛乳屋に牛乳を取りに行ったジョバンニは、丘の上に登ります。そして満点の星空を見ていると、急に目の前が光に包まれて、ジョバンニは気づくと列車の中にいました。

銀河旅行の始まりです。しかし不思議なことに、そこにはジョバンニの親友のカムパネルラもいました。ジョバンニとカムパネルラが列車に乗せられた驚きの理由は、物語のラストで明らかになります。

冒頭文紹介

『銀河鉄道の夜』は、以下の一文からはじまります。

「ではみなさんは、そういうふうに川だとわれたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」

ジョバンニが、学校で天の川について教わっている場面です。ジョバンニが銀河旅行に行くことへの布石となっています。

登場人物紹介

ジョバンニ

主人公。貧乏ながらも、病気の母親を必死に看病する健気な少年。

カムパネルラ

ジョバンニの親友でクラスの中心的な人物。ザネリとも仲良くするが、いじめられっ子のジョバンニにも優しく接する。

ザネリ

意地悪なクラスメイト。気弱なジョバンニをバカにするいじめっ子。

『銀河鉄道の夜』の内容

この先、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

天の川、銀河の映った川、三途(さんず)の川

天の川

ある日の午後。学校で授業を受けていたジョバンニは、先生から「天の川の正体を知っていますか?」と質問されます。ジョバンニは、天の川の正体が星であることを知っていました。

なぜなら、親友のジョバンニとある雑誌の中の「ぎんが」というページを一緒に見たことがあるからです。ところが、ジョバンニはこの頃眠たく、何となく元気がなかったので、答えることができませんでした。

 

先生は、元気に手を挙げていたカムパネルラを当てますが、彼は指されてももじもじして答えませんでした。カムパネルラは、答えることができなかったジョバンニに気を使って、答えを知っているにも関わらずわざと分からないふりをしたのです。

それを見たジョバンニは、カンパネルラに申し訳なく思いました。内気なジョバンニと、活発で友達思いなカムパネルラの性格がよく表れているシーンです。

アルバイト

放課後、ジョバンニが学校を出ると、カムパネルラを中心に子供たちが集まっていました。彼らは、今夜行われる「銀河祭り」の準備について相談しているのでした。

ジョバンニは、そんな彼らをよそに足早に校門を出ます。ジョバンニの家は貧しかったので、印刷所でアルバイトをしていたのです。

印刷所で働いていると、ジョバンニは「虫めがね君、お早う」と声を掛けられました。それを聞いた大人たちは、くすくすと笑います。ジョバンニはそんな環境で仕事を続け、定時になるとお給料をもらって帰宅しました。

家庭環境

なけなしのお金でパンと角砂糖を買い、ジョバンニは家に帰りました。そこでは、病気の母が寝込んでいました。

「お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れようと思って」「ああ、お前が先に食べなさい。私はいらないから」彼らはこんな会話をします。ところが、牛乳入れは空でした。どうやら、牛乳配達の人が配達し忘れたようです。

 

ジョバンニは母のところに戻って、「お父さんはきっともうすぐ帰ってくると思うよ」と突然言いました。ジョバンニの父は遠洋漁業に出ていて、このところ帰ってきていないのでした。

「お父さんは、監獄へ入るようなことはしていないんだ」「次は、ラッコの上着を持って帰ると言ったね」と母は言いました。ラッコの毛皮は、当時高級品として扱われていた半面、ラッコの乱獲は規制対象になっていました。

そのラッコ漁に関わるジョバンニの父は、政府に捕まってしまう可能性があったのです。その後ジョバンニは、「牛乳をもらいに行く」と言って外に出ました。

ザネリ

ジョバンニは牛乳屋に着くと、一生懸命事情を説明しました。しかし、「担当者がいないから出直してほしい」の一点張りで、話を聞いてもらえません。病気のお母さんがいると言っても、牛乳を手に入れることはできませんでした。

