今回は、村田沙耶香のおすすめの本を6冊ご紹介します!
村田沙耶香ってどんな人?
- 日本の小説家、エッセイスト
- 玉川大学文学部卒業
- 2003年に『授乳』で群像新人文学賞優秀賞受賞。
- 人生で一番読み返した本は、山田詠美『風葬の教室』
村田沙耶香は、1979年生まれの小説家、エッセイストです。玉川大学を卒業後、『授乳』でデビューしました。
山田詠美の『風葬の教室』から影響を受けています。ヴォーグな女性を賞する「VOGUE JAPAN Women of the year」に選ばれたこともあります。
初級編
「有名な作品を読みたい!」「話振られたとき困らないように、代表作を知っておきたい!」という方向けに、読んでおけば間違いない作品を4冊紹介します。
『コンビニ人間』
著者 | 村田沙耶香(むらた さやか) |
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発表年 | 2016年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 普通とは何か |
『コンビニ人間』は、2016年に文芸雑誌『文學界』(6月号)で発表された村田沙耶香の短編小説です。36歳未婚の主人公が、コンビニのアルバイトとして生きる様子が描かれています。
「普通とは何か」を問いかける作品です。作者がコンビニでアルバイトをしていた経験が元となっています。
あらすじ
古倉恵子は、就職をせずにコンビニのアルバイトで生計を立てていました。変わり者の恵子は上手く社会になじめませんでしたが、コンビニで働いているときだけは「普通の人」のように振舞えるのです。
そんな時、恵子はかつてのバイト仲間・白羽と再会します。そして、利害が一致した2人は同棲することになりました。その後コンビニ店員という肩書を捨てるべく、恵子は本格的に就職活動を始めるのでした。
感想
一般的に、世間のコンビニ店員のイメージは可もなく不可もなくという感じで、「誰でもできる簡単な仕事」「アルバイトが基本で人の入れ替わりが激しい仕事」とそこまで高い評価を受けているわけではないと思います。
ところがコンビニと全身全霊で向き合う恵子を見ていて、コンビニ店員へのイメージが変わりました。どんな仕事でも惰性ではなくポリシーを掲げて意欲的に取り組めば、語れる職業になるのだと感じました。
『殺人出産』
著者 | 村田沙耶香(むらた さやか) |
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発表年 | 2014年 |
発表形態 | 書き下ろし |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 生と死 |
『殺人出産』は、2014年に発表された村田沙耶香による書き下ろしの中編小説です。「10人産めば、1人殺してもいい」という、「殺人出産制度」が認められた世界に生きながら、それに複雑な思いを抱く主人公の内面が描かれています。
あらすじ
今から100年前、殺人は悪とされていました。しかし、10人産む代わりに合法的に殺人ができる「殺人出産制度」が海外から輸入され、日本でも普及し始めました。
従来の価値観から新しい価値観に移り変わる過渡期を生きる育子は、ある秘密を抱えているため、その価値観を上手く受け入れられずにいました。そんなとき、育子は育子と同じ考えを持つ女性と出会います。
感想
「10人産んだら1人殺せる権利を与えられる」という殺人出産制度は、合理的で斬新な制度だと思いました。突き詰めて考えると、殺人が禁止される根本な理由はないのではないかと思うからです。
現在は、法律が殺人を禁止していますが、近世において武士は無礼を受けた場合に人を殺せる権利を有していました(斬捨御免)。「なぜ人を殺してはいけないか」という問いは、最終的に倫理や道徳にたどり着くでしょう。
しかし、その倫理観も「簡単に殺し合っていたら発展しなくて困る」と感じた人間によって後から作られたもので、殺人が禁止される根拠にはならないのではないでしょうか。
このように、殺人を絶対悪とする理由が分からないままでいました。ところが「正しい手続きを踏めば、合法的に人を殺せる」という殺人出産システムを知り、腑(ふ)に落ちた感じがしました。
もちろん、産み人から生まれた子供が増えることで、同じ遺伝子を持った子供が大量に生まれるなどの弊害があるため、殺人出産制度は現実的な制度ではありません。一方で、望まない妊娠で苦しむ女性がいなくなる側面もあります。
いずれにせよ、誰も思いつかないような面白い発想だと思いました。
『生命式』
著者 | 村田沙耶香(むらた さやか) |
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発表年 | 2013年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 常識は変化する |
『生命式』は、2013年に文芸雑誌『新潮』(1月号)で発表された村田沙耶香の短編小説です。死者の肉を食べ、その集まりをきっかけに命を授かる新しい葬式の形が提示されます。
あらすじ
真保が生きる世の中は、人が亡くなったときに「生命式」という儀式を行うことがスタンダードです。
生命式では亡くなった人間を調理して食べ、男女がその場で相手を探して受精を行うまでが一連の流れです。人口増加が目的で、生命式後の受精は神聖なものとして扱われています。
真保はそんな世の中の風潮についていけず戸惑いますが、ある人物の生命式に参加したことをきっかけに価値観が大きく変わっていくのでした。
感想
真保は幼少期に食べたいものは何かという話で「人間」と答え、大人から叱責されました。
しかし、人口減少に伴って人口増加を目的とした生殖がもてはやされ、生命式という儀式が一般的になった世の中で、時代の波に乗れていない真保は少数派になってしまいます。
かつて「人間を食べる」という真保の発言を非難した人たちが、30年後当たり前のように生命式で人間を食べる(人食を受け入れる)という手のひら返しに、真保はついていけませんでした。
タブーだったカニバリズム(人肉を食べること)が常識になり、セックス(「厭らしいもの」)が生殖(「神聖なもの」)のための手段になる。
