純文学の書評

【三島由紀夫】『真珠』のあらすじと内容解説・感想

今回は、三島由紀夫『真珠』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『真珠』の作品概要

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著者三島由紀夫(みしま ゆきお)
発表年1963年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ駆け引き

『真珠』は、1963年に文芸雑誌『文芸』(1月号)で発表された三島由紀夫の短編小説です。消失した真珠の行方に関して、4人の夫人がそれぞれに考えを巡らせる様子が描かれています。

著者:三島由紀夫について

  • 小説家、政治活動家
  • ノーベル文学賞候補になった
  • 代表作は『仮面の告白』
  • 割腹(かっぷく)自殺した

三島由紀夫は、東大法学部を卒業後に財務省に入省したエリートでしたが、のちに小説家に転向します。ノーベル文学賞候補になったこともあり、海外でも広く認められた作家です。同性愛をテーマにした『仮面の告白』で一躍有名になりました。

皇国主義者の三島は、民兵組織「楯の会」を結成し、自衛隊の駐屯地で演説をした後に割腹自殺をしました。

『真珠』のあらすじ

登場人物紹介

佐々木夫人

43歳の誕生日に同年配の夫人を招いて茶会を開催する。茶会中、指環についている真珠を落としてしまう。

春日夫人

東夫人と親友。東夫人から真珠を食べた疑いをかけられる。

東夫人

春日夫人と親友。佐々木夫人の真珠が無くなったとき、機転を利かせて間違えて真珠を食べてしまったと言う。

山本夫人

松村夫人と仲が悪い。松村夫人の手提げに真珠をすべり込ませる。

松村夫人

山本夫人と仲が悪い。手提げから真珠が出てきたことに動揺する。

『真珠』の内容

この先、三島由紀夫『真珠』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

絡み合う思惑

真珠消失事件

佐々木夫人は43歳の誕生日に4人の夫人を招いて茶会を開催しました。彼女たちは、自分たちの年齢を口外しないと言う点でつながっています。

その日佐々木夫人は真珠の指環をしていましたが、指環からは真珠が落ちてしまいます。佐々木夫人は後で始末しようと思い、取れた真珠を大きな菓子皿のそばに転がしておきました。

茶会の途中、佐々木夫人は先ほど取れた真珠を取りに行きましたが、そこに真珠はありません。4人の夫人も一緒になって探しますが、東夫人はたかが真珠一つで大ごとに発展させた佐々木夫人に怒りを覚えました。

そして東夫人は、真珠は自分がうっかり食べてしまったと冗談を言います。そしてこの件は、笑い話として収束しました。

さまざまな思惑

茶会のあと、東夫人は親友の春日夫人と車で帰ります。そして、春日夫人が無実であることを知った上で「真珠を喰べちゃったのはあなたでしょう?私、身を捨てて、あなたを庇ってあげとんだわ」と言いました。

春日夫人は「あらいやだ、私そんなことしないわ」と言いつつ、体内に真珠が引っかかっているような幻想にとらわれます。

 

一方で山本夫人松村夫人は、家の方向が同じであるためタクシーで一緒に帰っていました。松村夫人がコンパクトを引っ張り出したそのとき、手提げの底に真珠が落ちたのが見えました。

仲の悪い山本夫人にあらぬ疑いを掛けられるのを恐れた松村夫人は、途中でタクシーを降りてしまいました。

実は、茶会中に真珠を見つけた山本夫人は、悪だくみをめぐらせて松村夫人の手提げに真珠をすべり込ませたのでした。

 

タクシーを降りた松村夫人は銀座の真珠店に向かい、例の真珠よりやや大ぶりの真珠を買います。松村夫人のシナリオはこうです。

佐々木夫人は松村夫人から受け取った真珠をゆびわにはめようとするが、大きいため入らない。

そこで佐々木夫人は、「松村夫人は誰かを庇おうとしてに違いない。なぜなら、盗品より上等な品を返してよこす泥棒なんていない」と考える。そこで松村夫人の潔白が証明されると、こう考えたのです。

 

