今回は、三島由紀夫『雨のなかの噴水』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『雨のなかの噴水』の作品概要
著者 | 三島由紀夫(みしま ゆきお) |
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発表年 | 1963年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 恋愛 |
『雨のなかの噴水』は、1963年に文芸雑誌『新潮』(8月号)で発表された三島由紀夫の短編小説です。別れをめぐった未熟な少年少女のやりとりが描かれています。
著者:三島由紀夫について
- 小説家、政治活動家
- ノーベル文学賞候補になった
- 代表作は『仮面の告白』
- 割腹(かっぷく)自殺した
三島由紀夫は、東大法学部を卒業後に財務省に入省したエリートでしたが、のちに小説家に転向します。ノーベル文学賞候補になったこともあり、海外でも広く認められた作家です。同性愛をテーマにした『仮面の告白』で一躍有名になりました。
皇国主義者の三島は、民兵組織「楯の会」を結成し、自衛隊の駐屯地で演説をした後に割腹自殺をしました。
『雨のなかの噴水』のあらすじ
登場人物紹介
明男(あきお)
女性に別れを告げることを夢見て、ついにそれを実行した少年。
雅子(まさこ)
学生。明男に別れを告げられて涙を流す。
『雨のなかの噴水』の内容
この先、三島由紀夫『雨のなかの噴水』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
大人に憧れた少年の恋愛
大人の仲間入り
明男は雅子と別れ話をした後、涙を流す雅子を引きずって歩いています。明男は「別れよう」という言葉を言うことを夢見て、彼女を口説き、ついにそれを言い放ったのでした。
その言葉を言う瞬間、痰が絡んで不明瞭に言ってしまったのが心残りでした。しかし「別れよう」と明男が言ったとき、雅子は大きな目から涙をこぼします。明男が構わず会計を済ませると、雅子は黙ってついてきます。
噴水と雅子の涙
止めどなく流れる雅子の涙を思いながら、明男は公園にある噴水と雅子の涙を対抗させようと思いました。そして「噴水を見てるんだ。見てみろ。いくら泣いたって、こいつには敵わないから」と言います。
言いながら明男は、放射状に散っていく水の様子や、それとは対照的に中心で静止しているように見えるものの絶えず下から上へ登っている水の柱に目を奪われます。
涙の正体
また歩き出した明男に、雅子は「どこへ行くの」と問います。明男は、「どこへって、そんなことは俺の勝手さ。さっき、はっきり言っただろう?」と言いますが、雅子「何て?」と問います。
「さっき、はっきり言ったじゃないか。別れようって」「へえ、そう言ったの?きこえなかったわ」
明男はひどく衝撃を受けましたが、ようやく「それじゃあ、何だって泣いたんだ」と聞きます。雅子は「何となく涙が出ちゃったの。理由なんてないわ」と言いました。
『雨のなかの噴水』の解説
結末の解釈
それまで明男が雅子を振り回していた構図だったのに、最後の最後で立場が逆転する結末となりました。
雅子は明男が別れを告げたことに関して「へえ、そう言ったの?きこえなかったわ」と言いましたが、雅子は本当は聞こえていてそのうえで明男を弄んでいたのではないかと考えます。
以下に根拠を引用します。
「何て、だって?さっき、はっきり言ったじゃないか、別れよう、って」
そのとき少年は、雨の中を動いている少女の横顔のかげに、芝生のところどころに小さく物に拘泥ったように咲いている洋紅の杜鵑花を見た。
「へえ、そう言ったの?きこえなかったわ」
と少女は普通の声で言った。
杜鵑花(さつき)は渓流沿いの岩肌に生息したり、交通量の多い道路沿いに厳しい環境に植えられることからもわかるように、非常に強健なイメージのある花です。
雅子の横顔に杜鵑花のかげがあるということは、杜鵑花のしたたかさのイメージが雅子にも付与されているということです。
以上のことから、雅子は「明男に捨てられて涙を流す少女」を演じ、明男を一杯食わせたと言うことができます。
『雨のなかの噴水』の感想
背伸びする少年・明男
ナルシスト
作中で明男が「少年」と呼ばれている通り、明男は大人に憧れた子供です。さらに、大人な行動をしている自分に酔っている節があります。
別れ話の場に丸ビルの喫茶店という場所を選択するのもキザですし、涙を流す雅子を「じっと眺めている自分の心の、薄荷のような涼しさにうっとりした」というところからも、明男が自身の冷静沈着さに酔いしれていることがわかります。
また雅子が涙を流したとき、「それは目というよりは一つの破綻、収拾のつかない破綻だった」と語っています。雅子は自分との別れを大いに悲しんでいると思い込んでいることも、明男の独りよがりでナルシストな性質を表しています。
少年から大人へ
明男は「王様のお布令のように」別れの言葉を口にすることを「夢みて」おり、大人に憧れて背伸びをしている少年です。
「(雅子は)明男によって『捨てられた女』だった」という語りや、「やっと大人の仲間入りをした」と思っている語りからそれは明らかです。
また「傘を持たない雅子を、明男は自分の傘に入れてやる他はない。彼はそこに、冷たい心のまま世間体を気にする大人の習慣を見出し」というところからは、捨てた女を、世間体を気にして仕方なく傘に入れてやる大人な自分に陶酔していることが読み取れます。
しかし、明男はまだまだ大人に憧れる子供です。余裕たっぷりな感じを醸し出し、ちょっと悪い男を演じつつ、「(別れの言葉を)もし聞き返されたら死んだ方がマシだ」とかあれこれ考えを巡らせています。
また、「どこへ行くの?」という雅子の問いかけに答えないつもりでいたのに、その質問を待っていましたとばかりに思わず「噴水を見てるんだ」と答えてしまうところにも子供らしさが表れています。
雅子は明男のそういうところを見抜いたうえで、明男を弄んだのではないかと思いました。その意味で、雅子の方が一枚上手だと感じます。
最後に
今回は、三島由紀夫『雨のなかの噴水』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!