川上弘美は、日常と非日常が混ざったような世界を描く作家です。
今回は、川上弘美のおすすめの本を4冊ご紹介します!
川上弘美ってどんな人?
川上弘美は、1958年生まれ東京都出身の小説家です。お茶の水女子大学理学部生物学科を卒業後、高校の教員を経て小説家となりました。
1996年に『蛇を踏む』で第115回芥川賞を受賞し、その後も中年女性と初老の男性の恋を描いた『センセイの鞄』がベストセラーとなり、数々の文学賞を獲得しました。2019年には、その功績がたたえられて紫綬褒章(しじゅほうしょう)を受章しました。
初級編
「とりあえず、有名な作品をさらっと読みたい!」「話振られたとき困らないように、代表作だけ知っておきたい!」というビギナー向けに、読んでおけば間違いない作品を4つ紹介します。
『センセイの鞄』
著者 | 川上弘美(かわかみ ひろみ) |
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発表年 | 1997年~2000年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 長編小説 |
テーマ | 恋愛 |
『センセイの鞄』は、1997年~2000年に雑誌『太陽』(1999年7月号~2000年12月号)で連載された川上弘美の長編小説です。
居酒屋で再会したアラフォー女性と初老の男性が、徐々に距離を縮めていく様子が描かれています。
あらすじ
37歳のツキコは、駅前の居酒屋で高校時代の国語の教師「センセイ」と再会します。2人は居酒屋で会えば世間話をする仲になり、しだいに露店めぐりやキノコ狩り、お花見などをするようになりました。
そしてツキコは、センセイと仲良くする女性への嫉妬や、言い寄ってくる別の男性への違和感を経て、センセイへの気持ちを自覚するのでした。
感想
若々しい恋愛とはかけ離れた、渋くて遅々として進まない恋愛ですが、だからこそ2人の関係を追いかけたくなる不思議な魅力があります。
初老のおじいさんに恋心を抱くなんて…と思いながら読み始めましたが、不覚にもセンセイに惹かれている自分がいました。
センセイは元国語教師ということもあり、知的で落ち着いている人物です。ツキコ同様、私自身もセンセイの魅力を感じながら読み進めました。
和歌のように上品に進む恋愛と、上品ではないけれど食欲をそそる一杯飲み屋の情景に、どんどん引き込まれていく作品です。
『蛇を踏む』
著者 | 川上弘美(かわかみ ひろみ) |
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発表年 | 1996年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 孤独 |
『蛇を踏む』は、1996年に文芸雑誌『文学界』(3月号)で発表された川上弘美の中編小説です。人に変化(へんげ)した蛇が、人間の心の中に入り込む様子が描かれています。
あらすじ
ある日、サナダヒワ子が踏みつけた蛇は50歳くらいの人間の女に変身し、ヒワ子の部屋に住み着くようになります。蛇は、ヒワ子の母親が健在であるにもかかわらず、 ヒワ子の母親を名乗ります。
そしてその蛇は、ヒワ子をしつこく「蛇の世界」へ誘うのでした。
蛇と同居するうち、ヒワ子は周囲の人も蛇に取りつかれていることに気付きます。ヒワ子は違和感を覚えながらも、人間の世界と蛇の世界でゆれ動きます。
感想
母を名乗る不思議な蛇女に住み着かれた女性の物語です。女は、ヒワ子に記憶にない過去を思い出させようとしたり、「蛇の世界」に誘ったりします。
最初は余裕たっぷりだったのに、徐々に強引にヒワ子を「蛇の世界」に引き込もうとする様子に狂気じみたものを感じました。
また衝撃的だったのは、小さな蛇が耳からヒワ子の体内に入り込むシーンです。実際に入る込んでいると言うより、イメージとか幻覚であると思いますが、それでもゾワゾワせずにはいられません。
泉鏡花『高野聖』の9センチくらいのヒルが降ってくるシーンを思い出し、そのぬめぬめと質感に思わず身震いしました。
中級編
「代表作一通り読んで、もっと他の作品も読んでみたくなった!」「もうにわかは卒業したい!」という人向けに、ここでは定番からは少しそれた作品をご紹介します。
『溺レる』
著者 | 川上弘美(かわかみ ひろみ) |
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発表年 | 1999年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 不安 |
『溺レる』は、1999年に文芸雑誌『文學界』で発表された川上弘美の短編小説です。ある男女の逃避行が描かれています。女流文学賞・伊藤整賞受賞作です。
あらすじ
コマキは、モウリさんと逃げています。当初は逃げる理由は明確でしたが、だんだんと目的がはっきりしなくなり、コマキは自分でもなぜ逃げているのか分からなくなりました。
それでも、コマキはモウリさんに付き添って逃げ続けます。時には定住してお金を貯め、お金が貯まるとまた旅に出て、2人は「アイヨクにオボレ」るのでした。
感想
駆け落ちする男女の誰からも祝福されない淋しさや、コミュニティに所属していないことによる孤独、見通しの立たない生活への不安が入り混じった、もの悲しい愛が描かれています。
モウリさんは、コマキをリードしたり初対面の人と臆せず話す社交性を持っているかと思いきや、自転車に乗れなかったり、涙を流したりと繊細な一面があります。
一方のコマキは、モウリさんにぼんやり着いてきているだけかと思いきや、意外と芯がしっかりしています。
文庫本で20頁に満たない短編ですが、不思議とコマキとモウリさんの人物像が浮かび上がって来ます。一筆書きのようで、実は人間味のある魅力的なひとたちです。
『ニシノユキヒコの恋と冒険』
著者 | 川上弘美(かわかみ ひろみ) |
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発表年 | – |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 連作小説 |
テーマ | 愛 |
『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、雑誌『小説新潮』で発表された川上弘美の連作小説です。
『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、2014年に竹野内豊さん・尾野真千子さん主演で映画化されています。
他にも、木村文乃さんや本田翼さん麻生久美子さんなど豪華な女優が出演しており話題となりました。映画では、7人の女性とニシノユキヒコの恋愛模様が描かれています。
あらすじ
仕事ができる美男子で、女性から常に求められているニシノユキヒコ。
立場や年齢、タイプ関係なしにどんな女性でも虜にしてしまうニシノでしたが、いつも2番目で決して1番になることはありません。そのため、モテるにもかかわらず必ずニシノの方が振られてしまうのです。
「どうして僕はきちんとひとを愛せないんだろう」そんな思いを抱いたまま、ニシノは数々の女性と関係を持つのでした。
感想
ニシノは本当に罪な男で、いつもはクールで余裕たっぷりなのに、ふとした時に弱さを見せます。
太宰治『人間失格』の葉蔵や、「ハウルの動く城」のハウルのように、飄々(ひょうひょう)としているのにデリケートで、落ち着きをはらっているようで実は脆いというあやうさを持っています。
触れたら消えてしまうそうなはかなさ、守りたくなるような悲壮感。ニシノはそんなものを武器に、女性たちの心を射止めます。困るくらいにモテるのに、決して1番にはなれないニシノに対して、羨望や同情の気持ちを抱きながら読み進めました。
最後に
今回は、川上弘美のおすすめの本を4冊ご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!