一方で春日夫人は、家に帰ってからも東夫人に疑いをかけられたことを考えていました。そして銀座の真珠店で佐々木夫人のものとほぼ同じ大きさの真珠を買います。

次に東夫人に「帯締めから例の真珠が出てきた。恥ずかしいから一緒に返しに行ってくれないか」と打診して2人で佐々木夫人の家へ向かいます。

顛末

佐々木夫人は、まず松村夫人から真珠を受け取りました。真珠は大きくて指環にはまりませんでしたが、松村夫人が思い描いたように、佐々木夫人は松村夫人が誰かを庇ったのだと思いました。

しかし春日夫人も真珠を返しにきたことで、佐々木夫人は混乱してしまいます。春日夫人から受け取った真珠は小さすぎてやはり指環にはまらなかったため、佐々木夫人は呆れてしまいました。

その後

春日夫人と東夫人は、非常に険悪なムードで帰路につきました。一方で松村夫人と山本夫人は言い合いを続けながらも結局和解しました。

その後、これまであれほど仲が悪かった松村夫人と山本夫人の仲が急に良くなり、逆にあれほど仲が良かった東夫人と春日夫人の仲が急に悪くなった噂を聞いて、佐々木夫人は世の中にはおかしなことがいろいろあるんだと思いました。

そして佐々木夫人は、受け取った大小2つの真珠をつけた指環を作らせてこだわりなくこれを身につけます。佐々木夫人はいつしかこの事件のことも忘れ、人に歳を聞かれると6つか7つサバを読んで答えるのでした。

『真珠』の解説

東夫人の手口

あれこれ策略を巡らす側が損をして、何もしてない側が得をするという、中世の説話にありそうな滑稽な物語です。

東夫人は気弱な春日夫人をいわば洗脳し、春日夫人が無実であるにもかかわらず、春日夫人自身が真珠を盗んだと刷り込んだのです。

 

この構図と似た作品に、江戸川乱歩『ニ廃人』があります。

『ニ廃人』に登場する井原氏は、過去に強盗と殺人を犯してその後の人生を棒に振った人物です。

井原氏は子供の頃から寝ぼける習慣があり、さらに大学時代には無自覚ではあるものの夢遊病患者のような行動を取っていたことがありました。そしてついに、井原氏は寝ている間に強盗殺人を犯してしまったのでした。

井原氏の話を聞いていた斎藤氏は、井原氏が夢遊病だとする根拠は、突き詰めると井原氏の友人であった木村の証言に行きつくと言います。

つまり、井原氏は無実であるにもかかわらず、木村に自身が強盗殺人を犯したと思い込まされ、犯人に仕立てあげられていたのでした。

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『真珠』の感想

佐々木夫人のキャラクター

考えすぎる四夫人と、まったく考えない佐々木夫人という構図がなんとも笑いを誘う作品です。

松村夫人と山本夫人・東夫人と春日夫人の関係が変わったことが、そもそも佐々木夫人自身が取れてしまった真珠をすぐに片付けなかったことに起因しているにもかかわらず、「世の中にはおかしなことがいろいろあるんだ」という感想を抱くだけで終わっているところに、佐々木夫人のキャラクターが表れています。

そして佐々木夫人は、松村夫人が深く考えた結果の大きな真珠と、春日夫人が深く考えた結果の小さな真珠を一つの指環に同居させるという、あまりに無神経な行動をします。

良くも悪くも思考が浅い佐々木夫人にとって、これらの真珠は大小二つの真珠で、それ以上でもそれ以下でもないのです。

 

また、作中の夫人たちは年齢を口外しないというルールを共有しています。言い換えれば、この秘密を共有することでつながりを深めている側面があるのです。

しかし、佐々木夫人はいつしか年齢を人に聞かれると6つか7つサバを読んで答えるようになります。抜けがけしているとかそういうわけではなく、43歳という年齢を口外しない秘密結社を四夫人と結成していると言うこと自体忘れているのです。

このように、適当で楽観的な佐々木夫人が神経質な四夫人の思惑を全て無駄な物にしてしまうところに、この物語の面白さがあると思います。

最後に

今回は、三島由紀夫『真珠』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

ぜひ読んでみて下さい!

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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