『山月記』で有名な中島敦ですが、実は『悟浄出世(ごじょうしゅっせ)』も彼の代表作です。
今回は、中島敦『悟浄出世』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『悟浄出世』の作品概要
著者 | 中島敦(なかじま あつし) |
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発表年 | 1942年 |
発表形態 | 書き下ろし |
ジャンル | 連作小説 |
テーマ | 自分探し |
『悟浄出世』は、1942年に『南島譚(なんとうたん)』で発表された中島敦による書き下ろしの連作小説です。
沙悟浄の過去が描かれており、『悟浄歎異(ごじょうたんに)―沙門悟浄の手記―』と連作になっています。Kindle版は無料¥0で読むことができます。
著者:中島敦について
- 教師を経て小説家になる
- 冷静な自己解析が特徴
- 『李徴』で知名度を上げた
- 33歳で病死
中島敦は、東大を卒業後に教師をしながら小説を書き、そのあと専業作家になりました。懐疑的で、自己と向き合う作風が特徴です。遺作となった『李徴』が高く評価され、それが中島敦の評価に繋がりました。1942年に持病のぜんそくで亡くなりました。
『悟浄出世』のあらすじ
流沙河(りゅうさが)の底に、悟浄という妖怪が住んでいました。悟浄は、「自分とは何か」という疑問を持っており、その謎を解明するためにさまざまな賢人に会いに行きました。
しかし、悟浄は納得する答えを得られませんでした。そんなとき、悟浄は玄奘法師と出会います。
登場人物紹介
悟浄(ごじょう)
流沙河に住む妖怪。「なぜ」と問い続ける病気にかかってしまい、賢者に教えを乞うために旅に出る。
黒卵道人(こくらんどうじん)
幻術の大家。魚の顔と人間の体を持つ。
沙虹隠士(しゃこういんし)
年寄りのエビの精。悟浄に哲学を教える。
坐忘先生(ざぼうせんせい)
座禅を組んだまま眠り続け、50日に1度目を覚ます妖怪。
玄奘法師(げんじょうほうし)
2人の弟子を連れて西を目指している。悟浄の前に現れて悟浄を救う。
『悟浄出世』の内容
この先、中島敦『悟浄出世』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
中島敦の西遊記
悟浄、旅に出る
流沙河の川底には、1万3千の妖怪が住んでいました。そこに住む悟浄は、穴にこもって食事もとらずに考えごとにふける妖怪です。悟浄は、自己に不安を感じ、後悔にさいなまれていたのでした。他の妖怪たちは、悟浄を「病気だ」と笑います。
悟浄の異常な様子を見た魚怪は、「悟浄は物事を素直に受け取れず、「なぜ」と問い続ける病気にかかってしまった」と言いました。そして、「厄介なのは、この病人が「自分」というものに疑いをもつことだ」と続けます。
苦しみに耐えきれなくなった悟浄は、賢人に教えを乞うために旅に出ることにしました。
物知りたち
悟浄は、まず、黒卵道人という幻術の大家のところに向かいます。3ヶ月のあいだ黒卵道人に仕えましたが、実用的な話しかしてくれないため、悟浄は失望して黒卵道人のもとを去りました。
次に向かったのは、沙虹隠士のところです。沙虹隠士は、「自己が死んだら世界はなくなる」と説きます。
坐忘先生のもとに行った悟浄は、「我とはなんでしょう」と問います。坐忘先生は、「食を得ぬときに空腹を覚えるものがお前じゃ。冬になって寒さを感ずるものがお前じゃ」と言いました。
その後も多くの妖怪たちの話を聞きましたが、妖怪によって言っていることはまちまちで、何を信じればよいのか分からなくなってしまいました。
5年も旅をしているのに、悟浄は一向に自分が賢くなった気がしないのです。自分に中身がなく、ふわふわしているような感覚に陥りました。
悟浄は、女偊氏(じょうし)のもとに向かいます。女偊氏は悟浄に語りかけ、悟浄はそれを受け止めますが釈然としません。悟浄は帰路につきながら、「誰も彼も、えらそうに見えたって、実は何一つわかってないんだな」と思うのでした。
玄奘法師との出会い
悟浄は、自分がこれまでリスクを恐れすぎていたことに気が付きます。さらに、悟浄は自分では「世界の意味」を探し求めていたつもりでしたが、実は「自己の幸福」を捜していたことに気づいたのでした。
疲れ果てた悟浄は、死んだように眠ります。眠りから覚めた後、悟浄はその辺を泳いでいた魚をほおばり、酒を飲みます。そのとき、悟浄の前には菩薩(ぼさつ)が現れます。
そして、「今年の秋、この流沙河を玄奘法師(げんじょうほうし)と2人の弟子が通る。お前も玄奘法師に従って西に行きなさい」と言いました。悟浄は、「夢が救いになるはずがない」とそれを信じませんでした。
ところが、その年の秋に悟浄は玄奘法師の力で人間になったのでした。しかし、昔の病が抜けていない悟浄は、「どうもへんだな。どうも腑に落ちない。うまく納得がいかぬ。以前ほど、苦にならなくなったのだけは、ありがたいが……」と言うのでした。
『悟浄出世』の解説
テーマについて
『悟浄出世』を理解するキーワードは、「行為」です。『悟浄出世』では、とにかく行動することが肯定されています。
賢人に意見を聞いて回った悟浄は、結局納得のいく答えを得られませんでした。これは、単に「聞いている(受動的な行為)」だけで「行動(主体的な行為)」していなかったからです。
そのため、旅を終えても苦悩する悟浄は、人間が行為の一歩手前で足踏みしている様子を表していると言えます。しかし、玄奘法師について一緒に行動するようになった悟浄は、それによってようやく救われるのでした。
『悟浄出世』の感想
教訓
生真面目な沙悟浄の過去が描かれていて、非常に面白かったです。細田守監督の『バケモノの子』の題材になった作品でもあるため、映画を想像しながら読みました。
『西遊記』をきちんと読んだことはなかったのですが、知らなくても十分楽しめる作品だと感じました。悟浄が最後に気づいた「リスクを恐れて行動しないのはいけない」という教訓が印象的でした。
最後に
今回は、中島敦『悟浄出世』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
西遊記では、孫悟空の過去は語られても沙悟浄に過去は語られてないので、『悟浄出世』ではもう一つの西遊記を楽しむことができます。ぜひ読んでみて下さい!
↑Kindle版は無料¥0で読むことができます。