純文学の書評

【太宰治】『走れメロス』のあらすじ・内容解説・感想|朗読音声付き

誰もが知る『走れメロス』は、太宰の作品の中でも一二を争う有名な小説です。道徳的な視点から読まれることが多く、教科書でもおなじみの作品です。子供のころに読んだことがあるものの、意外と内容を覚えていなかった人も多いのではないでしょうか?

今回は、太宰治『走れメロス』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『走れメロス』の作品概要

著者太宰治(だざい おさむ)
発表年1940年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ友情

小栗孝則訳の『新編シラー詩抄』を参考に書かれた小説です。人質になった友人のためにメロスが死に物狂いで走る物語で、国語の教材として親しまれています。太宰の生活が、退廃的なものから家庭を築いて健康的なものになり始めたころに書かれました。

著者:太宰治について

  • 自殺を3度失敗
  • 青森の大地主の家に生まれた
  • マルキシズムの運動に参加するも挫折した

坂口安吾、伊藤整と同じ「無頼(ぶらい)派」に属する作家です。前期・中期・後期で作風が異なり、特に中期の自由で明るい雰囲気は、前期・後期とは一線を画しています。太宰については、以下の記事をご参照ください。

太宰のことがまるわかり!太宰治のプロフィール・作風をご紹介皆さんは、太宰治という作家にどのようなイメージを持つでしょうか?『人間失格』や自殺のインパクトが強いため、なんとなく暗いと考える人が多い...

『走れメロス』のあらすじ

羊飼いのメロスは、正義感の強い青年です。ある日、メロスは妹の結婚式の結婚式を挙げるために、シラクスの町に買い物に行きました。メロスは、そこでディオニスという人間不信におちいった王様が、人々を虐殺していることを知ります。

メロスがディオニスに抗議しに行くと、メロスは殺されることになってしまいました。メロスは動じませんが、「妹の結婚式に出て、そのあと処刑されに戻ってくる」とディオニスに告げます。

メロスの親友のセリヌンティウスが人質になりました。3日後までに戻らなければ、セリヌンティウスはメロスの代わりに殺されてしまいます。メロスは、セリヌンティウスのために懸命に走ります。

登場人物紹介

メロス

村の牧人。16歳の内気な妹と2人で暮らしている。正義感が強い。

セリヌンティウス

メロスの親友。シラスクの町で石工(いしく。石を彫ったりする職人)をしている。

ディオニス

シラスクの王。人間不信におちいり、怪しいと思った人を殺している。

『走れメロス』の内容

この先、太宰治『走れメロス』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

熱い友情物語(?)

暴君・ディオニス

メロスは、妹の結婚式の衣装やごちそうを買いに、はるばるシクラス(イタリア・シチリア島)の町までやってきました。メロスの親友・セリヌンティウスは、シラスクで石工をしているため、メロスはセリヌンティウスを訪ねようと思っています。

しかし、歩いているとメロスは町の異変に気付きます。2年前に来たときは、もっと活気があったのに、今は妙に静かです。気になって老人に聞いてみると、ディオニスという疑い深い王が、少しでも怪しいと思った人を片っ端から殺しているのだと言います。

 

その事実に激怒したメロスは、買ったものを背負って城に駆け込みます。そして、メロスは捕まえられてディオニスの前に引きずり出されてしまいます。メロスは、ディオニスに「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ」と言い放ちます。

死を覚悟していたメロスは、処刑を宣告されても動じません。しかし、ふと妹の結婚式のことを思い出しました。そして、「処刑までに3日猶予をください。必ず戻りますから」とディオニスに言います。

ディオニスは信じようとしませんでしたが、メロスが親友のセリヌンティウスを人質にすると言ったのを聞いて、3日間の猶予を与えました。ディオニスは、メロスはどうせ帰ってこないのだから、セリヌンティウスを殺してしまおうと考えたのです。

その夜、セリヌンティウスが城に呼ばれました。メロスが事情を話すと、セリヌンティウスは無言でうなずき、メロスを抱きしめます。メロスは、すぐに出発しました。

悪魔のささやき

メロスは、一睡もせずに走って、お昼ごろに村に着きました。その日は準備に徹し、結婚式はその次の日に行われます。結婚式の途中、メロスは「一生このままここにいたい」と思いました。しかし、城で待っているセリヌンティウスのことを考え、戻る決意をします。

 

式を終えて、その次の日の朝に目覚めたメロスは、シラスクに向かって走り出します。そして、太陽が昇って全行程の半分ほど過ぎた時に、メロスは困難にぶつかります。なんと、目の前の川が豪雨で氾濫していたのです。橋もなければ船もなく、メロスは途方にくれます。

