樋口一葉の処女作である『闇桜』。兄妹のような関係から、突然男女の関係を意識するようになった少女の心の揺れが描かれます。
今回は、樋口一葉『闇桜』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『闇桜』の作品概要
著者 | 樋口一葉(ひぐち いちよう) |
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発表年 | 1892年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 悲恋 |
『闇桜』は、1892年に雑誌『武蔵野』(第一編)で発表された樋口一葉の短編小説です。兄妹のように育った男女が、あることをきっかけに意識し出してしまう様子が描かれています。
「萩の舎(はぎのや)」というところで和歌の勉強をしていた一葉は、朝日新聞専属作家の半井桃水(なからい とうすい)の指導を受け、『闇桜』を執筆しました。古典の要素が盛り込まれた作品です。
著者:樋口一葉について
- 職業女流作家
- 17歳で家を継ぎ、借金まみれの生活を送った
- 「奇蹟の14か月」に名作を発表
- 24歳で死去
樋口一葉は、近代以降初めて作家を仕事にした女性です。美貌と文才を兼ね備えていたので、男社会の文壇(文学関係者のコミュニティ)ではマドンナ的存在でした。
父の死によって17歳で家を継ぐことになり、父が残した多額の借金を背負いました。「奇蹟の14か月」という死ぬ間際の期間に、『大つごもり』『たけくらべ』『十三夜』などの歴史に残る名作を発表したのち、肺結核で亡くなりました。
『闇桜』のあらすじ
千代は、近所でうわさされるほどの美少女です。千代は、隣に住む6歳年上の良之助と仲良くしていました。
あるとき、千代は良之助と縁日に行きます。そこで友達にからかわれた千代は、良之助を男性として意識するようになりました。それから、千代は良之助を避けるようになり、ついに病気になってしまいます。
登場人物紹介
中村千代(なかむら ちよ)
16歳の女学生。隣に住む良之助を兄のように慕う。
園田良之助(そのだ りょうのすけ)
22歳の大学生。千代を妹のようにかわいがる。
『闇桜』の内容
この先、樋口一葉『闇桜』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
恋は盲目
良之助と千代
中村家と園田家は、垣根で隔てたお隣さんです。双方の家からは、井戸端に生えている梅の木が見えます。ある時、園田家の亭主が亡くなったので、22歳の大学生の良之助が家を継ぎました。
中村家には、16歳の一人娘・千代が住んでいました。千代は、近所でうわさされるほど可愛らしい娘です。良之助と千代は、「良さん」「ちいちゃん」と呼び合う仲で、兄妹のように成長しました。
恋わずらい
ある日の夕暮れ、千代と良之助は縁日に出かけます。2人はいつものように楽しく過ごしていますが、その様子を千代の友達が見ています。そして、去り際に「仲が良いこと」と言って去って行きました。
この時を境に、千代は良之助を男性として意識するようになってしまいます。良之助にどう見られているかを気にするあまり、千代はどんどん良之助に近づけなくなってしまい、遂に病気になってしまいました。
千代の病状は悪化していく一方です。そこで千代は、指輪を形見として良之助に渡しました。軒端の桜がほろほろと闇に散り、夕やみに鐘の音が鳴り響きました。
『闇桜』の解説
作品背景
『闇桜』が書かれた明治25年頃は、江戸時代の「色(俗っぽいもの)」が西洋から輸入された「恋・愛(純粋なもの)」に転換した時期です。『闇』は、こうした「恋」の描かれ方が変わる時代、「恋」の形成期に描かれた作品なのです。
千代が劣等感を覚える理由
千代は、「自分は良之助にふさわしくない」と劣等感を抱いています。家柄が悪いわけではないにもかかわらず、千代がそう思う理由は何なのでしょうか?
それは、当時の知識人男性の理想にあります。彼らは、自分と対等に会話ができる知的な女性(学問をしている女性)を求めます。しかし、千代は時代の最先端を行く女性には後れを取っているような人物です。こうした意識が、千代に劣等感を抱かせたのでした。
『闇桜』の感想
当時、女性は従順で大人しいことが理想とされていました。そのため、年頃の女性は男性と2人でいると、その人とただならぬ関係だと思われてしまうのです。だからこそ、千代は友達に嫌味を言われて、過剰に反応してしまったのでした。
恋わずらいで亡くなるというのが、古文のようで面白いです。また、近所のお兄ちゃん的存在だった人を、突然男の人として意識してしまうというのが、少女漫画にありそうな設定だと感じました。
6歳差というのも絶妙で、「ちょっと離れてるかな?」とギリギリ悩むラインなので、千代の気持ちに共感できる人もいるのではないでしょうか。
さらに、一葉の小説はタイトルが素敵なものが多いなと思います。『闇桜』は、単純にタイトルが良かったので読もうと思った作品です。
数少ない女流作家と言うこともあり、他にも『にごりえ』『たけくらべ』『うもれ木』などひらがなを使ったものが多く、とても優雅で可愛らしい題名の作品ばかりだと改めて感じました。
最後に
今回は、樋口一葉『闇桜』のあらすじと内容解説、感想をご紹介しました。
とても短い作品で、ほんの数分で読めてしまうので、ぜひ手に取ってみて下さい!
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