賢治がセロを弾いた経験が元になっている『セロ弾きのゴーシュ』。セロは、弦楽器のチェロのことです。
今回は、宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『セロ弾きのゴーシュ』の作品概要
著者 | 宮沢賢治(みやざわ けんじ) |
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発表年 | 1934年 |
発表形態 | 不明 |
ジャンル | 童話 |
テーマ | 素直になること |
『セロ弾きのゴーシュ』は、宮沢賢治が亡くなった翌年の1934年に発表された童話です。乱暴者のゴーシュが、動物たちとの交流を経て素直になる様子が描かれています。
1949年から4回に渡って映画化されています。特に1982年の映画は、高畑勲監督によって手掛けられました。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
『セロ弾きのゴーシュ』の絵本は、ミキハウスから出版されています。鮮やかな絵が印象的な1冊です。
著者:宮沢賢治について
- 仏教と農民生活に主軸を置いて創作活動にはげんだ
- 宗派の違いで父親と対立
- 理想郷・イーハトーブを創造
- 妹のトシと仲が良かった
宮沢賢治は熱心な仏教徒で、さらに農業に従事した人物です。宗派の違いで父親と対立し、なかなか和解には至りませんでした。故郷の岩手県をモデルにした理想郷・イーハトーブを想像で創り上げ作品に登場させました。
妹のトシは賢治の良き理解者で、トシが亡くなったときのことを書いた『永訣(えいけつ)の朝』は有名です。
賢治は、コスモポリタニズム(理性を持っている人間はみな平等という思想)の持ち主であるため、作品にもその色が出ています。生前はほとんど注目されず、死後に作品が評価されました。
『セロ弾きのゴーシュ』のあらすじ
ゴーシュは、楽団でセロを弾いています。音楽会で発表するために全員で第六交響曲を合わせますが、下手なゴーシュは楽長から叱られて恥をかきます。
帰宅してからゴーシュがセロの練習をしていると、三毛猫がやってきます。そして、「きいてあげますから」と言ってゴーシュにセロを弾くように言います。その横柄な態度に起こったゴーシュは、猫を追い出してしまいました。
その後、ゴーシュの元には毎晩動物がやってくるようになります。初めはあしらっていたゴーシュでしたが、徐々に素直になっていきます。
登場人物紹介
ゴーシュ
セロを演奏する主人公。演奏が下手で、いつも楽長から叱られている。
猫
夜中にゴーシュの家を訪れ、セロを弾かせた猫。生意気な態度を取ったため、ゴーシュからいじめられる。
かっこう
ゴーシュに音階を教わりに来たかっこう。ゴーシュの怒りを買って追い出される。
たぬきの子
楽団で小太鼓を担当するたぬき。ゴーシュのセロに問題があることに気づく。
野ねずみの親子
ゴーシュの音楽で病気が治ると聞いて、ゴーシュの家にやってきた親子。
『セロ弾きのゴーシュ』の内容
この先、宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
素直さと謙虚さの必要性
下手っぴなゴーシュ
ゴーシュは、楽団でセロを弾いています。そして、町の音楽会で発表する「第六交響曲」を楽団のみんなと練習していました。
ゴーシュは楽団の中で1番演奏が下手で、楽長からは「感情がこもっていない」「周りと合っていない」と怒られてしまいます。
10日後の音楽会のために、ゴーシュが夜遅くにセロを練習していると、1匹の猫が現れます。猫は、「シューマンのトロメライを弾いてごらんなさい。聴いてあげますから。」とえらそうに言ったので、ゴーシュは「生意気だ」と怒ります。
そして、怒りに身を任せて嵐のような勢いきおいで「印度の虎狩(インドのとらがり)」という曲を弾き始めました。猫は、その激しい演奏に驚き、目を回してしまいました。
次々にやってくる動物たち
次の日の夜、ゴーシュがまた家で練習をしていると、かっこうがやって来て「ドレミファを教わりたいのです」と言いました。かっこうは、「かっこうかっこう」と言い続けるので、ゴーシュは頭が変になりました。