メロスは荒れ狂う川に飛び込み、何とか泳いで渡りました。日は、すでに西に傾いています。日没までに、メロスは城に戻らなくてはなりません。

しかしそのとき、山賊がメロスの行く手を阻みます。王に命令され、メロスを殺しに来たのです。メロスは力を振り絞り、3人の盗賊を倒しました。

しかし、そこでメロスは力尽きてしまいました。走りに走り、濁流を渡り、山賊を倒したメロスには、立ち上がる力も残っていません。「私は、裏切り者だ」と思いながら、メロスはうとうとし始めました。

信実

そのとき、メロスの耳に水が流れる音が聞こえてきます。メロスは、よろよろと起き上がってその水を飲みました。すると、みるみるうちに体力が回復していきます。そして、メロスは黒い風のように、沈む太陽の10倍も早く走りました。

そして、太陽の最後の光が地平線に消えた時、メロスは刑場に飛び込みました。「殺されるのは、私だ!」とかすれた声で叫びながら、メロスは磔(はりつけ)にされたセリヌンティウスの足にすがり付きます。セリヌンティウスの縄はほどかれました。

メロスは、一度だけ諦めようとしたこと告げ、セリヌンティウスに殴らせます。セリヌンティウスは、一度だけメロスは帰ってこないのではないかと疑ったと告げ、メロスに殴らせました。

抱き合って泣く2人を見たディオニスは、「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった」と心を改めます。刑場にいた群衆たちは、「王様ばんざい」と歓声を上げました。

『走れメロス』の解説

元ネタは?

小説の一番最後には、「古伝説と、シルレルの詩から」とあり、『走れメロス』はこの2つを参考に書かれた事が分かります。

「古伝説」はギリシアの伝説のことで、「シルレルの詩」は、ドイツ人の詩人・シラーが書いた詩のことです。シラーの詩は、この古伝説をもとに書かれました。

では、なぜ太宰はシラーの詩を参考に小説を書いたのでしょうか?結論から言うと、太宰がシラーにはまっていた時期があったからです。日本は、昭和11年に日独防共協定を、昭和15年に日独伊三国同盟を結び、ドイツとの連携を強化しました。

 

この時期に、日本ではドイツ語の文献が大量に翻訳されました。そして、太宰は小栗孝則という人が訳したシラーの詩を読んで、着想を得たのです。

そのため、古伝説とそれをもとに書かれたシラーの詩をもとにしているものの、直接的に参考にしたのは、この小栗孝則訳のシラーの詩なのです(太宰は、ギリシア語で書かれた古伝説も、ドイツ語で書かれたシラーの詩も、原文では読んでいないため)。

余談ですが、『走れメロス』は小栗訳のシラーの詩をかなり引用しています。今なら訴えられるレベルでパクっていますが、この頃はまだそういうことが許されていたのかもしれません。

セリヌンティウス、良い奴すぎん?

『走れメロス』を読んだ人は、「なぜ、セリヌンティウスは人質になることをあっさり受け入れたのか?」と疑問に感じると思います。実は、これには宗教が関係しています。

 

メロスとセリヌンティウスの伝説が書かれた書物は多く存在するのですが、そこには「メロスとセリヌンティウスはピタゴラス教団の信者だった」ということが書かれています。

つまり、セリヌンティウスが人質を引き受けたのは、「メロスとセリヌンティウスは同じ宗教の信徒だったから」と言えます。

同じ宗教を信仰している信者たちの結びつきは強いので(マイナーな宗教だと特に)、セリヌンティウスは当たり前のようにメロスを助けたのでした。『走れメロス』ではそこが抜け落ちているので、奇跡の友情物語が描かれているように見えるのです。

①滝口晴生「太宰治「走れメロス」の原話をたどって 」(山梨大学教育人間科学部紀要 2014年 3月)

②高山 裕行「「走れメロス」素材考」(日本文学 1985年)

『走れメロス』の感想

人間らしい勇者

勇者の話でありながらも、メロスが一度諦めるところが描かれているのが、人間らしくて良いと思いました。

結婚式で妹の幸せそうな姿や、村人の陽気な様子を見て「ずっとここにいたいなぁ」と思ったり、諦めそうになる自分を必死に正当化しようとするところは、ものすごく人間味があります。人間の汚いところを描くのが得意な、太宰ならではだと思いました。

物語に、起こったことだけでなく人物の気持ちを書くようになったのは、近代化してからです。そのため、それ以前の伝説や昔話には「心理」が描かれていませんでした。

このように、人物の心の動きが描かれていない、神話や昔ばなしに心情が書き加えられると、また違った面白さがあるなと思いました。

『走れメロス』の朗読音声

『走れメロス』の朗読音声は、YouTubeで聴くことができます。

『走れメロス』の名言

「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ」

心身ともにぼろぼろになっても走ろうとする、メロスの言葉です。余計なことをそぎ落とした、真っすぐ届いてくる力強い言葉だと思います。

最後に

今回は、太宰治『走れメロス』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

ストーリー性があり、場面の変化に富んでいるので、読み物として楽しめる作品です。ぜひ読んでみて下さい!

↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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