純文学の書評

【芥川龍之介】『芋粥』のあらすじと内容解説・感想

夢が叶ってしまった後の虚無感を表現している『芋粥』。

今回は、芥川龍之介『芋粥』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『芋粥』の作品概要

著者芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
発表年1916年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ幻滅

『芋粥』は、1916年に文芸雑誌『新小説』(9月号)で発表された芥川龍之介の短編小説です。『今昔物語』あるいは『宇治拾遺物語』の説話を原典としているとされています。

Kindle版は無料¥0で読むことができます。

著者:芥川龍之介について

  • 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
  • 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
  • 35歳で自殺
  • 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立

芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。芥川は作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。堀は、芥川を実父のように慕いました。

しかし晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺してしまいます。

芥川とは学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。

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『芋粥』のあらすじ

平安時代、摂政・藤原基経(ふじわらもとつね)に仕える五位(ごい。位の名称)がいました。五位は並外れたみすぼらしい見た目をしていたため、周囲の人から軽蔑されています。

そんな五位の生きる糧となっているのは、「芋粥を満足するまで食べてみたい」という思いです。芋粥は高級な食べ物で、1年に一度ほんの少し口にできるものです。

しかしある年の正月、五位の一言がきっかけで五位は思いがけず夢を叶えることになるのでした。

登場人物紹介

五位(ごい)

摂政である藤原基経に使える地位の低い侍。野暮ったくて背が低く、色あせた服を着たみすぼらしい40代の男。その風貌のせいで、同僚だけでなく道端の子供にさえも馬鹿にされる。

藤原利仁(ふじわらとしひと)

藤原基経に仕える武士。富と権力をもって五位に芋粥を振る舞う。

『芋粥』の内容

この先、芥川龍之介『芋粥』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

理想は理想のままが良い

五位の夢

平安時代、摂政藤原基経に仕える五位がいました。五位はぱっとしない見た目で背が低く、同僚や子供にも煙たがられて見下されています。

5〜6年前に別れた女房と、その相手の男にも笑い物にされる始末です。しかし、どんな仕打ちを受けても五位は顔色を変えずにやり過ごすのでした。

そんな五位の唯一の楽しみは、年に一回正月に芋粥を食べることです。芋粥とは、山芋を甘葛(あまずら)の汁で煮た粥のことです。五位は、5〜6年前からその芋粥に異常に執着しています。

高級な食べ物である芋粥はめったに食べられるものではなく、五位は年に一度ほんのわずかな汁を口にするだけです。五位は、いつか芋粥を飽きるほど食べてみたいと思っており、それが生きる目的と言って良いほどでした。

利仁の厚意

ある年の正月の宴会。少量の芋粥を飲んだ五位は、「いつになったら芋粥を満足に口にできるかのう」と誰に言うともなく言いました。

それを聞いた藤原利仁という武士は、「お気の毒なことじゃの。お望みなら、利仁がお飽かせ申そう」と言いました。

夢叶う

4〜5日後、五位は利仁の屋敷へ向かいます。敦賀(つるが)の屋敷に着いた翌日、利仁は海のようになみなみとした大量の芋粥を五位に振る舞いました。しかし、いざ溢れんばかりの芋粥を目の前にした五位の食欲は全く失われていました。

五位は芋粥を少しだけ飲み干した後、「もう、十分でござる」と言いました。五位は、満足するまで芋粥を口にしたいと思っていた頃を懐かしく思いながら、芋粥の器に向かってくしゃみをしました。

『芋粥』の解説

心の拠り所

田島氏(参考)は、五位が実際に芋粥を満足に食べることを欲していたわけではなく、日々のいじめを乗り越えるための手段として芋粥飽食を夢想していたのだとしています。

芋粥への憧れはお腹(肉体)ではなく心(精神)を満たすためのものであったため、実際に海のような芋粥に食欲をそそられなかったのです。

つまり、五位は利仁によって心の拠り所を奪われてしまったと言い換えられます。これまで、芋粥への憧れが五位の日常の鬱憤を解消していましたが、芋粥飽食の願望が失われてしまった以上、五位は日々のストレスに耐える理由を失くしてしまったのです。

そして田島氏は、利仁は五位を満足させるためではなく、富力や権力を誇示するために芋粥を振る舞ったと考察しています。

田島 俊郎「無位の侍は五位に何を見たか 芥川龍之介の『芋粥』」(「言語文化研究(26)」2018年12月)

妻と芋粥

木村氏(参考)は、五位の芋粥への執着と前妻との別れの時期が重なっていることに着目し、前妻の喪失が芋粥への固執のトリガーになったのではないかとしています。

妻への愛を失った虚無な心を埋めるために、五位は「芋粥を満足に食べる」ということに異様なほど夢中になったのでした。

木村 素子「芥川龍之介「芋粥」論:身体を超える認識の操作」(「上智大学国文学論集(52)」2019年1月)

『芋粥』の感想

理想は理想のままで

物語の最後、五位は芋粥に向かってくしゃみをしました。京都にいたときの五位は、絶対にそんなことはしないはずです。このような芋粥を軽んじる行動が、五位の心境の変化を表しています。

満たされない欲望があるからこそ、生き生きとできる。全てが叶ってしまったら、欲望が満たされてしまったら、頑張れない。

満たされたい、と思いながら永遠に満たされない状況が好ましく、理想は手の届かないところにあるのが一番良いのかなと思いました。

最後に

今回は、芥川龍之介『芋粥』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

青空文庫にあるので、ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人1年生。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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