そして、ゴーシュはセロを弾くのをやめてしまいました。ゴーシュはかっこうを怒鳴りつけ、家から追い出します。
その次の夜には、小太鼓を担当するたぬきの子が来ました。一緒に演奏した後、たぬきの子は「ゴーシュさんはこの2番目の糸を弾くときに遅れるねえ」と言いました。ゴーシュはそのとき、初めて楽器に欠陥があることに気づきます。
その次の夜には、野ねずみの親子が来ました。母ねずみは、子ねずみの病気を治して欲しいと言います。町では、「ゴーシュの演奏は病気を治す」と話題になっていたのでした。ゴーシュは、セロの中に子ねずみを入れて曲を弾き、病気を治してあげました。
演奏会
そして、ゴーシュはいよいよ演奏会の日を迎えました。楽団の全員で演奏した「第六交響曲」は、大成功でした。そして最後に、楽長は「おい、ゴーシュ君。何か弾いてやってくれ」と言います。
ゴーシュはあっけにとられますが、やけになってステージに再び上がります。そして、怒ったように激しく「印度の虎狩」を弾きました。聴衆はその演奏に聴き入り、仲間や楽長からは絶賛されました。
家に帰ったゴーシュは、水をがぶがぶ飲みます。そして、いつかかっこうが飛んで行った遠くの空をながめながら「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ」と言いました。
『セロ弾きのゴーシュ』の解説
ゴーシュの変化
猫の訪問の場面で、ゴーシュは「印度の虎狩」を演奏します。このことから、ゴーシュは「感情をこめて演奏すること」や「楽譜の拘束から開放されて自由に弾くこと」を学びます。
次の晩にかっこうがやって来た時、ゴーシュは「ドレミファ」を何度も正確に弾こうとすることで、「厳しい練習の必要性」や「正しい音階の重要性」を学びます。
しかし同時に、ゴーシュはかっこうとケンカをしてしまいます。ここに、ゴーシュの人間としての未熟さが表れています。
次の晩は、たぬきの子がやってきました。ゴーシュは、たぬきの子とは笑顔で接します。また、ゴーシュは太鼓と言う楽器から「リズム」を学びます。また、たぬきの子との円滑なコミュニケーションを通して、「アンサンブル」を理解しました。
その次の夜には、ねずみの親子がやってきました。ここで、ゴーシュは音楽には「癒し」の効果があることを知ります。また、ねずみから感謝されることで、楽長から叱られてすさんでいたゴーシュの心は癒されます。
このように、ゴーシュは音楽と動物たちとの交流を通して自分自身と向き合って素直さを身に付け、困難を克服したのでした。
中地 雅之「「セロ弾きゴーシュ」における音楽的陶冶の諸相ーー宮沢賢治の童話によるコラージュ」(『岩手大学教育学部研究年報』1997年)
『セロ弾きのゴーシュ』の感想
素直さが一番
ラストのゴーシュの一言を見て、「え、猫は?」と思った人は多いのではないでしょうか。このことに関しては、「賢治は、謝るだけじゃすまないこともあると考えた」「賢治は猫が嫌いだった」など様々な意見があります。
私は、ゴーシュは偉そうな猫に腹を立てたので、特にそういう感情を持たなかったのかなと思いました。
ゴーシュは、動物たちから音楽の基礎を学びます。まず、猫からは「感情を込めて弾くこと」を結果的に教わりました。そして、かっこうからは「ドレミファ」を、たぬきの子からは周りと合わせることを、野ねずみの親子からは自信を持つことを学びました。
最初、楽長から怒られて腐っていたゴーシュは、動物たちと触れ合うことでセロを自然と上手く弾けるようになりました。それにつれて、最初はとがっていたゴーシュの性格は徐々に丸くなっていきます。
このことから、『セロ弾きのゴーシュ』には「何かを学ぶときは謙虚な姿勢を忘れてはいけない」というメッセージがこめられているのではないかと思いました。
最後に
今回は、宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
会話が多く、テンポが良いのでとても読みやすい作品です。ぜひ読んでみて下さい!
↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。