純文学の書評

【太宰治】『失敗園』のあらすじ・内容解説・感想

『失敗園』は、家庭菜園で上手く育たなかった植物たちの嘆きが語られている作品です。

今回は、太宰治『失敗園』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『失敗園』の作品概要

著者太宰治(だざい おさむ)
発表年1940年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ嘆き

『失敗園』は、1940年に文芸雑誌『東西』(9月号)で発表された太宰治の短編小説です。上手く育たなかった植物たちが、思い思いに愚痴を言う様子が描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:太宰治について

  • 無頼(ぶらい)派の作家
  • 青森の大地主の家に生まれた
  • マルキシズムの運動に参加するも挫折
  • 自殺を3度失敗

太宰治は、坂口安吾(さかぐち あんご)、伊藤整(いとう せい)と同じ「無頼派」に属する作家です。前期・中期・後期で作風が異なり、特に中期の自由で明るい雰囲気は、前期・後期とは一線を画しています。

青森の地主の家に生まれましたが、農民から搾取した金で生活をすることに罪悪感を覚えます。そして、大学生の時にマルキシズムの運動に参加するも挫折し、最初の自殺を図りました。この自殺を入れて、太宰は人生で3回自殺を失敗しています。

そして、『グッド・バイ』を書きかけたまま、1948年に愛人と入水自殺をして亡くなりました。

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『失敗園』のあらすじ

その家の主人の妻は、庭にたくさんの植物を植えています。しかし、それらは上手く育ちませんでした。主人には、そうした植物の声が聞こえます。主人は、植物たちのささやきを記録してみることにしました。

登場人物紹介

主人

庭の植物の声を書きとる。

庭の植物

実を付けられないとうもろこしや、プライドの高いクルミの木、ネムノキの苗、成長をあきらめただいこん、自虐的なへちまなど。それぞれ、自身のからだや環境についての不平不満をもらす。

『失敗園』の内容

この先、太宰治『失敗園』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

不自由は不幸

植物の愚痴

その家の主人には、妻が庭に無秩序に植えた植物のささやきが聞こえます。そこで主人は、植物の声を書きとることにしました。

葉ばかりが伸びて芭蕉(ばしょう)のようになっているとうもろこしは、トマトに寄りかかります。トマトは、とうもろこしに対して「なんだ、竹じゃないか」と言いました。

にんじんは、やぶれかぶれになって「1か月前から、このまんまであった。永遠に、わしゃ、こうだろう。みっともなくていけねえ」と嘆きます。だいこんは、石だらけの土の中で足を伸ばすことができず、あきらめてごぼうのフリをすることにしました。

へちまは、自身が絡みつくはずの棚が不格好であることに不満をもらし、薔薇は新芽を切ってしまった主人を恨みます。花の咲かない矢車草(やぐるまそう)は、「是生滅法。盛者必衰。いっそ、化けて出ようか知ら」と思うのでした。

『失敗園』の解説

自由な人間

植物たちは、主人の妻から一方的に植えられ、そこで生きることを余儀なくされました。自身の境遇を嘆き、主人やその妻の愚痴を言っています。

この小説から読み取れるのは、その植物の状態と比較したときに見えてくる人間の自由さではないでしょうか。

「置かれた場所で咲きなさい」という言葉がありますが、これは非常に受動的な言葉で、文字通り植物にはぴったりな言葉です。植物は自分の足で動くことができず、自分で環境を変えることも、そこから動くこともできないからです。

しかし、人間にはそこから脱出するための足がありますし、環境を変えるために思考することもできます。『失敗園』は、不自由な植物たちを見た時に浮かび上がってくる、人間の可能性を示している作品だと思いました。

『失敗園』の感想

太宰らしい作品

多少の「やっつけ感」が否めませんが、面白い作品だと思いました。太宰は女性を主人公にした作品を書くことが多い作家で、女性の話し言葉を書くのが上手いです。

実を付けられないとうもろこしや、土の中で足を伸ばせないだいこんは女性として描かれています。子供を身ごもれない女性や、白い脚を存分に発揮できない女性像が浮かんできて、これは太宰にしかできないことだと思いました。

にんじんの「誰か、わしを抜いてくれないか。やけくそだよ。あははは。馬鹿笑いが出ちゃった」という自嘲するセリフや、薔薇の「もう、駄目。私は、早く死にたい」というセリフは、いかにも太宰が書きそうなことだなと思いました。

へちまは主人の作った棚のことをボロクソに言っていますが、そんな自身にとって都合の悪いことも書きとるところに、主人の誠実さを感じました。

最後に

今回は、太宰治『失敗園』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

家庭菜園を作っている人は、どきっとする内容だと思います。ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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yuka
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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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