純文学の書評

【谷崎潤一郎】『細雪』のあらすじ・内容解説・感想|朗読音声付き

昭和11年秋~昭和16年春までの、大阪の没落旧家・蒔岡家の四姉妹の日常を描いた『細雪(ささめゆき)』。

今回は、谷崎潤一郎『細雪』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『細雪』の作品概要

著者谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)
発表年1943年
発表形態雑誌掲載
ジャンル長編小説
テーマ優雅な生活

『細雪』は、1943年に雑誌『中央公論』(1月号・3月号)、1947~1948年に雑誌『婦人公論』(1947年3月号~1948年10月号)で発表された谷崎潤一郎の長編小説です。

大阪の旧家を舞台に、四姉妹の日常が描かれています。特に、次女・幸子の目線から、結婚できない三女の雪子や自由人の妙子の様子が語られています。

1950年から3度に渡って映画化されており、1950年版はYouTubeで観ることができます。文スト(文豪ストレイドッグス)での谷崎の異能力は、「細雪」と言うそうです。Kindle版は上巻を無料¥0で読むことができます。

著者:谷崎潤一郎について

  • 耽美派作家
  • 奥さんを友人に譲るという事件を引き起こす
  • 大の美食家
  • 生涯で40回以上の引っ越しをした引っ越し魔

谷崎潤一郎は、反道徳的なことでも美のためなら表現するという「唯美主義」の立場を取る、耽美派の作家です。社会から外れた作品を書いたので、「悪魔」と評されたこともありました。

最初の妻・千代子の妹に惹かれていた谷崎は、千代子を友人で作家の佐藤春夫に譲るという「細君(さいくん)譲渡事件」を引き起こしました。また大の美食家で、食には大変なこだわりを持っていた人物です。

さらに、書いている作品のイメージに近い家に移り住み、生涯で40回以上の引っ越しをしました。谷崎は漢文や古文、関西弁を操ったり、技巧的な形式の作品を執筆したりして、日本を代表する作家とされています。

死んでも踏まれ続けたい。谷崎潤一郎の略歴・作風をご紹介80年の生涯で40回も引っ越しをしたり、奥さんを友達に譲ったり、度が過ぎる美食家だったりと、やることが規格外の谷崎潤一郎。 今回は...

『細雪』のあらすじ

大阪の蒔岡家は、衰退しつつある名家です。蒔岡家の三女の雪子は30歳を過ぎても未婚のままで、四女の妙子は駆け落ちなどのスキャンダルが絶えない破天荒な娘です。

雪子のもとには次々と縁談が舞い込んできますが、なかなか結婚するまでには至りません。次女の幸子は、そんな妹たちを見守ります。

登場人物紹介

鶴子(つるこ)

長女。大阪に住んでいたが、東京に引っ越した。

幸子(さちこ)

次女で主人公。未婚の妹たちの行く末を心配している。

雪子(せつこ)

三女。引っ込み思案な性格で、30歳を過ぎているのに結婚していない。

妙子(たえこ)

四女。10代のときに駆け落ちをしてしまうような、自由奔放な性格。

『細雪』の内容

この先、谷崎潤一郎『細雪』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

現代版源氏物語

未婚の妹たち

蒔岡(まきおか)家は、大阪の商家でした。大正時代に非常に栄えましたが、大正末期からは没落してしまいます。

そして長女・鶴子の夫は、蒔岡家の当主であるにもかかわらず、銀行員です。次女・幸子の夫は会計士で、1人娘と芦屋に住んでいます。

三女・雪子、四女・妙子も芦屋で暮らしています。次女・幸子は、未婚の妹たちの行く末を心配しています。何度か雪子には決まりかけた縁談がありましたが、理想の高い雪子はすべて断っていました。

雪子の縁談

そんな時、雪子に久しぶりの縁談が持ち掛けられます。相手は、沢崎(さわざき)という45歳の資産家でした。幸子は、「なぜそんなお金持ちが、うちと縁組しようとするのだろう?」と疑問に思います。

見合いの当日、沢崎は着古した洋服で来ました。今回の見合いを軽く考えているのです。また、沢崎は雪子を明らかに気に入っていない様子でした。

見合いが終わったあと、沢崎から縁談の断りの手紙が届きます。それは短い事務的なものだったので、幸子は不愉快になりました。

 

