タイトルからして危険な香りしかしない『少女病』。
今回は、田山花袋『少女病』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『少女病』の作品概要
著者 | 田山花袋(たやま かたい) |
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発表年 | 1907年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 不治の病 |
少女へのあこがれが、崇拝する姿勢が描き込まれています。告白・懺悔を主題とする日本の自然主義の流れの中で書かれました。
著者:田山花袋について
- 自然主義の代表作家
- 「自然を再現することが芸術の役割」と主張
- 紀行文(温泉巡りなど)も有名
私生活をありのままに描くことを目指した、自然主義の作家です。田山花袋の『蒲団』は、私小説の原点ともいわれています。自然主義については、以下の記事をご参照ください。
『少女病』のあらすじ
少女観察が趣味の男・杉田は、道行く女学生や電車に乗る少女を眺めることを楽しみとしています。どの駅で誰が乗ってくるかを把握するほどでした。
杉田はかつて信濃町から乗ってきた美少女にもう一度会いたいと思っていました。そんなとき、杉田は奇跡的な光景を目にします。
登場人物紹介
杉田
37歳の主人公。25~26歳の妻・6歳と4歳の子供と暮らす。かつては文学者として名声を挙げたが、今では落ちぶれて雑誌社の社員をしている。
『少女病』の内容
この先、田山花袋『少女病』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
少女が大好きな男の話
少女観察
杉田は、少女の観察を趣味としていました。その日も、杉田は出勤するために中央線に乗ります。そして、代々木で乗ってきて杉田の向かいに座った、2人の少女を見ることに必死です。
見ていることがばれないように、よそ見している風にして光の速さで顔を盗み見るというすべを身につけていました。
そうこうしているうちに、千駄ヶ谷(せんだがや)に着きました。杉田は、ここから3人の少女が乗ってくることを知っています。しかし、今日は誰も乗って来ませんでした。
次は信濃町(しなのまち)です。ここからは、あまり少女は乗って来ません。かつて、一度だけとてつもない美少女が乗ってきたことがありました。杉田は「また彼女に会いたい」とは思っていますが、それからは一度も会っていません。
四ツ谷から乗ってきたのは、18歳くらいの美少女。彼女は、杉田の前に立ちました。混んできたので席を譲ろうかと思いましたが、上から見下ろすよりも下から見上げる方が良いので、杉田はそのまま座り続けます。
絶望
杉田は出勤し、むさくるしい職場で陰気な編集長と会話をし、やりがいのない仕事を黙々と続けます。そんなものに苦しめられる杉山がタバコを吸うと、煙はゆらゆら揺れて、先ほど見た少女たちの姿がそれと混ざり、1人の少女になりました。
退勤が近づくと、今度は家庭のことを考えます。結婚して枯れてしまった妻のことを思い、杉田はますます少女へのあこがれを募らせます。
そして、「もう自分は恋をできない。恋をしたいと言っても、美しい鳥を誘う羽を持っていない。もう生きている価値がない。死んだ方がいい」と思うのでした。
最期
帰宅途中、御茶ノ水で別の電車に乗り換えた杉田は、度肝を抜かれます。なんと、そこには前に信濃町から乗ってきて、「もう一度会いたい」と思っていた美少女がいたのでした。彼女は、杉田からは少し離れたところにいたので、杉田は心ゆくまで彼女を見つめます。
そして、「誰の妻になるのだろう」「誰の腕に抱かれるのだろう」と考え、いつだかも分からない彼女の結婚の日を呪うのでした。
電車は混雑していたので、杉田は目を彼女の方に向けたまま、棒につかまって立っていました。市ヶ谷でさらに人が乗ってきたので、車内はすし詰め状態です。杉田は、あやうく電車から落ちそうになりました。
そして、電車が急停車したはずみに、2~3人の乗客が杉田に倒れ掛かって来ます。美少女をうっとり見つめていた杉田は、棒から手を放してしまい、線路に落ちてしまいました。
そのうちに運悪く上りの電車が来てしまい、電車は杉田を引きずって走っていきます。赤い血が、レールを染めました。
『少女病』の解説
美女=悪魔
『少女病』が書かれたと推測される明治40年代、「美人は男を惑わす悪魔だ」という考えが本気で説かれていました。これは、儒教の考えが元になって生まれた説です。
花袋は漢学を学んでいて、儒教の影響を受けた人物なので、「美女=悪魔」の考えを受容していたと考えられます。そのため、『少女病』に登場する美少女たちは杉田を幻惑するように描かれるのです。
また『少女病』は、同じく女学生に心を奪われた男が描かれる『蒲団(ふとん)』につながる小説です。
『少女病』の杉田と『蒲団』の時雄、『少女病』の少女たちと『蒲団』の芳子はリンクしているのです。両者は密接に関係しているので、ぜひ両方読むことをおすすめします。
『少女病』の感想
「少女」にこだわるおじさん
田山花袋は「少女」が好きな作家です。これは、花袋だけでなく自然主義作家の多くに当てはまることだと思います。
自然主義は、人生も終わりに差し掛かった中年のおじさん(『少女病』が発行された1907年頃の平均寿命は44歳なので、中年は現在の60代~70代くらいの感覚です)によって担われていました。
そのため、若くて、生き生きとして、未来があって、はつらつとしている少女へ憧れを抱くのも無理はないと思いました。
ちなみに、自然主義が隆盛を極めていたころ、かの有名な芥川龍之介は若々しい大学生でした。芥川は、暗くて陰湿で罪の告白が重視される自然主義文学に絶望し、それに対立する形で作家活動をスタートさせました。
『少女病』の論文検索
『少女病』の論文は、以下のリンクから検索できます。
最後に
今回は、田山花袋『少女病』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
杉田が考えていることはアウトですが、実際に行動を起こしているわけではないのでぎりぎりセーフと言えます。青空文庫にあるので、ぜひ読んでみて下さい!
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