『生命式』には、世界がこうして変化し続けることや人間がその変化に染まって順応していく過程が描かれていると思いました。
『しろいろの街の、その骨の体温の』
著者 | 村田沙耶香(むらた さやか) |
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発表年 | 2012 年 |
発表形態 | 書き下ろし |
ジャンル | 長編小説 |
テーマ | 価値観の獲得 |
『しろいろの街の、その骨の体温の』は、2012年に発表された村田沙耶香による書き下ろしの長編小説です。開発が進むニュータウンを舞台に、中学2年生の少女が閉鎖的な教室での戦いを経て成長する様子が描かれています。野間文芸新人賞受賞作です。
あらすじ
主人公の結佳は、開発が打ち切りとなって墓場のようになってしまった街の中学校に通っていました。そして、クラスに5つあるグループの中で下から2番目の集団に属しています。
結佳は表面上は大人しい女の子を演じていますが、心の中では自意識過剰なクラスメイトをバカにしていました。
さらに小学校からの友人の伊吹との関係に悩みつつ、「大人になること」を模索します。そして、教室という枠から飛び出したときに結佳はあるものを手に入れるのでした。
感想
『しろいろの街の、その骨の体温の』は、自意識過剰な少年少女が押し込まれている中学校ならではの、妙な雰囲気が忠実に再現されている小説だと思いました。結佳と信子ちゃん、若葉ちゃんの関係が、小学校と中学校で対比されているのが残酷です。
この作品には、クールに振舞いながらも自分の見え方を執拗に気にしている男の子や、逆に結佳のように自己嫌悪に陥っている女の子が描かれています。
「あんたくらいの子は、自分のことを世界で一番醜いと思ってるか、可愛いと思ってるか、どっちかなんだから」という結佳の母親の言葉が的確で、「他人は、そこまであなたのこと見てないよ」と言いたくなるような子供たちが登場します。
作者の村田沙耶香は、インタビューで「朝、挨拶するタイミングも、教室に入るときに『おはよう』か、机についてから『おはよう』がいいのかと悩みに悩んで、けっきょく黙って座ってしまうような感じだったんです」と語っています。
作者自身、相当「気にし過ぎる」人物だったようです。こういう作者だからこそ、途中で読むのが嫌になるくらいリアルな、2年E組の内部を描き出せたのだと思いました。
中級編
「代表作一通り読んで、もっと他の作品も読んでみたくなった!」という方向けに、定番からは少しそれた作品をご紹介します。
『街を食べる』
著者 | 村田沙耶香(むらた さやか) |
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発表年 | 2009年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 変化する価値観 |
『街を食べる』は、2009年に文芸雑誌『新潮』(8月号)で発表された村田沙耶香の短編小説です。
あらすじ
東京の野菜が嫌いな理奈は、子供のときに食べた田舎の野菜の味を思い出したことで野草を摘むようになります。
初めは人目をはばかり野草を摘む自分の姿に辟易し、摘んだ野草も食べられる代物ではなく落胆しますが、あることをきっかけにその魅力に目覚めて街を食べる感覚に夢中になるのでした。
感想
村田沙耶香の作品を読むとき、物事と物事の境目を考えることが多いと感じます。本作で言うと、なぜ「山を食べる」はノーマルで「街を食べる」はおかしいのか。
そして村田作品の根底にあるのは、「私たちは矯正されている」という意識です。上記ように事象と事象の境界線を考えることから出発して、私たちはその境界線という名の常識を妄信している事実がまず明かされます。
それから、信じていた常識が実は何ものかによって作られたものであることが示されます。無意識的に当たり前と思っていたことは、自分以外の何かによって内面化されていたに過ぎないのです。
その境界線、すなわち常識を形作っているのは世論です。だからこそ境界線は変わっていく、つまり「常識は変化する」のです。
このように、「世論によって形作られ、故に変わることが確かなあやうい常識を、私たちはさも自分にとって当たり前のことかのようにごく自然に取り入れてしまっている」というのが、村上作品を貫く1つの軸だと思いました。
『タダイマトビラ』
著者 | 村田沙耶香(むらた さやか) |
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発表年 | 2011年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 中編小説 |
テーマ | 家族 |
『タダイマトビラ』は、2011年に文芸雑誌『新潮』(8月号)で発表された村田沙耶香の中編小説です。冷めた家庭で育った主人公が、家族の制度そのものに疑問を抱き、全く新しい境地にたどり着くまでが描かれています。
あらすじ
家族からの愛を受けずに育った恵奈は、小学生のころから家族欲を発散するために「カゾクヨナニー」という行為を繰り返していました。そして、「本当の恋をして本当の家を見つけ、今の仮の家から早く出たい」と強く思うようになります。
高校生になって恋人ができた恵奈は、本当の家がもうすぐ手に入ると喜びます。ところが、恵奈は衝撃的な事実に気づいてしまうのでした。
感想
序盤で、恵奈が「帰るためのトビラ」を探していたり、母性のない母親の存在が語られていたりしていたため、最初は恵奈が自分探しをする物語なのかと思いながら読み進めました。
しかし恵奈が覚醒してからは、怒涛(どとう)の勢いで読者を独特の次元の世界に連れて行く語りが繰り広げられていて、ページをめくる手が止まりませんでした。
これまで家族の多様性について考えることはありましたが、家族の制度そのものを疑ったことがなかったため興味深かったです。
また、「幸せな家族の中にいる喜びに浸ること」をカゾクヨナニーと名付けて自慰に見立てるのが秀逸で、これ以上にない気持ち悪さを感じました。これは、冷めた家庭で育った恵奈だからこその発想だと思いました。
最後に
今回は、村田沙耶香のおすすめの本を6冊ご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!