純文学の書評

【谷崎潤一郎】『富美子の足』のあらすじ・内容解説・感想

谷崎のもとに送られてきた手紙にあった、ある画学生の体験が元になっている『富美子の足』。映像化されて話題になった作品です。

今回は、谷崎潤一郎『富美子の足』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『富美子の足』の作品概要

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著者谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)
発表年1919年
発表形態雑誌掲載
ジャンル短編小説
テーマ足への崇拝

『富美子の足』は、1919年に雑誌『雄弁』で発表された谷崎潤一郎の短編小説です。足が好きな老人とが学生が、老人の愛人に没頭する様子が描かれています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。

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2018年には、谷崎の短編を映像化するシリーズ「谷崎潤一郎原案 TANIZAKI TRIBUTE」の一環で映画化されました。現代版にリメイクされており、見ごたえがあります。

著者:谷崎潤一郎について

  • 耽美派作家
  • 奥さんを友人に譲るという事件を引き起こす
  • 大の美食家
  • 生涯で40回以上の引っ越しをした引っ越し魔

谷崎潤一郎は、反道徳的なことでも美のためなら表現するという「唯美主義」の立場を取る、耽美派の作家です。社会から外れた作品を書いたので、「悪魔」と評されたこともありました。

最初の妻・千代子の妹に惹かれていた谷崎は、千代子を友人で作家の佐藤春夫に譲るという「細君(さいくん)譲渡事件」を引き起こしました。また大の美食家で、食には大変なこだわりを持っていた人物です。

さらに、書いている作品のイメージに近い家に移り住み、生涯で40回以上の引っ越しをしました。谷崎は漢文や古文、関西弁を操ったり、技巧的な形式の作品を執筆したりして、日本を代表する作家とされています。

死んでも踏まれ続けたい。谷崎潤一郎の略歴・作風をご紹介80年の生涯で40回も引っ越しをしたり、奥さんを友達に譲ったり、度が過ぎる美食家だったりと、やることが規格外の谷崎潤一郎。 今回は...

『富美子の足』のあらすじ

画学生の主人公は、上京して遠い親戚の老人の家に世話になります。老人の家には、老人の愛人の富美子がおり、主人公は富美子の足に夢中になります。

あるとき、主人公は老人も富美子の足に目がないことに気づき、主人公と老人はそれをきっかけに仲を深めます。

登場人物紹介

画学生(ががくせい)

19歳の主人公。山形県に生まれ、西洋美術を学ぶために上京した。その際、遠い親戚の塚越老人の世話になることになった。

塚越(つかこし)老人

60歳くらいの老人。東京で質屋を営んでいた。いまだに芸者遊びに精を出す。

富美子(ふみこ)

塚越老人に見初められた16歳の芸者。

『富美子の足』の内容

この先、谷崎潤一郎『富美子の足』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

煩悩だらけの老人

美しい富美子

美術を学ぶために上京した画学生は、堀越老人の世話になります。しかし、画学生は癖の強い老人とは距離を置いていました。ところが、ある日老人の元をたずねてみると、そこには見慣れない女がいました。老人の愛人の富美子という女性です。

芸者通いをしている老人は、芸者の富美子に夢中になり、富美子に大金を積んで立派な芸者に育てたのでした。さらにそれだけでは飽き足らず、自分の愛人にしてしまったのです。

 

画学生は、富美子があまりにも美しいのでつい長居してしまいます。富美子のお酌で食事を楽しみ、画学生も老人も上機嫌になりました。そんなとき、老人は画学生に「君は西洋画を習っているから、油絵がうまいんだろう」と言いました。

続けて、「油絵の方が日本画より本当らしく見えるね」と言います。そして画学生は、富美子の絵を描くことになりました。

それから、画学生は富美子の絵を描くために、週に2回ほど老人の家に通います。画学生は、富美子の上半身を書いています。ところが、老人は1枚の絵を見せて「このポーズで描いてほしい」と依頼します。

そこに描かれていた女は、上半身を左の方へ傾け、ほとんど倒れかけている胴体を細い左の腕で支え、縁側から垂れた左の足で地面を踏みながら、右の足をくの字に折り曲げて、右の手でその足の裏を拭いていました。