ジョバンニがしょんぼり家に帰っていると、前から新しくて綺麗な服を着たザネリとその仲間たちがやって来ました。彼はジョバンニを見るなり「ラッコの上着」とバカにします。

ジョバンニははっとしました。そのなかに、カムパネルラがいたのです。心優しいカムパネルラが悪口を言うことはありませんでしたが、ジョバンニは悲しくなりました。

銀河旅行

所在のない印刷所でのバイト、病気の母親、帰ってこない父親、もらえない牛乳、ザネリらからの心ない言葉。そんなものに嫌気がさしたジョバンニは、家には帰らずに丘に登りました。

そこから星空を眺めていたジョバンニは、ある事に気が付きます。なんと、星が少しずつ動いていて、どこからともなく「銀河ステーション、銀河ステーション」と聞こえるのです。その時、目の前がぱっと光に包まれて、ジョバンニは気づいたときには列車の中にいました。

車内には同い年くらいの男の子が1人いました。よく見ると、それはカムパネルラでした。ジョバンニはカムパネルラに話しかけました。するとカムパネルラは、「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎いにきたんだ」と苦しそうに言いました。

衝撃の事実

ジョバンニとカンパネルラがしばらく列車に揺れていると、「白鳥の停車場」に停まりました。20分停車という文字を見た2人は、降りてみることにしました。

そこに流れている不思議な川には、砂利ではなく水晶やさまざまな鉱石が敷き詰められています。水に足を入れてみると、水がほんのり光りました。2人はその奇妙な川で思う存分遊びました。

列車に戻ると、車掌が「切符を拝見いたします」と言ってやってきました。ジョバンニは気づいたら列車に乗っていたので、切符を持っていません。困ってカムパネルラを見ましたが、カムパネルラは平然と切符を差し出しています。

焦ったジョバンニは、慌てて上着のポケットを探ってみました。すると、そこには折りたたんだ紙切れが入っていました。それを見た車掌は、「これは行き先の違う特別な切符です」と言いました。

 

不思議な光景、特別な切符といった、非現実の経験をしているジョバンニですが、この奇妙な旅の真相に迫る出来事が起こります。鷲の停車場から乗ってきた人たちは、これまで出会った人たちとは違って、西洋風の格好をしていました。

ジョバンニは、そのうちの1人の青年に「どこから来たのですか?」と話しかけました。すると、彼は「乗っていた船が座礁してしまったので、今ここにいるのです」と答えました。

実はこの銀河鉄道は、死者をあの世へ連れていくための列車だったのです。そしてこの沈没した船は、タイタニック号のことを指しています。タイタニック号の沈没事故は、賢治が10代の時に起こったことで、賢治はそれを銀河鉄道の夜に入れ込んだのです。

南十字駅

そして、列車は南十字駅に到着しました。列車の人々は続々と降りていきます。車窓から、大きな十字架が立っているのが見え、降りた人は皆、「ハレルヤ、ハレルヤ」と言いながら人々は祈りを捧げています。

列車の中には、ジョバンニとカムパネルラだけになってしまいました。すると怖くなったジョバンニは、「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう」と繰り返し言います。

 

そして、ジョバンニは窓の外に広がる真っ暗闇を見て、「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ」もう一度と言いました。しかし振り返ると、カムパネルラの姿がありませんでした。

彼が座っていた席は、他の座席と同じく真っ黒です。ジョバンニは窓の外に向かって叫び、声を上げて泣きました。

カムパネルラの行方

ふと目覚めると、ジョバンニは元いた丘の上にいました。そして牛乳のことを思い出して、一目散に駆け出します。牛乳を手に入れたジョバンニは、川の側を通り過ぎました。そこには人だかりができていました。

