純文学の書評

【芥川龍之介】『奉教人の死』のあらすじ・内容解説・感想

キリスト教をテーマにした切支丹物(キリシタンもの)というジャンルの傑作とされる『奉教人の死』。

今回は、芥川龍之介『奉教人の死』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!

『奉教人の死』の作品概要

発表年1918年
カテゴリー短編小説
ジャンル切支丹物

長崎のキリシタンの様子が、京阪地方の話し言葉で描かれています。芥川の小説ジャンル・切支丹物の傑作です。1986年にアニメ化されました。

著者:芥川龍之介について

  • 夏目漱石に『鼻』を評価され、学生にして文壇デビュー
  • 堀辰雄と出会い、弟子として可愛がった
  • 35歳で自殺
  • 菊池寛は、芥川の死後「芥川賞」を設立

芥川龍之介は、東大在学中に夏目漱石に『鼻』を絶賛され、華々しくデビューしました。芥川は作家の室生犀星(むろう さいせい)から堀辰雄を紹介され、堀の面倒を見ます。堀は、芥川を実父のように慕いました。

しかし晩年は精神を病み、睡眠薬等の薬物を乱用して35歳で自殺してしまいます。

芥川とは学生時代からの友人で、文藝春秋社を設立した菊池寛は、芥川の死後「芥川龍之介賞」を設立しました。芥川の死は、上からの啓蒙をコンセプトとする近代文学の終焉(しゅうえん)と語られることが多いです。

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『奉教人の死』のあらすじ

長崎の教会で暮らしているろおれんぞは、熱心なキリスト教信者です。ろおれんぞは、兄のような存在のしおめんと仲良く過ごしていました。

そんな時、傘屋の娘とろおれんぞの間には悪いウワサが立ってしまいます。ろおれんぞは必死に否定しましたが、疑いは晴れなかったため、ろおれんぞは教会から追放されてしまいました。

その後、傘屋の娘の家が火事になってしまいました。そこへ追放されたろおれんぞがやって来て、その正体を明かします。

登場人物紹介

ろおれんぞ

人一倍熱心なキリスト教徒で、教会の人たちから可愛がられている少年。謎が多い。

しおめん

教会で暮らしている少年。ろおれんぞのことを弟のように思っている。

傘屋の娘

ろおれんぞに好意を寄せる娘。手紙を送るなど、猛烈なアピールをする。

『奉教人の死』の内容

この先、芥川龍之介『奉教人の死』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。

一言で言うと

殉死(じゅんし)した少年の話

ろおれんぞ

長崎のさんた・るちあという教会に、ろおれんぞという美少年がいました。彼は、教会の前で倒れているところを宣教師に助けられ、その後さんた・るちあで世話になっているのでした。

ろおれんぞは熱心な信者なので、教会の人たちから愛されます。しおめんも、ろおれんぞのことを弟のように可愛がりました。ろおれんぞは出自について聞かれると、故郷は天国、父親はゼウスなどと答える変わった少年でした。

追放

数年が経ち、「ろおれんぞと教会に通う傘屋の娘が、密かに仲良くしている」という悪い噂が立ってしまいます。娘の方が彼に熱心でしたが、ろおれんぞは全くその気はありませんでした。

そのためろおれんぞは、しおめんや宣教師たちに「手紙をもらっただけで、口を利いたこともない」と涙ながらに釈明します。

しかし、その後まもなく娘が身ごもり、彼女は「父親はろおれんぞだ」と言いふらします。そしてろおれんぞは罪に問われ、教会から追放されてしまいました。ろおれんぞは、再び街をさまようようになります。

ろおれんぞは実は……

そんなある日、街で大きな火事が起こりました。傘屋もそれに巻き込まれ、娘はなんとか逃げ出します。しかし、子供を家の中に置き去りにしてしまったことに気づいてパニックになります。

そこにろおれんぞが現れて、炎の中に飛び込みました。彼を見た人々は、「あの子供は、やはりろおれんぞの子だったんだ」と確信します。そして子供を助け出したところで、ろおれんぞはがれきの下敷きになって重傷を負ってしまいます。

そのとき、傘屋の娘は「実は子供の父親はろおれんぞではなく隣の家の男であること」と、「自分の気持ちに応えてくれない、ろおれんぞへの腹いせで嘘をついたこと」を告白しました。焼けたろおれんぞの着物からは、2つの玉のような乳房が現れました。

『奉教人の死』の解説

芸術至上主義

芥川の芸術至上主義の傾向が色濃く出ているのは、『戯作三昧(げさくざんまい)』『地獄変(じごくへん)』『奉教人の死』です。芸術至上主義とは、芸術に価値を置いて、道徳的なことや実用的なことを無視する考え方のことです。

当初、芥川はろおれんぞを病気で死なせることを考えていました。ところが、最終的には視覚的に訴えることを選んだのです。燃え上がる炎の中でろおれんぞが死んでいく様子は、非常に印象的です。このモチーフは、前作の『地獄変』と類似しています。

芥川は、不当に扱われたろおれんぞの身の上ではなく、殉教の「一瞬の感動」を描いたのです。

細川 正義「芥川龍之介『奉教人の死』論 : キリスト教への関心の意義において」(人文論究 2016年5月)

『奉教人の死』の感想

本作は、『聖マリナ』という話をもとに執筆されました。あらすじはほぼ同じですが、1番大きな違いは『聖マリナ』では始めからろおれんぞは女性だと分かっていることです。

物語的には、最後に素性がわかった方が面白いですが、そうすることによってさまざまな疑問が湧いてきます。

 

まず、なぜろおれんぞは女性であることがバレなかったのか疑問に思いました。ろおれんぞは元服(げんぷく。成人すること)をするくらいの年という記述があるので、15歳前後だとわかります。

そのくらいの年頃なら、体格や声に男女差が出るはずですが、そこについては特に触れられていません。

ろおれんぞは、しおめんと比較されて華奢(きゃしゃ)であることを強調されているので、もしかしたら女の子っぽい男の子で通っていたのかもしれないと思いました。

 

また、ろおれんぞは出自について意味不明なことを言っているので、結局正体は分からないままです。そもそもなぜ性別を偽っていたのかも不明なので、今後さらに検討する必要があると思いました。

最後に

今回は、芥川龍之介『奉教人の死』のあらすじと感想をご紹介しました。

私は、高校生の時に現代文の問題として初めて読みました。まさかすぎる結末に気を取られて、問題を解くどころではなくなったのを覚えています。謎の多い小説なので、何度でも味わえる作品です!

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「純文学を身近なものに」がモットーの社会人。谷崎潤一郎と出会ってから食への興味が倍増し、江戸川乱歩と出会ってから推理小説嫌いを克服。将来の夢は本棚に住むこと!
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