非常に複雑な構図であるため、画学生には到底描けません。画学生がそう言うと、老人は目を血走らせながら、何度もしつこく頼みます。

富美子からも「この人は気違いなんだから手がつけられないんですよ。真似事だけでもしてやって下さいな」と言われた画学生は、しぶしぶ引き受けます。

 

そして、ポーズをとった富美子を見た画学生は、その姿に目を奪われます。富美子は、どちらが絵か分からなくなるほど、完璧に絵を再現したポーズをとっているのです。

画学生は、はだけた着物からこぼれる足や、程よく緊張した筋肉に感動を覚えるのでした。

極まる老人

老人の趣味を確信した画学生は、老人に足の魅力を語ります。初めは真面目に取り合わなかった老人ですが、次第に打ち解け、遂に「余計なところは描かなくていいから、あの足のところだけ丁寧に写してください」とまで言いました。

<画学生は老人に親近感を覚えるようになり、それから画学生は、老人の家に行っては富美子の足をじっと眺めるようになりました。そして、老人とその魅力について語り合うのです。

 

後日、老人は糖尿病と肺結核の療養のために鎌倉に引っ越しました。そして見る見るうちに衰弱し、医者からは「あと1年持たないだろう」と言われてしまいます。

そのころになると、富美子は寝たきりの老人を置いて「ちょいとあたし、東京まで行ってくるわ」と出かけることが増えました。富美子は、東京の俳優と会っていたのです。

 

老人は時々、富美子を椅子に座らせて、画学生の顔を踏ませました。老人は、それを心ゆくまで眺めます。当の画学生も、富美子に顔を踏まれて至高の喜びを感じるのでした。

やがて老人は、見ているだけでは満足しなくなり、「私の額を踏んでおくれ」と言います。富美子は眉をひそめて、いもむしを踏むかのように嫌そうな顔をして、老人の額に足の裏を乗せました。

老人に食欲はありませんが、富美子が食べさせてくれる時だけは食べ物を口にします。それは、牛乳やスープを浸した綿を、富美子が足の指の間に挟んで老人に与えるというものでした。

 

そして臨終の日、「もうすぐ私は息を引き取る。私が死ぬまで足を乗せておくれ。私はお前の足に踏まれながら死ぬ」と言いました。それから、老人は亡くなるまでの2時間半、富美子に踏まれ続けました。

そして、「ありがとう……」とつぶやき、帰らぬ人となりました。富美子は、そのあと老人の遺産を手にして、恋人の俳優と結婚しました。

『富美子の足』の解説

仏足石

『富美子の足』と親和性があるのは、『瘋癲(ふうてん)老人日記』です。谷崎をモデルにした主人公の老人が、息子の妻に惹かれる物語です。

老人は、息子の妻の足で仏足石(足の型を取った石)を作り、それを自身が死んだときに骨壺の上に乗せることを思い付くほど、足に執着する人物です。

これらのことから、谷崎文学において踏むことと死ぬことの組み合わせは快楽につながると言えます。

『富美子の足』の感想

足への執着

最後のシーンを読んで、こんなに感動しない臨終は初めてだと思いました。想像するだけで、ものすごく異様な光景です。

また、谷崎自身も脚フェチであることは有名ですが、富美子の足の美しさを語る場面の熱量は半端じゃありません。

数ページにわたって、「足の甲は十分に高く肉を盛り上げ」「生えているというよりも、ちりばめられている爪」「丸っこいつやのあるかかと」「象牙のように神秘的な肌」と、ひたすら褒めちぎられています。

画学生と老人の足への執着には、称賛を送りたくなります。

最後に

今回は、谷崎潤一郎『富美子の足』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。

19歳と60歳が、「足」を通して結束する面白い小説です。ぜひ読んでみて下さい!

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yuka
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本が大好きな女子大生です。 図書館にこもって貪るように絵本を読んだ幼稚園児時代、学校の図書室の本を全制覇することを目標にした小学生時代を過ごし、立派な本の虫になりました。
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