さあっと血の気が引いたジョバンニは、「何かあったんですか」と近くの人に叫ぶように聞くと、その人は「子供が水へ落ちたんですよ」と言いました。

詳しく聞くと、カムパネルラが川に落ちたザネリを助けようと川に飛び込み、そのまま行方不明になってしまったのだと言います。幸い、ザネリは助かって家に帰りました。ジョバンニは、カムパネルラは銀河のはずれにいるのだろうと思いました。

 

列車に乗った当初のカムパネルラは、「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか」「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎いに来たんだ」という意味深な発言をします。

これは、「(友人のために命を捨てたことを)許してくれるだろうか」「ザネリはお父さんに迎えに来てもらって帰った(生きて家に帰った)」ということを示していたのです。

 

そこへ、カムパネルラの父親がやってきました。「もうだめです。落ちてから45分たちましたから」と父は言います。そして、ジョバンニの父親から手紙が届いたことを告げ、もうすぐ帰ってくるだろうと言いました。

ジョバンニは、友人をあの世まで見送ったことや、母親に牛乳を届けること、父親が帰ってくることなどで胸がいっぱいになり、家に向かって駆けだしました。

『銀河鉄道の夜』の解説

妹・トシの死

本作の「死者を見送る」というモチーフは、賢治の実の妹・トシの死が関係しています。彼女は重い病にかかっていて、賢治は懸命に彼女のサポートをしました。ところがその甲斐(かい)なく、トシは亡くなってしまいます。

ここである問題が発生します。賢治は熱心に法華経を信仰していましたが、父親が信仰する宗派と異なっていたため、なんと賢治はトシの葬式に参列できなかったのです。

最愛の妹を送ることができなかったという心の傷は癒えることなく、銀河鉄道の夜に反映されています。

 

余談ですが、私は「なぜ賢治はそこまで妹に執着するのか?」と長年疑問に思っていました。どの教材にも、賢治のプロフィールには必ず妹のことが書いてあって、彼の作品には妹を投影したものが多く残されているからです。

重度のシスコンなのだろうと思っていたのですが、近年このことに関する書籍が出版されました。そこでは、賢治とトシは兄妹以上の恋人のような関係だった可能性が指摘されています。

だからこそ、賢治はトシに異常なほど献身的で、彼女が亡くなった時も激しく悲しみ、その後トシをモデルにした作品を残したのだと納得できました。

但し、それを認めることは童話作家としての賢治の純潔なイメージが壊れるので、この論は説得力があるにも関わらず、賢治側から抹殺されています。

『銀河鉄道の夜』の感想

自己犠牲

「いったいどんなことが、おっかさんの幸なんだろう」「なにがしあわせかわからないです」「ぼくはひとのさいわいのためにいったいどうしたらいいのだろう」

本作では、しきりに「幸せとは何か」ということが問われています。その答えは、ラストでカムパネルラがザネリのために命を落とすこととして表現されています。賢治の考える幸せは、人のために自分を犠牲にすることなのです。

 

彼の代表作『雨ニモマケズ』には、それがよく現れています。そこには東に行って看病し、西に行って荷物を運び、南に行って人を慰め、北に行って争いの仲裁をするという、誰かのために生きることがつづられています。

小学生の時に朗読をして、「そういうものに、私はなりたい」という最後の一文の理解に苦しんだ記憶があります。しかし今では、自己犠牲に徹することは幸せなのだという感覚が分かるようになりました。

賢治がそう考えるのは、彼の母が人のために働くことの大切さを説いていたことや、彼自身仏教を深く信仰していたことが関係しているのかもしれません。

最後に

今回は、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

ジョバンニが不思議な宇宙旅行を楽しむ話かと思いきや、友人をあの世へ送るというとんでもなく重たい話でした。ジョバンニとカムパネルラの微妙に噛み合わない会話に、なんとも不穏な空気が感じられます。

そして後半の見事な伏線回収は、初めて読む人ならかなり衝撃を受けると思います。実はまだ読んだことないという人は、これを機にぜひ読んでみてください!

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ABOUT ME
yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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