純文学の書評

金原ひとみ『蛇にピアス』のあらすじ・内容解説・感想

『蛇にピアス』は金原ひとみのデビュー作であると同時に、2004年に第130回芥川龍之介賞を受賞した作品です。登場人物の身体改造をめぐって、物語が展開しています。

今回は、『蛇にピアス』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『蛇にピアス』の作品概要

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著者金原ひとみ(かねはら ひとみ)
発表年2003年
発表形態雑誌掲載
ジャンル中編小説
テーマ痛み

『蛇にピアス』は、2003年に文芸雑誌『すばる』(11月号)で発表された金原ひとみの中編小説です。クラブで出会った青年のスプリットタン(先端が2つに裂けている舌のこと)に魅せられた主人公が、人体改造に目覚めていく物語です。

金原ひとみのデビュー作で、2003年に第27回すばる文学賞を受賞し、2004年に第130回芥川龍之介賞を受賞しました。

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2008年には、吉高由里子さん主演で映画化されました。当時無名だった吉高由里子さんと高良健吾さんの、体を張った演技に注目です。

著者:金原ひとみについて

  • 1983年東京都生まれ
  • 『蛇にピアス』でデビュー
  • 代表作は『トリップ・トラップ』
  • 父親は翻訳家の金原瑞人(かねはら みずひと)

金原ひとみは、1983年に生まれた東京都出身の小説家です。『蛇にピアス』で第130回芥川賞を受賞し、デビューしました。

『蛇にピアス』と並ぶ代表作は、主人公が旅を通して成長する様子が描かれる『トリップ・トラップ』です。父親は、翻訳家・児童文学研究家・法政大学社会学部教授の金原瑞人です。

『蛇にピアス』のあらすじ

19歳のルイは、あるときクラブで顔中にピアスをつけた赤いモヒカンの男と出会います。男は「アマ」と言い、アマのスプリットタン(先端が2つに裂けている舌のこと)に興味を持ったルイはアマと暮らすようになりました。

その後、スプリットタンにするために訪れた店で、ルイは店主のシバと対面しました。その刺青に魅了されたルイは刺青を入れる決意をし、シバとも仲を深めていきます。

そんなとき、以前アマが起こした暴力事件が警察によって捜査され始め、ルイの周りには不穏な空気が漂い始めます。

登場人物紹介

ルイ

19歳の少女。アマと出会ってスプリットタンに興味を持つ。

アマ

クラブでルイに声をかけた青年。背中に龍の刺青がある。

シバ

アマの知り合いの彫り師。背中に麒麟(きりん)の刺青がある。

『蛇にピアス』の内容

この先、金原ひとみ『蛇にピアス』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

痛みと生

魅せられる

19歳のルイは、ある夜クラブでアマという男と出会います。アマは、「スプリットタンって知ってる?」とルイに声をかけました。

裂けた舌を自在に操るアマを見たルイは、「身体改造してみない?」というアマの言葉に、無意識にうなずいていました。そして、ルイはアマのアパートで暮らすようになりました。

後日、ルイはアマの知り合いの彫り師であるシバという男に、舌ピアスを開けてもらいます。そのピアスの穴を拡張し、最後に舌先を裂いてひもで縛ると、スプリットタンが出来上がるのです。

ルイはシバから「無理な拡張をするな」と告げられましたが、待ちきれないルイはハイペースで穴を拡張していきます。拡張するたびに痛みが伴いますが、ルイはそれを心地良く感じるのでした。

暴力事件

その後、ルイは友人のマキにアマを紹介し、3人は一緒に飲みに行くことになりました。その帰り道、2人のチンピラがルイに声をかけます。ルイは無視しましたが、怒りに我を忘れたアマは2人を殴り始めてしまいます。

ただならぬ雰囲気を感じ取ったルイは、マキを先に帰らせました。そして、遠くからやってくるパトカーの音を聞いたルイは、血まみれのアマを落ち着かせてその場から逃げます。

路地に隠れたあと、アマはルイに「ルイのかたきを取ってやった」とチンピラの歯を2本渡しました。アマは、「これも一応、俺の愛の証」とはにかんで言います。帰宅したルイは、2本の歯を洗って化粧ポーチにしまいました。

 

後日、刺青にも興味があるルイは、シバと相談してデザインを決めていました。そして、シバの背中に麒麟が彫られているのを見たルイは、それに見とれます。

ルイはシバに「アマの背中の龍とシバの背中の麒麟を組み合わせたデザインにしてほしい」と頼みました。難しい注文にシバは顔を曇らせますが、ルイの熱量に負けて承諾しました。

不穏な空気

その後、新聞を読んでいたルイは、先日アマが殴った相手が暴力団の組員であることを知ります。2人のうち1人は亡くなったとのことでした。

犯人の特徴が「20代半ば」「身長は175センチから180センチ」「赤い髪」と書かれているのを見たルイは、コンビニで毛染め剤を買い、アマに記事のことを言わずにその赤い髪を染めました。そして、刺青が目立たないように長袖を着るように伝えます。

 

後日、ルイの元にはシバから「刺青のデザイン画ができた」と連絡が入りました。ルイはアマと見に行き、そのデザインに決めます。

刺青を入れる当日、ルイは「瞳を描いたら、飛んで行っちゃいそう」と言い、麒麟と龍に目を描かないでほしいと依頼しました。4回の施術を経て、ルイの背中には美しい麒麟と龍が彫られました。

