17歳ながら、男女の関係を知っている大人びた女子高生の恋愛観が語られる『Body Cocktail』。
今回は、山田詠美『Body Cocktail』のあらすじと内容解説、感想をご紹介します!
Contents
『Body Cocktail』の作品概要
著者 | 山田詠美(やまだ えいみ) |
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発表年 | 1998年 |
発表形態 | 雑誌掲載 |
ジャンル | 短編小説 |
テーマ | 人を愛すること |
『Body Cocktail』は、1998年に雑誌『Olive』(2月号~4月号)で発表された山田詠美の短編小説です。
著者:山田詠美について
- 1959年東京生まれ
- 『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞
- 『ジェシーの背骨』が芥川賞候補になる
- 数々の作家に影響を与えている
山田詠美は、1959年生まれ東京都出身の小説家です。『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で第97回直木賞受賞しました。また『ジェシーの背骨』は、受賞こそ逃したものの第95回芥川賞候補になりました。
多くの作家に影響を与えており、『コンビニ人間』『しろいろの街の、その骨の体温の』で知られる村田沙耶香は、「人生で一番読み返した本は、山田詠美『風葬の教室』」と語っています。
『Body Cocktail』のあらすじ
登場人物紹介
私
17歳の高校生。大人びた同級生・カナに憧れている。幼い頃に両親が離婚し、父親と暮らしている。
カナ
同じ年齢の女の子より数歩先を行く恋愛をしている少女。カナを慕う主人公にやさしく接する。
『Body Cocktail』の内容
この先、山田詠美『Body Cocktail』の内容を冒頭から結末まで解説しています。ネタバレを含んでいるためご注意ください。
一言で言うと
「大人びている」の内実
少女から女性になったカナ
私と同い年のカナは、日常的に色々な男の人とベッドに入る子です。そしてカナはいわゆるクラスで人気のある可愛らしい女の子とは違って大人びていて、私はそんな彼女に惹かれています。
クラスの女の子たちは、彼との関係の進捗をわいわい騒ぎ立てますが、カナは決して自分と男の人たちのことを彼女たちのように話したりしません。
しかし、カナは足首につけているアンクレットがシーツの上でさらさら揺れると綺麗なことを、私には教えてくれるのでした。
そして周囲の女の子と群れないカナは、いつもひとりで独立しています。妹のような存在や、連れだって歩く仲間を持たないのです。
おいしいカクテル
あるとき、カナはヴァレンタインに彼からもらった繊細なブレスレットを私に見せ、「お返しをしたいけど、何をあげてよいか解らないの」と言います。提案などだいそれたことをできない私は黙っていました。
後日、ヴァレンタインのお返しをしたのかと問うと、カナは「まだなの。でも、もう用意は出来たわ」と憂うつな顔で答えます。訳を聞くと、カナは「私、学校を止めちゃおうかな」と打ち明けました。
「そんな!?どうして!?その人のためにじゃないでしょ」「ううん、違う」「じゃ、どうして」「私、赤ちゃんが出来たのよ」
私は驚き、静かな調子で男の人とベッドに入るカナには妊娠が似つかわしくないと思いました。
「パパとママが別れた時、子供の私は愛の結晶でもなんでもなかったわ」と言う私に、カナは「他人同士があやういもので結ばれてるのって、すごく繊細なことだと思うの。そうね、お酒のカクテルみたいなものかもしれないって近頃、思う。一種類のお酒だけじゃ、強くて飲めないけど、甘いのやら、苦いのやらを混ぜると、おいしいカクテルになるでしょ」と語ります。
そして自分のおなかを指さして「ここに、今、あるのよ、おいしいカクテルが。私、まだ、それを捨てたくない」と言いました。
私はカナの手首の金の鎖を見ながら泣き、私も、父と母のカクテルだったのだろうかと考えました。
『Body Cocktail』の解説
右へならえはかっこ悪い
作者は、文庫版のあとがきで「若いということは、はっきり言って無駄なことの連続です。けれど、その無駄使いをしないと良い大人にはならないのです」と述べています。
失敗、回り道、無駄なことが経験になり、中身のある人間になるということと解釈しました。
こうした生き方を体現しているのが、山田詠美『ぼくは勉強ができない』の秀美です。秀美はバーで働く年上の女性と付き合っている17歳の高校2年生です。この作品に登場する人物たちの価値観は、「ガリ勉はつまらない」です。
そして、秀美は勉強こそ苦手ですがクラスの人気者で賢い青年です。下記に引用するのは、秀美の恋人や友人の言葉で、勉強では養えない経験をしている秀美について語ったものです。
秀美くんは、学校の勉強は出来ないけど、違う勉強が出来てるのよ。決して、お馬鹿さんじゃないわ
私は、大学生なんて、だいっ嫌いだけど、大学生になった秀美のことは、好きになるって確信がある。何故って、あんたは、きっと、人とは違う勉強家になるって思うから
こうした秀美の人としての魅力は、恋愛にうつつを抜かしたり、突発的に学校に行くのと逆の電車に乗ってみたり、秀美が行う無駄に担保されています。
「もとから、男の人と寝ることだってこの年齢では早過ぎるのよ」というカナの言葉通り、17歳にして経験豊富なカナに対して大人は良い顔をしないでしょう。この点で、カナと秀美は共通しています。
カナの勉強の出来不出来の話はされていませんが、主人公が「私、カナのように男の人とつき合いたいな」「私は、カナを見るのが好きだ。他の子たちは、大人びた彼女を敬遠しているけれど、私の目はいつも彼女のところで止まってしまう」と語っているように、主人公は大人びたカナをリスペクトし、彼女の人間性に惹かれています。
カナのこの不思議な引力も、カナが教科書通りの教えから逸脱していることから来るのでしょう。
『Body Cocktail』の感想
確固たる「わたし」
カナは、17歳という年齢に似合わない大人びた精神を持ち合わせており、同年代の子とは違い他者と群れることなく独立しています。
そして主人公が「彼女は、妹のような存在や、どこかに連れだって歩く仲間のような友だちを持たない」と語っているように、カナは馴れ合いをしないため親しみやすさにやや欠ける印象です。このように、カナには独立、自立というイメージがついています。
ふつう妊娠が発覚した高校生は、産むか産まないか、学校を卒業するか辞めるか、そんな選択に苦悩するでしょう。そして家族や友達には何と言おう、恋人は受け入れてくれるだろうかと不安になるのではないでしょうか。
しかしカナは、産むことを決めた上で、さらに自身の体が子供を産めるほど丈夫かどうかを心配するほど先を見ている人物です。
等身大の高校生である主人公が憧れるほど大人びているカナですが、カナは教科書から学ぶことができない恋愛に全力だからこそ、一般的な17歳の数歩先にいるのだと思います。
最後に
今回は、山田詠美『Body Cocktail』のあらすじと内容解説・感想をご紹介しました。
ぜひ読んでみて下さい!