ある日、幸子が劇を観に行くと、妙子と奥畑(おくはた)という男が一緒にいるところを見かけます。奥畑は金持ちの三男で、かつて妙子が駆け落ちした相手でした。

奥畑は遊んでばかりのお坊ちゃまなので、妙子がひそかに奥畑と関係を続けていることを知った長女・鶴子は、「妙子をいま私が住んでいる東京に来させなさい」と幸子に言いました。

そして、もし東京に来ないなら、いま妙子が住んでいる芦屋の家からも追い出せとのことでした。しかし、鶴子の夫と仲の悪い妙子は、「うち、本家と一緒に暮らすぐらいなら死んだ方がましや」と言って、自分でアパートを借りて芦屋を出て行ってしまいます。

雪子の縁談2

雪子は、45歳の橋寺(はしでら)という製薬会社の重役との見合いを受けました。人柄・外見・財力的に何の問題もない橋寺に、幸子は好感を持ちます。橋寺はあまり乗り気ではありませんが、周囲の協力もあって何とか縁談は上手くいきそうになりました。

ところが幸子の留守中、橋寺が雪子に電話をかけます。引っ込み思案の雪子は電話が苦手なので、「はい、あのう……」とあいまいな返事ばかりします。怒った橋寺は、縁談を破棄してしまいました。それを聞いた幸子は、ひどく落胆してしまいます。

 

その後、雪子は御牧(みまき)という45歳の貴族の男性と見合いをすることになります。しかし、御牧は定職に就かずに遊んでばかりいるので、雪子はあまり前向きになれませんでした。

しかし、御牧は雪子の写真を見て彼女を気に入ったので、御牧・幸子・雪子・妙子は一度食事をすることになりました。雪子は珍しくよくしゃべったので、幸子は手ごたえを感じます。そして、雪子は御牧との結婚を承諾しました。

ところが、結婚が決まっても雪子の気持ちは晴れません。結婚式の衣装を見て「これが婚礼の衣装でなかったら嬉しいのに」とつぶやきます。そして、幸子がお嫁に行くときも、ちっとも楽しそうじゃなかったなと思い返すのでした。

『細雪』の解説

発禁処分

『細雪』が発表されたのは、終戦直後の1943年です。お国のために質素倹約の生活を送るのが当たり前だった時代でしたが、『細雪』では高価な着物を着たり、立派な弁当を持って優雅に花見に興じるなど、明らかに当時の状況とは異なる生活が描かれています。

これが国の戦争に対する姿勢に反発していると判断され、『細雪』は発禁(発売頒布禁止)処分を受けました。しかし、谷崎はこの処分に屈せず執筆を続け、数年かけて書き上げました。

『細雪』には、平安貴族さながらの優雅で豪華な生活が描かれているため、本作は「現代版源氏物語」とも呼ばれています。

『細雪』の感想

進まない縁談

上中下巻にわたって、雪子と妙子がひたすら結構相手をさがすという物語です。谷崎は、芥川龍之介と「理想の小説」について議論を交わしました。

そこで、芥川は「作りこまない詩のような小説」を理想としたのに対し、谷崎は「起承転結のはっきりした小説」を理想としました。

確かに、谷崎の小説は起伏があるものが多いですが、『細雪』は例外です。雪子が縁談を受けては断っての繰り返しで、話が全く前に進まないからです。

ただ、だからこそ1つ1つの出来事が丁寧に描かれますし、没落しているとはいえお金持ちの優雅な生活が描かれています。人物の心の動きが良く写し取られているので、それを追っていくのが面白いです。

変なラスト

そしてこの作品の面白いところは、ラストの1文です。上中下巻に渡ってお金持ちの優雅な生活が描かれているのに、その下巻の一番最後は「結婚が決まった雪子の下痢が止まらない」というものなのです。

それまでの風雅な雰囲気は少しも感じられず、非常に滑稽です。この作品はまだきちんと読めていないので、今後「なぜ下痢の話で締めたのか」について考察したいと思います。

『細雪』の朗読音声

『細雪』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。

最後に

今回は、谷崎潤一郎『細雪』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

当時の結婚観や見合いの様子を知れる貴重な資料です。上巻のみ青空文庫にあるので、ぜひ読んでみて下さい!

青空文庫 谷崎潤一郎『細雪』

↑Kindle版は上巻を無料¥0で読むことができます。

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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