アマの死

刺青を完成させたルイは、活力を失って怠惰な生活を送っていました。そんなとき、ルイのもとに「アマは何か問題を起こしたか」とシバから電話が掛かってきます。

シバは、暴力事件の件で刺青を入れたの顧客リストを提出するよう、警察から言われたのでした。ルイはシバに話してしまおうと考えたが、結局何も言えませんでした。

 

次の日の夜、アマはルイの待つアパートに帰って来ませんでした。取り乱したルイは捜索願を出そうとしましたが、アマの本名すら知らないことに気づいてがく然とします。

シバに助けを求め、アマのバイト先に連絡したりしましたが、手掛かりは見つかりませんでした。

その後、シバの携帯に「横須賀で似たような遺体が発見された」という連絡が入ります。シバと駆け付けたルイは、その遺体がアマだと分かって崩れ落ちました。

全身にはタバコの火を押し付けられた痕があり、手足の指の爪はすべて剥がされていました。さらに、陰部には線香のようなものが刺さっていました。

完成しないスプリットタン

後日、警察から捜査の進捗について連絡が入ります。陰部に入れられた線香はエクスタシーという香で、ムスクの香りであることが分かったとのことでした。

ルイは、警察署からシバの店に向かいました。精神が不安定なルイをシバが支えていたのです。

ルイが店の整理をしていた時、ルイはエクスタシーのムスクの香が引き出しから覗いているのを見ました。ルイは「ムスクの香りは嫌い」と言い、ココナッツの香に変えます。

ルイは、舌の先を裂いてスプリットタンにしようとしましたがやめました。そして、舌にぽっかり空いたピアスの穴を見つめるのでした。

『蛇にピアス』の解説

名前を明かし合うこと

アマとルイ、シバとルイの関係の違いは、名前を明かしたかどうかです。アマは自分の名前を「アマデウスのアマ」、ルイは「ルイ・ヴィトンのルイ」と言っており、結局本名は明かしませんでした。

一方で、シバとルイは本名を明かし合いました。この違いは何を示しているのでしょうか?

伝統的に、「真名(まな。本当の名前)を知られる=本質・本性を知られる」という論理で、本名を他人に明かすと相手に支配されてしまうという迷信があります。

例えば、ジブリ映画『千と千尋の神隠し』で千尋は本名を明かした結果、湯婆婆に自由を奪われてしまいます。『ゲド戦記』で主人公のアレンはクモという魔女に真の名を言い、支配されてしまいました。

 

逆に名前を明かし合うことは、「相手を支配すること=所有の儀式」であると言えます。この論理で行くと、ルイとシバはお互いのことを所有していると言えますが、2人の立場は対等ではありません。

シバはサディストで、ルイはマゾヒストだからです。また、刺青を彫ったシバ(能動的)と、彫られた(受動的)ルイという構図にも、2人の関係が非対称であることが示されています。

また、「シバさんには有無を言わせない、絶対的な威圧感がある」というルイの言葉からも、ルイとシバの間には上下関係があることが分かります。このように、名を明かしてお互いを所有している関係でありながらも、その均衡が崩れることもあるのです。

なぜ、ルイはピアスを拡張し続けるのか

ルイは心身二元論者(心と身体は別ものだという論を支持する人)です。シバに「屍姦(しかん)してもいい?」と聞かれた時、ルイが「死んだ後のことなんてどうでもいいわ」と言っていることから読み取れます。

ルイは心身二元論者ですが、身体と精神の同一化を目指してピアスを拡張し続けたと考えられます。ルイは、自分が死ぬこと(精神が身体のもとを離れること)を恐れていました。

ルイは、ピアスを拡張することで身体に穴が開き、それに伴って発生する痛みを感じ、身体と精神が連動していることを実感することで、身体と精神の繋がりを確認していたのです。

実際に、ルイは「私が生きていることを実感できるのは、痛みを感じている時だけだ」と言っています。

 

しかし、痛みで身体と精神が本当に繋がるわけではありません。最後に、舌のピアスの穴を「ぽっかりと開いた穴」と表現しているのは、ルイの痛みで感じていた身体と精神の同一化が、実態のない幻想であったことを物語っています。

また、ルイは舌を割こうとしましたが、結局やめました。「ぽっかりと空いた穴」は、アマに憧れてスプタンにしようとしたのに、実現できなかったむなしさも表しているのだと思いました。

大西永昭「非・所有の恋愛論 : 所有から同一化へ向けてー金原ひとみ「蛇にピアス」」(『近代文学試論』2006年12月)

『蛇にピアス』の感想

刺激の多い作品

刺青は非常にビジュアル的なものなので、アマやシバに刻まれた刺青を想像するのが楽しかったです。

また、ルイもアマもシバもアングラな世界の住人で、さらにそこにサドマゾが介入してくる特異な作品です。芥川賞選考時には「該当作なし」も検討されたそうですが、これらは個人的に好きな素材なので、一気に読み切ってしまいました。

あからさまな性描写が芸術として昇華されていて、不快感を覚えなかったことも本作に好感を持った理由です。映画化もされているので、文学初心者でも入りやすい小説だと思います。

最後に

今回は、金原ひとみ『蛇にピアス』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

洋彫りでなく和彫りがクロースアップされているのがぐっとくるポイントでした。身体改造のシーンなど生々しい描写が多く、不快感を覚える人もいそうですが、整理されていて分かりやすい作品なので、ぜひ読んでみて下さい!

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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